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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
12/90

008 -殺人鬼ミラージュ編01-

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください

 「手を上げろっ!」


 こんなことさえ起こらなければ。


 スーパーに入った瞬間にガチャリという人体からはしない音が聞こえた。

 声が命令した通り、手を上げながら視線で確認すると、ラフな格好に似合わない銃を構えている青年が立っている。青年だけではなく置くには女性もいる。屈強な肉体を持つ男性も、それなりに歳を取った中年の方も。

 全員がどこにでもいそうなラフな格好をしていて、茶色い髪をしていた。


 「奥へ行けっ!」


 「……後にしとけばよかったわ」


 「そうだな」


 「話すなっ!早く奥へ行けっ!」


 俺と静葉しずはが余裕の体制を崩さないで話していると、近くにいた青年があせったように銃をちらつかせる。あまり相手を煽って銃を乱発されても困る。俺と静葉は素直に従って奥へと進んだ。


 「んー。甘いわねぇ。縛りもしないし、携帯を取り上げることもしない。ど素人かしら?」


 それを言うなら俺と静葉がこのスーパーに入ることが出来た時点でおかしいだろう。何がしたいのかまでは知らないがこれでは羅沙らすな軍が来て取り押さえられて終了というところか。


 「玄人だとしてもいて欲しくないな。立てこもりの玄人なんて」


 「それもそうね。でも立てこもりは素人でも、戦いはプロなんじゃない?キセトの言葉を借りるなら戦闘の玄人、ってとこ?」


 「まぁ、それも数名、ってとこだ。殆どは戦闘も素人だろう」


 「まっコレなら放ってもよさそうよね。変に目立ちたくないの」


 「それもそうだ」


 立てこもりの武装集団制圧といういいことで目立つのならまだいいのだが、静葉はいたるところで始末書事を起こしてくる奴だ。立てこもり制圧より、制圧のためにつぶした物品の被害総額の話になりそうである。

 それなら軍が来るまで黙ってみていればいい。


 「それにしてもみーんな茶髪なんて、また誤解されそうね」


 「……」


 「私も茶髪だし、アークもどっちかというなら茶色じゃない?色々言われなければいいけど」


 「なんだ、アークのことを心配してるんじゃないか」


 「そりゃ同じナイトギルドの隊員だし?何か特別なことあった?」


 「いや、なんでもない」


 アークは静葉の彼氏では無かったのか。もしかしたらナイトギルド全員の勘違いだったのか。悲しいな。帰ったらアークを励ましておこう。


 「あーあー、みんなまだまだですわね。全然駄目よ。やっぱりもっと練習させないと」


 女性の声がして、自然に人質の視線が声がした方向へ向く。だが殆どの視線がすぐにそらされた。

 奥から出てきた女性は、格好こそラフで他と変わりないが、体全体に返り血らしい物を浴びていたからだ。明らかに素人といは言えない雰囲気を纏っている。


 「静葉。軍に任せる、って訳にもいえなさそうだぞ?……静葉?」


 「沙良さら?」


 「おいっ、静葉!」


 静葉が奥から出てきた女性から視線をはずさない。それどころか、沙良という名前は聞き覚えがある気がする。


 「沙良!」


 「あれ?時津ときつのお姉さま?お久しぶりですねっ!」


 沙良と呼ばれた女性は静葉を見つけると、とても嬉しそうに駆け寄ってきた。静葉と知り合いなのか、沙良さんだけは嬉しそうに笑っている。

 だが静葉は久しぶりに再会した相手が返り血まみれであることや、こんな場で再会したことが複雑なようだ。


 「沙良。なんで……」


 「お姉さま。もう私たちはお姉さまを裏切りません。私が、このお姉さまの一番弟子がっ!もう私たちはお姉さまを裏切りませんっ!殺人鬼ミラージュは――


 「そんなことじゃないでしょっ!なんでこんなことしてるのっ!?その血は何?何をしようって言うのっ!?」


 「なぜ?不思議です。お姉さまがなぜとお聞きになる理由が分かりません。羅沙には復讐すべきですっ!」


 「復讐する必要なんかないわっ!なぜ同じ過ちを繰り返そうとしているのっ!!」


 「お姉さま。お姉さまを変えたのはそいつですか?」


 沙良さんはすでに静葉を見ておらず、真っ直ぐに俺を睨んでいた。真っ直ぐに、憎しみを込めて。そんな風に睨まれても俺としては困る。静葉に罪人に同意しろという理不尽なことは言えない。

 そもそも俺がそんなこと言っても、自分の意思を貫く静葉は聞きなどしないだろう。


 「お姉さま。また会いましょうね。撤退っ!」


 「沙良っ!待ちなさいっ!!沙良っ!」


 静葉が止める声すら聞かず、沙良さんとその一味は颯爽とスーパーを去っていった。

 結局来客に被害はないようだが、沙良さんの返り血のことを考えると奥にいた店員などは生きていないかもしれない。


 「静葉は人質にされていた人を頼むっ!」


 「沙良……、なんで」


 「静葉!」


 肩を揺らして声をかけても反応しない。その気持ちも分からないことはないのだが、今は働き手が少ないのだ。 静葉には動いてもらわないと困る。


 「静葉!おい、時津静葉っ!」


 「わか…ってるの……。でも……」


 「わかった!なら真っ直ぐにギルドに帰れ!アーク呼んで来い!役立たずだ!!」


 「うっ、でもっ!」


 「お前は邪魔だっ!!うじうじしてるなっ!」


 でも、と繰り返しながら静葉が泣き崩れる。静葉を放っておくわけにも行かず、身動き取れずにいると、入口から大勢の人の声がした。静葉の背中を軽く叩きながら入口のほうに視線を投げかけると、そこには羅沙軍人の姿がある。

 そして見覚えがある人も。


 「東雲しののめさんっ!」


 「焔火ほむらび君!?時津さんも…。なぜこんなところに」


 相手は東雲高貴こうき。第二番隊隊長東雲江里子えりこの父親にして第一番隊隊長を務める羅沙帝国軍の頂点。

 なぜそんな人が、小さなと言ってはいけないかもしれないが、下町の事件に首を出すのだろうか。


 「ナイトギルドもこのことについて調べるつもりなのか?」


 「いえ、被害者としてここにいただけです。ただ静葉はこの有様で…。知り合いがいたようです」


 「知り合い、か。今回のことは軍に犯行予告が届けられていた。そこには殺人鬼ミラージュの復活と、復活による羅沙崩壊が書かれていたんだ。もちろん簡単に崩壊するとは思えないが三年前のミラージュでの件による傷は癒えきっていない。もし本当のミラージュであれば今回も深刻な被害が出ると予想できるからな」


 「ミラージュはありえませんよ。たとえ彼女たちがミラージュと名乗っても、三年前のミラージュではありません。ただ警戒すべきだということは変わり在りませんが…。確証ありきで言っているのです、東雲さん」


 「ナイトギルドには協力申請を出すように江里子に言っておく。方法は問わない。この騒ぎを早く鎮圧して欲しい」


 「わかりました。では、後は正式な書類でお願いします。今日はただの被害者として帰らせてもらいますよ」


 「あぁ」


 そっと静葉を立たせ、支えながら入口へ向かう。東雲さんもそれ以上は何も言わず、俺も何も告げずにギルド本部へ帰ってきた。ただ何も買ってこなかったうえ静葉が異常に落ち込んでいたため、れんとアークに質問責めにされたが。


 「つまり、ミラージュの初の狩場に遭遇したわけなんですね?」


 「そういうことになるが、彼女たちはミラージュではない。そのあたりの事情は蓮も知っているはずだ」


 「なんで一緒にいたのが静葉さんなんでしょうね。私が違う人に頼めばよかったんですか?」


 「いや、結局知ることだ。なら初の現場に立ち会えただけよかっただろう」


 「あ、あの…。お二人は理解なさっているかもしれませんが、ぼくたちには話が見えません」


 静葉の過去を知っている俺と蓮、そして連夜れんやだけが黙認していたが、しげるを始めとする、静葉より後にギルドに入ってきたのもはただただ困惑の表情を浮かべていた。

 話もてもいいのか、と小声で静葉に訪ねると、静葉は首を小さく横に振った。そうだろうな、と思い茂に話せないと告げようとすると、静葉は突然伏せていた顔をあげた。


 「自分で話す」


 「そ、そうか…」


 「うん。茂君。私はね、このギルドに入る前は、皆がよく知る殺人鬼ミラージュだったの。人を殺したこともあるし、羅沙だって今も好きとは言えないわ。だって羅沙は私の故郷を滅ぼしたのよ?燃える街を見て笑っていた紺色の髪が未だに忘れられないの」


 紺色の髪、というところで茂が唾を飲み込む。

 紺色は羅沙を示す色だ。貴族か哀歌茂あいかも商業、皇族で無い限り羅沙の国民は紺色の髪をしている。

 そして同じように茶色の髪は明日羅を示す物だ。静葉はナイトギルドに入ってもその茶髪を染めることだけは頑固に拒否し続けている。故郷を表す色だから、と。


 「三年前の私は、殺人鬼ミラージュは羅沙の要人を一人でも多く殺して、羅沙を滅ぼすために帝都ラカジへ来たの。結局、殺人鬼ミラージュが殺したのは要職十三名。一般人二十名てところ。目の前に殺人鬼がいるなんて怖い?」


 「怖いって、どうなんでしょう?ミラージュは怖いですけど時津さんは憎くありません。おかしいですか?」


 「さぁ?時津静葉は、私はもうミラージュではないからそれでいいと思うわ。そして今日の事件の犯人たちは昔の仲間だった子たち」


 「昔の?それに仲間?一人ではなかったのですか?」


 「『ミラージュ』っていうのはね『蜃気楼』からきた名前なの。目撃証言多数。だけどどれも特徴が一致しない。屈強な中年男性だったり、まだ学生じゃないかっていう男の子だったり、女性だったり…。それが三年前のミラージュ。でも技術、傷跡から分かる剣の癖。そんなものはすべて一緒。だから羅沙はミラージュが複数犯だったと未だに思ってないの。

  確かに殺人鬼ミラージュであったことは反省してるわ。でもその過去は私の誇りでもあるの。私は故郷を燃やされた恨みを忘れたわけじゃないから」


 「……静葉。あの、沙良という子は?昔の仲間はお前がけりをつけただろう?」


 そう。静葉はナイトギルドに入る前にしっかり、ミラージュの仲間とはけりをつけた。もう羅沙の人を殺せないようにしたはずだ。

 全く関係ない人間にとって三年も昔のことかもしれないが、静葉や当事者にとってはたった三年前のことだ。静葉の決着のつけ方に不備があったとは思いたくない。あれは静葉にとって最善な策だった。


 「沙良は、三年前は技術が足りなくて参加していなかったわ。それが悔しかったみたいでよく私のところに剣を教えてって駄々をこねに来て…。私は人に教えるのは初めてだったから必然的に沙良が私の『一番弟子』になるのよ。おそらく今日の犯人たち、沙良の仲間たちは三年前の『ミラージュ』には参加できなかった、実力不足の子たちなんだと思う」


 入口の近くにいた青年等ならともかく、沙良と呼ばれた彼女だけは現在は「実力不足」とは言えない。そして昔の静葉にも言えることだが、正しいことをしているという感情は人から考えられないほどの力を生む。

 昔のように、静葉だけに任せて解決すべきことではないだろう。正式に軍からの依頼書も来る。その依頼書を中心として、正式にことを解決するべきだ。


 「この件では静葉を中心として動くのが最善だと俺は考える。珍しく黙っていたが連夜はどう思うんだ?」


 「オレ?オレは静葉にこの件に関わらせるつもりはねーぞ?お前は甘いからな、静葉。オレは昔に言ったはずだ。『殺人鬼ミラージュの再発になりそうな種を潰せ』と。それは昔の仲間だけじゃないぜ?たとえ全く見ず知らずの他人でも、ミラージュに憧れているとかなら、お前は殺すべきだったんだ。後始末を間違えた奴にもう一回任せられるほどオレは人を信頼できない。

  静葉。オレはお前がミラージュになることはないという事実を信じた。その条件を忘れたのか?」


 連夜は静葉に顔さえ向けなかった。こういう時の連夜は冷酷になる。

 確かに静葉がギルドに入るときに、俺たちは静葉に酷であり、最善の策を実行することを条件とした。志が同じ「ミラージュ」の仲間をひとり残さず殺すことだ。そして「ミラージュ」が再発しないように種を絶やすこと。

 そしてそれを静葉は実行したはずだった。


 「沙良は、人を殺す勇気なんてない。それは言い訳になるの?連夜」


 「さぁな?オレ頭悪いしわかんねー。でもオレは言い訳に聞こえるな」


 「そう。わかった。ナイトギルドとしては関わらない」


 強調された部分で静葉が何を言いたいのかは大体分かる。だが連夜は冷たい声でそれも否定した。


 「私生活でもやめろ。邪魔になる。お前がおかしいことをして疑われるのはオレかキセトだ。ただでさえもオレやキセトは髪の色から偏見をもたれやすい。お前はギルドから出るな。生活品とかはギルドで揃ってるだろ。どうしても調達したいものがあるのならオレかキセトに言え。

  自分の過去のことを他人に始末させるのがいやなら、三年前のチャンスに自分で始末しきるんだったな、静葉」


 連夜の言葉に静葉は立ち上がって叫んだ。


 「でも!沙良はきっと私が出てくると思って犯行を派手にする!私が出て行くまで!」


 胸倉をつかまれても連夜はただたんと言葉を発していく。


 「そのあたりに関しては相手がミラージュを名乗っていて助かったというべきだな。ミラージュという三年前の殺人鬼の罪も背負わせれば殺してもお咎め無しだろう。手に負えないなら殺す。手に負えそうなら飼ってやるよ、このギルドで」


 「連夜、私はっ!私は……」


 「まっ、お前をこの事件につけたら感情的になるだろ?そーゆの苦手なんだ。うざったしーじゃん。お前はギルドで砂糖でも食ってろって」


 「静葉。砂糖はともかく感情的になるな。あと連夜の決定はナイトギルドの決定だ。悔しいとか思うかもしれないが従え」


 「わかったわ。でもどうなったのか、どうしたのかは全部知らせて。私の後始末が悪かったあと、何が起こったのかだけは知っていてもいいでしょう?」


 静葉は連夜を離して、それだけ言うと自分の部屋へ行ってしまった。その後を無音でアークが追っていったので静葉のほうは大丈夫だろう。


 「連夜。言いすぎだ」


 問題はいつにもなく連夜が不機嫌であることだ。いつもの連夜ならこれほどの大事でも口を出したりしない。


 「三年前はあいつに仲間を殺すことを条件としたんだぜ? んで今回はあいつ自身の罪をも被った、あいつの弟子さんをあいつに捕まえさせるのか?お前はあいつにどれほど背負わせるつもりだよ」


 「……」


 「なんだ?その鳩が鉄砲喰らったみたいな顔は」


 「豆鉄砲のことだな?いや、お前がそんな風に考えてるとは思わなかった。純粋に邪魔だと思ったものだとばっかり」


 「それもある」


 やはりか。

 とりあえず静葉のためにも早めに解決して、早く結果を出してやろう。ナイトギルドに尽くす静葉に、それぐらいしか俺が出来ることは無い。



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