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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
17/90

013

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 キセトたちがミラージュの討伐に向かっている間、連夜れんやは一人でフィーバーギルドを訪ねていた。

 キセトほどではないが連夜もまた、帝都の中では嫌われている方の人間だ。その連夜が昼から堂々とフィーバーギルドを訪ねたせいで、ギルド内は陰口で満たされている。ただでさせも情報屋ギルドに入る者たち。そういう噂などが好きな者ばかりなので、すぐにギルド中に連夜の訪問は広がる。連夜が誰を訪ねたかすらも。


 「このおれを訪ねてくるとは……。また焔火ほむらび君のことか、連夜」


 「それ以外にあるわけ無いだろ。『病弱』もしくは『篠塚しのづか晶哉しょうや』っていう言葉なかったか?」


 「ちょっとまてっ!『篠塚晶哉』は初めて聞く言葉だぞ!!」


 「言ってなかったっけ?まっ、どうでもいいや。で、情報は?」


 「ふざけるなと、言いたいところだがお前はそういう男だよ……」


 連夜が満足気に微笑む。連夜が訪ねた相手、夏樹なつき冷夏れいかは呆れながらも連夜と同じ席に着く。そもそもこの個人的な依頼を請け負った時点で、振り回されることは夏樹も想像できていたことだ。


 「『病弱』ほどではないけど、焔火ほむらび君が不知火しらぬい側シャドウ隊にいた頃は付きっ切りの担当医がいたという情報だ。ただこの情報に確証はない。不知火の情報管理は完璧でな。外からでは手がつけられん。確証を得たいのであれば不知火に入り込むしかない」


 「担当医か。名前とかはわからないのか?」


 「それが誰も彼を、あぁその医者は男なんだが、彼を名前で呼んでいない。それに焔火君が不知火を去ってからのその医者の行動も不明だ」


 「分からずじまい、ってかー。まっ、篠塚晶哉にたどり着かない限りそんなもんだよな。依頼は終了だ。お礼に一つ教えてやるよ」


 情報屋である夏樹にとって依頼を終了できるほどの情報は渡せていない。実際に連夜が掴んだ情報は担当医がいたということだけである。それは「焔火キセトの過去」を調べるように依頼された情報屋として、何かが成し遂げられたとは決して言えない量だ。

 つまりここで終わるということは、連夜は夏樹に戦力外だと言っているということ。それだけではなく、その情けない仕事にお礼までするというのだ。これ以上関わるなと言外に言われているようなものである。

 さすがに夏樹の表情が曇った。夏樹のフィーバーギルド隊長としてのプライドがここで打ち切られることを許さないのである。


 「そんな顔するなよ。美人さんが勿体ないぞ。これは戦力外通知じゃない。期待してるからこそ、ちょっとしたヒントをお礼でやる。そこから進んでみろよ。冷夏嬢ならたどり着くだろうって思ったからこそ、オレたちの脅威となってくれると思ったからこそ、オレの気まぐれで与えるヒントだ。隠してる側として、知らないところで探られるより、知っているところで探られるほうが安心できる」


 「ほう。あくまで連夜がヒントを与える側だと言いたいわけか」


 ここで夏樹が初めて笑った。自分に与えられたゲームを楽しむように。


 「今は連夜の手のひらの上で踊らされているだけでいい。おれは情報を手に入れて、その情報を自分で判断する。情報屋の新しい在り方を求めていく。質も大切だが量が必要だ。おれの目的の一環として、おれの目的のために、連夜たちのことを調べさせてもらう。それでいいんだな?」


 「まぁ、そういうことかもな。オレは馬鹿だから情報屋がなんたらってのはわかんねーけど。じゃヒント、と行くか。ヒントは『りょうしん』」


 「りょうしん?両親、良心。親のことを言っているなら調べようがあるが、心のことを言っているのなら質問するしかないな」


 「あっもう一つの可能性も考えてくれよ。オレが馬鹿だからヒントが間違っているという可能性もな。じゃ、頑張れ。オレはオレで動くよ」


 たった一言だけのヒントを残しただけで夏樹が止める暇もなく連夜はその場を離れた。そもそも今、連夜にとってフィーバーギルドを訪れている暇などないのだ。

 キセトをミラージュの件に同伴させ、連夜はその間に悟られることなく自由に動く。それが目的で非戦闘員登録のキセトをわざわざ同伴させたのである。


 「んー。篠塚晶哉、ねー。もう一回志佳しか嬢訪ねるしかねーかなー」


 一人呟きながら裏路地を目指す。

 ふっと微笑みながら裏路地の門の目の前に立つ。ここで待っていたら現れるだろうと思ったのだ。あの日、連夜の帰り道を案内した長身の男に。


 「まっ、オレの気のせいだってこともありえる。ここで時間だけ潰しちまうならフィーバーギルドで冷夏嬢に媚売ったほうがまだ儲けもんだよな」


 峰本連夜という男は自分の行動の殆どを勘で決める。

 自分は馬鹿だと自覚しているからこそ、本能というものや感性で次の行動を決める。そのほうが自分に利益になると分かっているのだ。だからもう次はないだろう、キセトがいないチャンスを自分の勘にすべて賭けることができる。連夜は自分の友人すら信じない代わりに、自分のことだけは絶対的に信じることが出来るのだ。

 必ず来ると確信していたし、来ないときのことは考えていなかった。ただあの長身の男が来たとき、自分が発するべき正しい言葉についてずっと考えていた。


 「……考えれば考えるほど分からん。やっぱ馬鹿は頭を使わないほうがいいのかもなぁ」


 そして、連夜の勘はあの長身の男が来る、というだけではない。

 静葉たちに篠塚晶哉という男が黒幕かもしれないと話したとき、アークだけがわずかに顔をしかめた。皆がそれぞれ自分の思考に耽っていたときなので誰も気づいていなかったが、アークにしては珍しく、嫌悪感をあらわにしていたのだ。

 あとで連夜がアークを問いただしてみると、顔見知りだという。ただの顔見知りにアークがあれほど嫌悪感を抱くと思えなかったが連夜はそこはあえて聞かなかった。代わりに篠塚晶哉という男の外見を聞いておいたのである。


 「百八十後半と思われるほどの長身。黒髪。あほ毛。髪は一つに緩く括っている長髪。いやって程当てはまるんだよな」


 まず連夜以上の長身というだけでそうはいない。それに案内されたときはフードのせいで長髪までは確認できなかったが髪の色は確かに黒に近かったはずだ。

 ただ、夜だったせいでそれも絶対とはいえない。連夜が思っているほどは当てはまっているわけでもないのだが、連夜にとっては自分の勘という補強がはいり、すでに絶対の案となっていた。


 「だとしたら志佳もひどいよな。探せとか言っといてその本人に道案内させるとか。……いや、あの男言ってたな。自分が求めた情報の見返りだって。篠塚晶哉が求めた情報ってのも気になる」


 「峰本連夜。こんなとこで何をしている」


 「うおぉっ!?志佳じゃねーかっ!脅かすなよ!」


 「この前の分の酒か?うまいんだろうな?見たところ持っているようには見えないが……」


 「あっ、わりぃ。あんたに会うつもり無かったから忘れてたわ。志佳が外に出てるのも珍しい。うまい酒を出す店にでも行くか?いい店知ってるぜ?」


 志佳がふわりと笑い、その笑みを見て連夜が驚愕の表情を浮かべる。先ほどまで連夜が偽物としか思えない作り笑いの微笑みで、志佳が不機嫌そうな表情だったので、一瞬で入れ替わったかのようにも見えた。


 「あ、あんた……、笑えるんだな」


 「最近は【トレース】ばかりしていたからだろう。私は現役時代、この微笑が売りだった」


 「とれーす?それはおいしいのか?」


 「食べることしか頭に無いのか、連夜は。【トレース】というのは私の十八番の魔法だ。気にするな。水が溜まった井戸から水をくみ上げるがごとく、情報が溢れるこの世の中から情報をくみ上げる方法なのだ。私なりのな」


 「じゃ、オレがお気に入りの酒屋なんてすでに知られてるか」


 再び連夜が作り笑いを浮かべ、志佳も応えるように微笑む。

 連夜は詳しくは知らないが、志佳は先代のフィーバーギルド隊長を務めたほどの優秀な情報屋である。今は隠居した身として裏路地で生活し、表世界から姿を消したが、その優秀さは裏路地でもすでに隠しきれていない。実際に表世界で活躍する連夜を始め、裏路地にまで志佳を頼って訪ねて来る者は後を絶たない。


 「『異世界の扉』辺りを希望する」


 「げっ……、たけー店選ぶな。いいぜ、異世界の扉にしよう」


 「交渉成立だな」


 早速二人で酒屋『異世界の扉』へ向かう。

 志佳は前フィーバーギルド隊長ということもあり、裏路地を出ると人の視線を集めていた。そしてその隣を親しそうに話しながら歩いているのが峰本連夜だということでさらに人々の視線を集める。


 「ふふっ!ナイトギルドはそれなりに儲けているのかな?『異世界の扉』は結構人を選ぶ金額だぞ?」


 「まぁマジメェーな副隊長がいてくれるんでね。拾う仕事は報酬+アルファの成績出してくれるし。それにオレとキセトは私財もあるからな」


 銀座街中心の小広場の正面に立つ、この帝都で一番注目される酒屋である。この銀座街の中でホスト制などを採用せず有名になり、それが理由で今一番注目されている店だ。

 二人でカウンターの席に座り、連夜はカクテル、志佳はビールを注文する。

 二人とも一息ついてからお互いの探りあいが始まった。初めは志佳からである。


 「そういえば峰本みねもと連夜。なぜあんなところで突っ立っていた?私に会うつもりは無いと言っていただろう?ならばなぜだ?」


 「ん、まぁ、正直に言うと、篠塚晶哉に会える気がしたからだ」


 「ほう。篠塚晶哉とか?」


 「あぁ」


 「すさまじいな、峰本連夜の勘は。確かにあのまま待っていれば会えたかもしれないぞ。私のせいでおじゃんにしてしまったようだがな。お前の勘は素直に褒めておこう」


 「そりゃどうも」


 褒められても全く動じない連夜に志佳は違和感を感じたが、目の前にカクテルを置かれた瞬間に連夜の違和感も吹っ飛んでしまった。連夜のカクテルに続いて志佳の目の前にもビールが置かれ、とりあえず二人揃って一口目を口にする。


 「やっぱ高いだけあるよな」


 「その通りだ。ここを素直に許可したことに驚く。峰本連夜の私財はそれほどあるのか?」


 「まっ、哀歌茂商業以上国家予算未満ってとこにしとこうぜ」


 「み、峰本連夜の冗談は苦手だ」


 「ここを承諾したのは金の問題じゃねーよ。ちょっと会いたい人がいたんだ。今日は視察の日のはずなんだけどな」


 「視察……?」


 カクテルを一気に飲み干しながら店内を見渡すが、目的の人物は見つけられなかったらしく、連夜はまた正面を向く。

 そのあとも何度か志佳が質問してみたが連夜は無言で飲み続け、お互い新たな情報を得ることなく時間が過ぎる。さすがに酒に強いはずの連夜の顔がほんのり赤くなってきたところで、志佳がカクテルをやめさせ、水を注文しだした頃、連夜の目的の人物が店に入ってきた。にやりと連夜が笑い、その人物を手招きする。


 「やぁ、亜里沙ありささん」


 「あら連夜君。贔屓にしてくれてるの?」


 「オレは、な。あいつは酒弱いから来てない」


 「し、知ってるけどなんかガッカリね」


 志佳は目の前で本気で悲しむ女性を知っている。情報だけだが、彼女のことなら情報屋でなくとも知っている者が多いはずだ。

 愛塚あいづか亜里沙。「異世界の扉」の第一号店の元店長で、今は「異世界の扉」のオーナー。

 だがその実績に対して歳は二十二歳と若い。第一号店の開店当時から彼女を支えるメンバーにやり手が多かったということもあるが、彼女自身も若さ以上の力を持っていた。だからこその成功だったといわれている。

 だがなぜその成功者と連夜が知り合いなのか理解できなかった。

 「異世界の扉」の第一号店は帝都ではなく楽園の島という場所にある。北の森とはまた違う独立領域とも言っていい特異な場所だ。楽園の島の住人の愛塚と、帝都もしくは北の森住人の連夜には接点は無いはずである。


 「あぁ、亜里沙さんはキセトのこ―――


 「余計なこといわないで」


 「まぁ、うん。キセトのつてで知り合ったんだよ」


 「了解したとは言いがたいが、なぜ彼女を待っていたのだ?」


 「ん?勘だよ。志佳嬢が知りたいことを亜里沙さんは知ってるからさ」


 志佳の手始めの探りに対し、連夜は本来キセトに使用権利があるキーカードを引っ張り出してきた。

 志佳へ連夜が今までで一番素直な笑みを向けていたことが、志佳のここにわずかな情報を求める心への恐怖を生み出す。志佳としては初めて感じる恐怖におびえながら、自分も多くの情報を持っているはずの女性をまじまじと見つめるしかなかった。


 


 **********


 


 「……っ……!」


 「傷を負っているのか?」


 「…………」


 「『沈黙』が君の武器なのか?篠塚晶哉」


 「お前に対しての武器にはならない」


 「そうか。よく知っているではないか」


 「おれはおまえがすべてを知っているとは思っていない。話したいのならおまえから話せ」


 裏路地の一角で座り込んでいる男、篠塚晶哉とそれを無表情で見つめる女、志佳。この広い裏路地の中で今は二人だけしか姿を確認できる者はいない。

 志佳は無表情のまましゃがみこみ、怪我の程度を診る。なにか細い丈夫なもので締め付けでもしたのか、細い線状の傷から今だに血がにじみ出ている。


 「無茶をする」


 「弱い人ではない。無茶の一つでもしなければ命あるまま逃げることはできない」


 「君が相手を罵らないのは珍しいな」


 「認めてしまっているからだ。あの人の言うことも」


 「辛いのか?」


 「辛くないことなどあるのか?おまえなら知っているかもしれないな。辛くないこと」


 「すまない。感じ方の差については情報では語れない」


 「その言葉で十分だ」


 志佳が放つその言葉ではなく、志佳が篠塚晶哉がよく知るある人を【トレース】した状態で話すからこそ、その言葉に価値がある。

 志佳の【トレース】は完璧と言っていい。今は志佳の声のまま話しているが、声質、トーン、くせなどすべてをトレースした声と、その人の経験、感じ方、思いをすべてトレースした言動。二つのトレースによって志佳は、姿だけ違う、全くの他人になれることができる。残念ながら姿を変える魔法は志佳には使えないので他人になりきることは出来ないが。


 「治療しよう」


 「その言葉で十分だと言った筈だ。それ以上は虫唾が走る。【トレース】を解け。気持ち悪い」


 「……いいのか?彼の【トレース】を解いても」


 「構わない。守るべきものは本物だ」


 「わかった」


 志佳の足元に魔方陣が現れたかと思うとすぐに魔方陣が割れ、土の中に消え去った。それを篠塚晶哉は悲しそうに見つめる。完全に魔方陣のかけらすら見えなくなってやっと篠塚晶哉は視線を志佳の足元からはずした。


 「消えろ。貴様に用事などない」


 「おまえがそういうのであればそうしよう。私は彼のトレースから手に入れた情報を正しき相手に売りに行く」


 「勝手にし、ろ……」


 傷よりも魔力の大量消費のせいであろう睡魔に身をゆだねるしかない篠塚晶哉は、その場で眠りに落ちた。志佳は篠塚晶哉が完全に眠るのを見届け、先ほどから裏路地の前にいる連夜のもとへと足を進める。だが突然思い出しように篠塚晶哉のほうへ走りより、志佳は持っていたハンカチで止血をしておいた。

 この傷で大量出血することは無いだろうが篠塚晶哉はそのまま傷を放っておきそうな気がしたのだ。


 「定め、か。そういうものがあるのならその情報も欲しい。無いのなら、すべての情報から未来を知りえることが出来る。私はひたすら裏で動く。羨ましいよ、おまえたちが。表の世界、いや、友や大切な人のために自らで動けるおまえたちが」


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