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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
16/90

012

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 キセトはとりあえず歩いていた。

 瑠砺花るれかがあばれたフロアより後のフロアでは敵の姿が無い。元々二十数名という情報だったのであそこで総戦力だったのかもしれない。だとしたら本当に生死問わずの手配書はやり過ぎだ。敵のろくな情報もなく生死問わずの手配書が出回っているとなるとぞっとする。

 少しでも悪い意味で目立てば、いつ自分の手配書が回ってもおかしくない事実を想像しながら、だだっ広いフロアの中心で立ち止まり、当たりを見回す。こんなにも隙だらけで襲いやすい中央に立っていても、誰かが動く気配はない。そもそも人の気配がしない。やはり総戦力だったのだろうか。


 ―― コツン


 「……?」


 フロアから伸びる廊下のうち一本から小さな足音が聞こえた。キセトの優れた聴力だからこそ聞き取れたというほど小さな音だ。もしかしたら空耳かもしれない。


 ―― コツン


 「右、か。ルートを外れるな」


 ここに来る前に決めた責め方。とりあえず真っ直ぐ。階段は見つけたときに上る。奥、上階を目指し、はぐれても頂上で合流する。ここで右に進めばおいてきた三人と別れることになる。だが足音が聞こえる右の廊下がどうしても気になった。前と同じように篠塚しのづか晶哉しょうやがいるのではないかと思うのだ。


 ―― コツン、コツンコツン


 近くなってきたからか連続して足音が聞こえる。向こうからこちらに来ているならキセトが右の廊下を進む必要は無い。ここであの足音の主がくるか、アークたちが進んでくるかを待てばいい。


 「副隊長」


 「っ!?」


 「ど、どうしたんですか?青ざめてますよ?」


 「い、いや。少し気を取られていてアークが来たのに気づかなかったんだ。もう大丈夫」


 そうですか、というアークの安堵したような返事はキセトの耳に届いていなかった。足音の主が話し声に気づき、急いで引き返していった音だけがキセトの耳に響く。その狼狽ぶりを隠そうともしない足音に、足音の主は篠塚晶哉ではなく、沙良さらのそばを番犬のようについていた少年だったのではないか、とキセトは思った。


 「副隊長、聞いてますか?時津ときつさんと松本まつもとさんは別行動をとることになりました。ぼくたちだけで奥へと進むように時津さんに言われたのですが、聞いてます?」


 「聞いている。なぜ別行動を取るかという理由は聞き逃したようだからもう一度頼む、といいたいところだが、静葉しずはの行動に理由を求めるのは時間の無駄だろう。感情直結タイプだからな、あいつは」


 それだけではないだろうが、それ以上を聞いてはいけない気がした。ミラージュの件はただでさえも、静葉の過去に深く関わっている。静葉が単独での行動を望んでもおかしくない。そこはキセトや連夜という上につくものが配慮してやらなければならないところだろう。


 「アーク、予定を変更して右へ向う」


 「右、ですか?ですがここの部屋の右の通路は確か……」


 「地図通りなら行き止まりだ。それは覚えている。だが、ただの行き止まりの通路を作るだろうか?それにあの通路から俺は足音を聞いた。本当に行き止まりなら足音の主はどこへ行った?それを確かめる」


 「わかりました。ルート変更の件はぼくから時津さんたちへ伝えておきます」


 アークがすばやく携帯を取り出しメールを作成する。アークがメールを送るまでにキセトは通路へ進みだしていた。 アークもすぐに追いかけようとした。だが、後ろにある意味懐かしくて、ある意味お馴染みの気配を感じて足をとどめた。


 「……。どうしてここに彼方がいるのですか?」


 姿が見えていないはずなのに話しかけられた影、篠塚晶哉は少し驚きながらも影から姿を現し、アークに応える。


 「ここ、ってミラージュの本拠地ということか?それとも羅沙ということか?在駆ありく先輩」


 「両方ですよ。まさか、副隊長の周りで再び彼方を見かけるとは思いませんでした。といっても、ぼくなんかより彼方のほうが副隊長とは関わりは深いですけれどね」


 アークが真っ向から篠塚晶哉を睨む。篠塚晶哉はその視線すら快感だとばかりに微笑んでいた。


 「そういえば今回の件、彼方の名前を黒幕として聞きました。どこまでこの件に関わっているのですか?彼方と、不知火しらぬいが」


 「大胆な質問だな。失敗といってもいいほどの。まぁ、本当のことを言うといま、おれと不知火は繋がってない。在駆先輩と不知火がすでに繋がっていないと同じぐらい、繋がってないんだよ」


 「馬鹿馬鹿しいですね。彼方の言うことが信じられないのを理解しているのに、自分から彼方に質問するなんて、ぼくが間違っていました。彼方の言い方を借りるなら『失敗』ですかね、晶哉君」


 「おれが決めることじゃないね。それよりキセトを追いかけないと追いつけなくなるぜ?」


 篠塚晶哉の言うとおりでもある。今のところアークは篠塚晶哉から敵意を感じられない。ならここは任務を優先させてキセトを追うべきだ。すでにキセトの足音はアークでは聞き取れないところまで進んでいる。

 キセトの聴力ならアークと篠塚晶哉が接触していることも知っているだろう。それでもキセトが帰ってこないのだから、キセトの判断はミラージュの件を優先させるということなのだ。部下であるアークはキセトの判断に従うべきである。

 だが、アークとしてはミラージュよりも篠塚晶哉のほうが、将来的に敵となりそうだと感じるのだ。ここで排除できるならしたほうがいい。


 「彼方次第ですね、ぼくが副隊長を追いかけるか、追いかけないか」


 「ふぅん。番犬気取りか?そんなに守りたいのかよ。在駆先輩に守れるような奴か?焔火ほうらびキセトは」


 「揺さぶりをかけているつもりですか?理解ぐらいしていますよ。副隊長はぼくが守る必要なんてないぐらい強いです。ですが守りが必要ないわけではないのですから。力不足でも、ハッタリでもいいんですよ」


 「『心』とでも言うのか?在駆先輩が?滑稽だな」


 「いえ、ぼくや彼方は結局『力』でしょう。お互い副隊長を目指して挫折した者同士、力比べとしませんか?」


 アークが素早い動きでホルダーからナイフを抜き取り流れるようにそのまま投げた。篠塚晶哉は柱の影に移動しそれを避ける。


 「やっぱり在駆先輩はそうだよなぁ。あんたは力不足のハッタリでも力押しぐらいしかできないよな」


 「そうですね。力押しですよ」


 「……っ!?」


 突然紐のような物で篠塚晶哉の体が柱に括りつけられる。わずかに血が服に染み出してきた。おそらくワイヤーのような丈夫で細い物なのだろう。柱などを壊すほどの強度は無いが人間の肉は切れる。下手に鋭いよりも恐ろしい。


 「戦い方、変えたんだなっ、あんたはっ!」


 「変えてませんよ。敵を殲滅する。その目的だけがぼくの戦い方です。昔も今もっ!」


 ぐっとアークがワイヤーを引っ張る。それより少し速く、篠塚晶哉が柱に刺さっているアークのナイフを抜き取り思いっきりワイヤーを断ち切った。だが足を括りつけていた足だけ間に合わず傷を負う。

 アークは攻撃の手を止めていない。篠塚晶哉がワイヤーから逃れたことに驚きもせず、柱の影から出てきた篠塚晶哉にナイフを投げつける。


 「ちっ。【ウィンド・シールド】っ!!」


 「あぁ、そうでしたね。彼方も不知火でありながら魔法を使える『選ばれた家』の人間でした。忘れていたわけでは在りませんけど、忘れたかったです」


 「在駆先輩は人のこと言えないだろ。目的が戦い方なんていうあんたにはわかりもしないだろうけど、おれは目的を忘れることは出来ない。ここは目的のために引く戦い方も視野に入れてやるよ」


 「まるで引いてやると言っているようですよ。逃がしませんっ!」


 アークがナイフをさらに投げる。どう考えても篠塚晶哉を狙っているとは思えない方向へ飛んでいったナイフを見て気づく。柄の部分に張られた札は結界を作る用のものだ。

 結界を張られたら逃げるどころかアークの攻撃をただひたすらに受けるだけの体勢になってしまう。足を怪我したした状態でそうなるのは篠塚晶哉も避けたい。


 「つまりは結界を崩せばいいんだよっ!!」


 床に刺さっているナイフの一本を思いっきり蹴り飛ばす。張りかけの結界が一瞬揺れ、二人に影を落とした。だが篠塚晶哉もアークも視界が明るくなるのを待つような素人ではない。

 アークは全面の壁に対して、ワイヤーを括りつけたナイフを投げ網を張り、篠塚晶哉の動きを探る。篠塚晶哉はそれに気づき、闇の中で光るワイヤーを避けつつアークが入ってきた通路へ逃げる。


 「逃がさないと言ったはずですっ!」


 もうすぐ通路に入れるというところで篠塚晶哉の前をナイフが通過する。それもワイヤー付きのナイフだ。避けきっていたと思っていたワイヤーにも数本触れていたらしい。

 視界が明るくなってきたところでアークが再びナイフを篠塚晶哉に対して投げる。篠塚晶哉は負傷した足を見て避けきれないと判断し、己の武器をこの場で始めて取り出す。


 「武器を変えたんですね。剣だったと思いますが」


 「まぁこれはこれで便利なんで」


 アークが投げたナイフは篠塚晶哉によって撃ち落とされた。篠塚晶哉が使用した武器は漆黒のリボルバー式の銃。


 「ぼくが投げたナイフが四本で助かりましたか?リボルバーは六発でしたよね?」


 「まぁ、補充は速くできるつもりだけど。ちょっと困ったかな」


 「なぜ、四本だったのか気になりませんか?答えは結界のためです。一般的な結界は立方体ですけど、床の四点だけ印があれば十分ですしね。今の四本も結界のための布石です」


 篠塚晶哉が打ち落としたナイフは実質二本。自分に当たる分だけを最低限打ち落としたのだ。二本は予定通りの位置に刺さり、他の二本がずれようが成り立つ場所に刺さっている。


 「あんたのそういうところ嫌いなんだよ」


 「気が合うのかもしれませんね。ぼくもぼくのこういうところが嫌われるところだと思います」


 「まぁおれはそんなところ以外も在駆先輩が大嫌いだけどな」


 「ぼくも晶哉君が大嫌いですから安心してください」


 一度成り立ってしまった結界は印を破壊しても壊れない。完成した時点で篠塚晶哉は逃げることを諦めたほうがいいのだ。アークも結界の中に閉じ込めた篠塚晶哉を見て、余裕の笑みを浮かべる。


 「さすがにそうなると彼方でも逃げられませんか?」


 「……」


 「彼方が生きているのは勝手です。彼方の自由とも言えるでしょう。生きることに関しての哲学をぼくが語る必要は無いはずです。ですが、ぼくとしては彼方が、生きている彼方が副隊長の周りをうろちょろするのは大変不愉快です。副隊長と一切関わりを持たないで欲しいと思うほど」


 「……」


 「沈黙ですか。反論なんてできませんよね。彼方の本心がどうであれ、彼方は副隊長との関係を敵というものでしか維持できないのですから。助けたいなんて、ましてや守りたいなんて、彼方は出来ませんものね。彼方が副隊長を悪く思っていないことを知っていても、ぼくは彼方を副隊長の周りにいて欲しくない。理由なんて簡単です。彼方の存在は副隊長を傷つける」


 「……しゃべりすぎだよ、【シールド・ブレイク】っ!!」


 「っ!?」


 篠塚晶哉は握りこんでいた手を開く。一瞬アークには何もないように見えたが、ソレが何か遅れて理解した。アークが理解したころには結界が壊れ崩れ落ちる。それと同時に篠塚晶哉が残りの弾をすべて撃ち、アークが自らを守っている間に姿を消した。


 「ぼくのワイヤーを利用、ですか。武器を変えても戦い方と目的は変えてませんね。敵も、味方も、自分も利用して副隊長を守る。彼方の動きがどう働くかは知りませんが、彼方は副隊長を守るために動いている。それは分かっていますけど、癪ですね」


 ワイヤーは結界の外側と内側を一本で貫いていた。内側からの攻撃には無敵の結界も、ワイヤーを通じて外側に流れた篠塚晶哉の魔力には耐えられなかったらしい。

 長い沈黙はシールドブレイクの呪文を完成させ、外へ流すための時間稼ぎだったのだろう。

 きっとこのミラージュの件ですらキセトを守るための一手。今日はその一手がうまくいったのか見にきていた程度だろう。だがその一手のためだけにミラージュたち、沙良やギィーリ、静葉の心を荒らしている。それが許せない。アークにとっての最優先事項は、二年前にキセトから静葉へと変わったのだ。

 昔なら許せたかもしれない。それが一番アークを苛立たせていた。


 「副隊長を追いましょうか」


 右側の通路に進もうとして、篠塚晶哉が姿を消した通路から人があわられた。

 部屋に入ってきて、思わず身構えているアークを不思議そうに見つめてきたのは静葉と瑠砺花だ。アークも臨戦態勢を解く。


 「誰かいたの?」


 「いえ、敵がきたのかと思っただけですよ。知らせたとおり副隊長は右の通路へ行きました。追いましょうか」


 「了解、なのだよー!あっ、そうそう。シーちゃんの作戦、ものすっごくうまくいきそうなのだよ」


 「えぇ、私の思ったとおりだったわ」


 「それはよかったです」


 アークがふっと笑う。静葉はその笑みに違和感のような物を感じたが黙っておいた。

 静葉はミラージュの件についてアークに黙っている。それなのにアークの内側のことに自分が首を突っ込むわけにはいかないと思った。互いに隠し事があること自体は仕方がないことだろう。

 いつか、話してくれたらいいなと、静葉は思うけれど。



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