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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
15/90

011

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください

 キセトはこの任務に関わらない立場であるせいか、自然と足の歩みが遅くなる。そして最終的には視線を感じて、完全に足と止めた。


 「誰だ?」


 ミラージュの件のせいで道端には誰も居ない。キセトも気のせいかもしれないと思うほどだった。ただ、気のせいではないことは確信している。話そう、と誰も居ない空間に話しかけた。すると路地の一本から長身の男が姿を現す。


 「久しぶり、か」


 「晶哉しょうや。久しぶりだな」


 「いろんな奴がおれを探しているらしい。峰本みねもとってやつと、ミラージュ関わりの奴。前者はお前の過去を知りたいがために。後者はただ恨み事って感じか。べつに正直に出て行ってもいい。おまえがそれでいいならな」


 長身の男、髪は一般の羅沙の民からすれば黒いが、漆黒というわけではない。少し青味が掛かっている。身長は見ただけで分かるほど高い。百七十代後半のキセトでも見上げるほどに。百九十代はあるだろう。髪の毛が一束、他の髪とは違う方向に立っている。

 篠塚しのづか晶哉はにやりと笑って軽くキセトに質問する。


 「お前は知ってたか?お前の周りの奴がおれを探してること」


 「連夜れんやか。確かにお前のことを聞いてきたな。後者は静葉しずはがいい例だろう。会って話せばいいのではないのか。俺を気遣うことはない」


 「はっ」


 晶哉が吐き出すように笑う。ゆったりと大股で近づいてくる晶哉をキセトが見つめる。晶哉がキセトの一歩前で足を止め、じっとキセトの目を覗き込んできた。

 暫くそのままだったが突然視線ははずされた。


 「変わらないよな。過去のことは知られたくないだろ?なのに、おれがお前に気を遣ってるかもしれないほうが気になるのか?」


 「それもある。だが、晶哉の行動は晶哉次第だ。俺が口を出すことではないと思う」


 「……そっか。やっぱり変わらないな、お前」


 変わらないことに安心したのか、にやりとしていた笑いをやわらかい笑みに変える。もう一度、念を押すように「本当に変わらない」と呟いて篠塚晶哉は姿を消した。キセトは篠塚晶哉が歩いていったほうを振り返って彼の姿を探す。だがそこに彼の姿は無い。キセトは軽く首を振って進みだした。

 暫くギルドに向かってゆっくり歩いていると、前に三人の影が見える。三人ともキセトがよく知っている人物だ。


 「もう行くのか?」


 キセトが声をかけると三人とも小さく頷いた。表情は無表情であったり微笑であったり不安そうであったり、色々だったが本気で何かをしようとしていることぐらいは纏う空気で伝わってくる。

 キセトにはアークが説明してくれた。


 「隊長がすぐにでも向かうようにと。場所は口頭でしか教えてくださいませんでしたので、しっかりたどり着くかも不安ですけれどね」


 「そうか。無茶しないようにな」


 キセトの言葉に三人が不思議そうに顔を見合わせる。そして先ほどまでバラバラだった表情をそろえてクスクスと笑った。一人事情が分からないキセトは呆然と三人を見つめる。


 「レー君らしいといえばレー君らしいのだよ」


 「そうねっ!無茶しないように、か。あははははっ」


 「副隊長。隊長が言うにはぼくたちと一緒に副隊長も来てくださるということでしたので、ぼくたちが無茶しなくてもいいように一緒に来てくださいね」


 「はっ?俺も?」


 「はい」「えぇ」「レー君の指示なのだよ」


 アーク、静葉、瑠砺花るれかに即答されて頭を抱え込んだ。

 連夜が唐突で意味不明で無遠慮なのはいつものことだが、表向きの事情を考えて欲しい。キセトと連夜は表向きには「非戦闘隊員」なのだ。どれほど強かろうが、戦えない者として軍に登録している。戦闘種の依頼には本来つけないのである。


 「参加するなら今回の依頼は俺が指示していい、ってことなんだな?」


 一応三人の部下に確認を取る。三人は少し嬉しそうに見える笑みで頷く。

 ここにいる三人を含めナイトギルドの隊員ならば、連夜とキセトが同じ依頼につくと嬉しいのだ。その感情は憧れの先輩とチームを組める感覚に似ている。ナイトギルド隊員なら連夜とキセトのことを尊敬しているのは当然のことだからだ。

 三人の思いにも気づかず、キセトは即興で考えた策を簡単に説明していく。


 「なら俺は『話し合い専門員』として一緒に行く。決して真正面からぶつかることはしない。大体三人対十数人という戦いは不利だ。少しでも、敵も味方も傷つかない戦いにするために、俺は敵を説得してみよう。それでいいか?」


 「もちろんなのだよっ!キー君が来てくれるなら不本意なことは起きないって保証されたも同然!やる気でるのだよっーー」


 同意を示す行為として言葉と共に瑠砺花がキセトに抱きつく。

 普通なら適齢の年齢として恥ずかしがるなり嫌がるなり反応すべきなのだろうが、キセトはおろか、アークや静葉まで無視して歩みを進め始めた。松本まつもと姉妹においてはこういう行為はごくごく普通のことなのである。いまさら松本姉妹のハグ等のボディタッチに慌てたり反応するのは新隊員の茂ぐらいだ。

 瑠砺花がキセトから離れ、四人が並んで歩くさまは、どこかに遊びに行く若者ぐらいにも見える。一番年下の静葉が二十二歳、瑠砺花とアークが二十三歳、キセトが二十四歳。とても一つの国を脅かす殺人集団を討伐しに行く四人組みには見えない。

 結局、四人は敵の本拠地の前に立つまで世間話や恋愛に関する話、最近のニュースに関する話、好きな食べ物の話など、本当につまらないことを話しながら歩いていた。

 もちろん敵の前に立つ四人には、そんなふんわりとした空気などかけらも存在しないのだが。


 「ここか」


 「人の気配もしますからね」


 「私には気配とかわけわかんないのだよ。まっ、アー君がするっていうならするのだろうけれどねー!」


 「……」


 意気込んで静葉が建物内に入ろうと足を進めたが、すぐにキセトから制止された。抗議の視線を贈ると、キセトは無言で壁のほうを指す。


 「地図、ですね」


 「すべての部屋を探すべきだろうが、ここは最上階を目指すことにする。真っ直ぐ進めば階段があるからな。階段は見つけ次第上る。敵と遭遇し、別行動したとしてもこれを守れ。最上階に着けば待機。通る部屋はすべて確認すること。田畑たばた沙良さらを見つけ次第、説得または戦闘。殺すなよ。これ以外の行動は連絡をとること。別に許可を取る必要はない。ただ知らせろ。いいか?」


 「了解」


 「了解なのだよー」


 「わかったわ」


 「では、羅沙軍よりの公式依頼を開始する。対象、田畑沙良とその一派を鎮圧」


 三人は一斉に走り出した。相手に合わせているつもりはないが、自然と横一列となる。続く廊下の先に光が見えたところで、瑠砺花が立ち止まった。静葉とアークはただ走り続ける。


 「きたなっ!静葉様っ。おれたちは復讐するという貴方の言葉を信じてました!」


 「なのに…!」


 広い空間に出ると十人ほどの人間が集まっている。彼らに見えているのは静葉だけのようで、アークは居ないかのように静葉だけに言葉を投げかける。


 「なぜ羅沙に下ったのですか!」


 「わたしたちはまだ、あなたを信じてます!」


 「今からでも、こちらに来てください!!」


 差し伸べられた手。静葉はそれを無視した。

 羅沙に下ったと思われても仕方がないことをしているのだ。復讐どころか、仇の味方についたと思われているのだ。心地よいとは思わなかった。


 「剣を取りなさい。素手の人間相手に武器を振りかざすつもりはないわ」


 「静葉様っ」


 「取らないのね?わかった、なら、私も素手で戦うだけよ。蹴ったり殴ったりしましょう」


 「静葉様!」


 懇願の色が混じった声。静葉は気づかないふりをした。

 静葉の自慢の武器を床に下ろして、構えを取る。真正面からぶつかるしかないのだから、ぶつかろう。自分が馬鹿だと自覚する静葉にはそれしかできない。


 「相手にあわせているな、静葉」


 「キセト……でも――


 「瑠砺花、やれ」


 「はいはーい」


 静葉の後ろから迫る氷。その氷は静葉を素通りして、ミラージュたちを襲う。


 「何だこいつらっ!化物かよっ!!」


 「『化物』なんて、いまさらなのだよ。バイバイ、モブキャラ君たち」


 瑠砺花の右手のひらの中に、魔法による氷の塊が発生する。攻撃系魔法の発動直前の印だ。


 「に、逃げろっ!!相手してたら殺されるっ!」


 「殺さないのだよ。それがレー君の命令なの。でも、殺さない代わりに手加減もしないのだよっ!」


 逃げ惑う彼らに瑠砺花が氷の刃を放つ。彼らを直接は狙わず、足元を狙っていく。そのかわり地面に当たった氷の刃は彼らごと地面を凍りつかせた。

 逃げ惑っていた彼ら全員が氷漬けにされ、場が静かになる。四人は人を包み込んでいる氷の横を通り、奥へと進んでいた。


 「一罰百戒……のつもりでしょうかね、手配書は」


 「まったく……。軍とかギルドが出るまでも無いのだよ。雑魚ばっかり。四人も要らないのだよーーっ!十人ちょっとしかいないしっ!!」


 「あくまでミラージュの劣化版だ。相手はがむしゃらのガキ二人だぞ」


 四人、キセトとアークと瑠砺花と静葉は一気に気温が低くなった部屋で敵の人数確認等をするため、もう一度話し合う時間をとることにしたのだ。座り込みはしないものの、それぞれ楽な体勢で休憩を取る。

 静葉の近くには、先ほどまでアークがいたのだが遠慮してもらい、今は静葉一人で氷の中を見つめていた。凍傷などの心配が無い特別な魔法だと瑠砺花は言っていたものの、やはり少し心配だったのだ。

 氷の中の人は何かを恐れる表情のまま固まっている。おそらく恐れていたのはキセトたち四人だ。静葉はかつて同じ街の仲間に恐れられたまま過ごしている。彼がこの氷から解き放たれたとき、彼は静葉をどう思うだろうか。そしてこんなことになってしまった原因の羅沙を、時津ときつの街を、そして沙良を。


 「馬鹿みたいね、ホント。仲間ではなくて部下だとでも思っているんでしょう?沙良」


 おそらくに過ぎないが、沙良は特定の数名以外を仲間とは思わず、ついてきてくれている部下として扱っている。それが三年前の静葉との大きな違いでもある。

 静葉は三年前、誰一人部下だとか配下と思ったことは無かった。自分の思いに応えてくれた仲間。静葉と同じように、または静葉以上に覚悟を決めた尊敬するべき味方。だが沙良にとって、氷の中の彼らは、自分の感情を叶えさせるための部下に過ぎないのだ。

 そのことをなんとなく肌で感じていた静葉は、自分の中に怒りが溜まっていることを自覚し始めていた。


 「馬鹿馬鹿しいわ」


 そんな思いで復讐を遂げて、沙良はどうしたいのだろう。

 静葉が復讐を誓ったのは街のためだった。自分の街を破壊したことを許せないという感情を力とし、破壊された街のために戦った、はずだ。自分の感情を晴らすだけならば、「人殺し」という罪を犯す覚悟など、静葉はもてなかったはずなのである。


 「自分のためだけだったと言い切れないこともない。でも、建前でも何かのためだと言えないとだめなのよ、沙良」


 「静葉。先へ進むぞ」


 いつの間にか静葉を除く三人で話し合いも終わり、休憩時間も終わっていたのか、キセトの声が静葉の思考を止めた。考えても変えられないことかもしれない。いちいち考えるほうが動きを鈍らせる理由になるかもしれない。

 だが静葉は自分が考えなければならないという使命すら感じていた。今回の事件は三年前の自分の延長線なのだ。キセトや連夜に出会わなかった自分と、出会った自分との決着なのだ。

 だから、私が…。


 「シーちゃん?キー君先行っちゃたのだよ?早く行かなくていいのだよ?考え事?」


 瑠砺花にまで声をかけられて当たりを見渡すと、確かに、キセトだけがいない。キセトなら一人で行動しても危険は無いだろうが、おいていかれたというのは少し悲しかった。


 「シーちゃん。早く行こう。今なら追いつけるのだよ?それともやりたいことがるのだよ?」


 瑠砺花の言葉に少し驚いた。瑠砺花は静葉が単独行動をとっても協力するつもりなのだろうか。静葉は視線を氷の中の人に戻し、覚悟を決めた。


 自分が解決するべきことなんだから。


 「ねぇ、瑠砺花。ちょっといい?」


 「ん?わるーい顔してるのだよ、シーちゃん。何でもこいっ!なのだよ」


 静葉が何かをたくらんでいると悟っても瑠砺花は笑って応える。

 静葉には昔と変わらない環境がある。場所や周りの面子こそ変わったが、自分の周りに、自分を理解して一緒にいてくれる人がいることは変わりない。


 「私は幸せだと思うわ。それは三年前も変わらなかった。人殺しという最悪の行為に走っておきながら、幸せだった。だって、私は信じられる友人に囲まれて生きていたから」


 「それはとっても幸せなことなのだよ、シーちゃん」


 瑠砺花が笑っている。その笑顔を見て静葉も楽しいと感じる。だが、沙良にはその相手がいないかもしれないのだ。この氷漬けの彼らの「恐れ」こそがその証拠になる。


 「うん、幸せよ。でも、その私の定義で幸せを決めるのだとしたら、沙良は幸せなのかしら?もし、私たちがここで沙良たちを無視しても。もし、沙良たちが復讐を成し遂げたとしても、幸せになれるのかしら?」


 「それは私にはわからないのだよ、シーちゃん。ってそんな顔しないでっ!なのだよ、シーちゃん。私は別に未来は変えられるとか、幸せの価値観は個人それぞれだとか言うつもりはないのだよ」


 「どういうことなの?」


 「私は沙良ちゃんについて何も知らないのだよ?それに知りたくない。これから志をへし折って、帝国に引き渡す人の思いや未来を考えると、私は辛くなるのだよ。だから考えもしない。分かるかもしれないけれど、分かるつもりが無い、ということなのだよ、シーちゃん。

  私はシーちゃんほど優しくないから、自分が辛くなるようなことは考えないのだよ。ごめんね、シーちゃん」


 相手のことを考えない。瑠砺花は悪役のような考えを受け入れている。いや、今頃の悪役ですら同情する余地のある事情があったりするものだ。だが瑠砺花は自己中だといわれてもおかしくない考えを貫いている。

 静葉には実行できない考え方であり、瑠砺花もこの考え方を実行するのに大きな代償を払ってきたはずなのだ。簡単に教えられたから実行できるほど簡単な考え方ではない。

 静葉には実行は出来ないかもしれないが、理解はできた。それが瑠砺花の考え方であり、今、静葉を楽にしてくれる意見でもある。


 「それもそうね。私がいくら沙良の未来を考えても、どうしようもないことだわ。私はナイトギルドとして沙良を捕らえるし、沙良の甘さではそれを逃れることはできない。その事実を知った上で相手の未来の可能性なんて、考えても私が辛くなるだけね」


 でもその辛さは背負うべきものじゃないかしら?なんて瑠砺花に言っても無駄なんだろうな。瑠砺花は自分と妹を傷つける存在は許さないから。ひねくれてるって周りから言われても、自分の心と妹を守ろうとする人だから。

 だから瑠砺花は「自分が悪い可能性」を考えないでも過ごせる。とことん自分が正義だという考えを貫く。瑠砺花は誰よりも自分は心が弱いのだといった。だから自分の心を自分で傷つけないように、必死に必死に守ることが精一杯。だから他人からの評価など気にならない、と。


 「さて瑠砺花、あと手伝ってくれるならアークも。ここからが本当のお願い」


 待ってましたとばかりに瑠砺花が笑う。アークも反論しないのだから協力体制なのだろう。

 キセトには悪いが静葉にとってこれはチャンスだ。無言でアークを招きよせ、このフロアには三人しか居ないというのに小声になって静葉が話し出した。



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