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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
日々というもの
10/90

006

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 ギルドの裏に広がる林にまぎれて存在する裏道。そちらに向かいながら相変わらずのギルドの扱いに呆れた。夜間の通行規制をしてるなんてなんていうガキ扱いだ。そんなことを言っているとすぐに反逆の容疑とか言われる立場なので声には出さないが。

 知っている抜け道の中で一番知られている道を進む。

 ギルドに所属する人間なんて殆ど三十代から四十代。皆いい大人なので夜に出かけないなど不可能だ。そういう事情もあってこの裏道は半商店街と化している。


 「んー?峰本みねもとじゃねーか。お前が夜出歩くとは珍しいな。女でもできたか?」


 「ちげーよ。相変わらずさびしい人生送ってますー。今回は情報集めで裏路地行くの。」


 抜け道にも出入りを記録する管理人が設置されている。後々疑われるのは嫌いなのでしっかりと自分の名前を記しておいた。


 「そーいや聞いたぞ。哀歌茂あいかも商業の跡継ぎが入ったとか」


 「あー。普通の男子、って感じだけどな。まっ、度胸はあるんだろうけど」


 「度胸がなきゃ、わざわざ無数あるギルドからナイトギルドを選んだりしないだろ。変人の集まりだって有名だぜー?特に隊長と副隊長が」


 「キセトが変なのは認めるが、オレはそうでもないだろ。自分に素直なだけですーだ」


 「自分に素直なのはいいが、素直すぎて隊長の仕事放棄するなよ。代表ギルドに入ったんだろ?初回の代表ギルドの各隊長が集まる会議、サボったらしいじゃねーか」


 「キセトが行ったつーの。オレ出席してもその場荒らすだけだしー。っと、名前かけたぞ、ほら」


 「相変わらずきたねー字だな」


 「ほっとけ」


 何やら手続きが済む間、携帯を弄って待つ。大体公式の手続きでもないくせに、何にこんな時間がかかるんだか。


 「ほらよ、失くすなよ?餞別だ」


 「餞別って、だから女相手じゃないって」


 渡されたのはいかにも女が好みそうな小物だ。


 「ばーか。証明書代わりだよ。いかにもなんて紙持って歩いて、もし見つかったらどーすんだ。この道封鎖されちまうだろうが。帰ってきたらそれここで返せよ。あと、お前に女ができる世界ならおれはもう結婚してる」


 「なーるほど。反論するが、オレもてるぞ。長続きしないだけで」


 そそくさと裏道を駆け出すと、後ろから畜生と叫び声が聞こえた。いや、オレ、顔はいいほうなんだからな? 

 裏道は住宅地に出る。深夜にうろついていると通報されてもおかしくないので、(オレの銀髪はそういうときに不便だ)ここも早足で通り過ぎる。目的地である裏路地自体、そう遠くない路地なのですぐにたどり着くのだが、たどり着いてからが問題というか……。

 どり着くと思ったとおり、ゴロツキと言われる者たちがうようよと溢れかえっていた。


 「おや?おやおや?公式ギルドでしかも代表ギルドにまでなったギルドの隊長様じゃねーの?」


 「夜のお散歩ですかー?余裕ですねー」


 下品な笑みを携えてオレのほうにゴロツキが集ってくる。この裏路地にはギルドに入りたくて入れなかった者や、裏ギルドの連中が溜まっているから仕方が無いか。

 少し手荒く集ってきたゴロツキを振り払ってからオレは奥へ進んだ。こんな入口にしか集れないようなレベルのやつらに何を聞いてもろくな情報は無い。それなら冷夏嬢のほうがよっぽど安全で効率的だ。


 「…っと、入口を超えると難関一つ目だな」


 裏路地に入口があるのがおかしいと普通なら言う。だがここはあって当たり前だ。

 中に何も知らずに入れば呑まれて終わり。一般人避けの入口を作って正解。裏路地なんて名前だけで実際には裏の街だ。


 「志佳しかに用がある」


 誰に、というわけではないが中にいるほどの手練なら、自分に害を加える相手ではないと分かれば攻撃はしてこない。目的をはっきりさせておけば変な誤解から攻撃されることも無くなるってわけだ。ここで変な騒ぎを起こしたくないオレにとっては楽な方法である。


 「私か」


 そしてもう一つ意味をつけるとすれば、周りから見ている野次馬の中に本人がいるかもしれないからだ。自分に用だと分かれば志佳なら名乗り出てくる。何せ情報を売り買いすることで生きながらえている人だ。


 「何の用だ?あぁ、あっちで話そう。酒ぐらいは持ってきた?」


 「あっ、忘れた。また持ってくる」


 「そうか。飛び切りうまいのを頼む」


 志佳の案内に従って奥へ進むと人影も急に少なくなってきた。道も複雑で帰り道も分からない。

 そして志佳を訪れると毎度案内されるある空間にたどり着いた。机が一つに椅子が二脚。奥側にある椅子には志佳が座り、真正面に置かれている椅子にオレが座る。短い言葉で志佳は話せ、とオレを促した。


 「情報が欲しい。焔火ほむらびキセトについて、あいつの過去についての情報だ」


 「私は適任ではないな。適任者を紹介してやろう」


 それだけ言うと志佳は立ち上がり、紙が積まれた棚から一枚の書類を引っ張り出してきた。それをそのままオレに渡し、そいつ、とだけ告げる。


 「写真が一枚か。子供ってことか?二人写っているが二人ともか?」


 書類自体に書かれた名前は一つだ。それに生まれた年を見るとS.C.セカンドセンチュリー2698とオレよりも年上である。


 「一人はお前が言う『焔火キセト』。そしてもう一人の名は書類通りで『篠塚しのづか晶哉しょうや』だ。その写真は昔に撮られた写真だということ。『篠塚晶哉』は帝都にいるから探せ。そして私の紹介だと告げろ。ありのままを話せ。判断はあいつがするだろう」


 「またてきとーだな」


 「夏樹なつきにも情報収集を頼んだのだろう?今お前が知るべきところは『篠塚晶哉』と夏樹冷夏れいかから得られることだけで十分だ」


 「全部知る必要ないってか?わざわざ訪ねてきた客にひどいんじゃね?」


 「手持ちの情報が少ないのもある。ともかく今日は帰れ。道しるべをやる」


 道しるべとして現れたのは男だった。フードを被り、陰になっていて顔がよく分からない。そもそも夜でしかもこの裏路地は昼でも薄暗い。相手の顔なんて見えるはずが無い。

 男は無言でオレが来た複雑な道へ進んでいった。男を見失うと帰れないので、志佳に聞きたいことを飲み込んで男の後に従う。オレより身長が高い。すると百八十後半か百九十か。オレでも周りより頭一つ分高いってのに…。ここまで来ると目立つに違いない。


 「あんたは志佳の従者なのか?」


 「違う。おれが求める情報をあいつは持っている。それを聞き出しにきた。そしてコレはその代償だ」


 「求める情報、ね。オレの場合知ってる奴を紹介されただけだったけど」


 「『篠塚晶哉』か。聞こえていた。彼は中々お前が見つけ出せる相手ではない」


 「知り合いか?」


 「よく知った仲だ。居場所は知らないがな」


 裏路地にくるような奴に知り合いがいるということは、『篠塚晶哉』も裏路地に出入りするような奴か。

 幼い少年が二人写った写真。「篠塚晶哉」とキセトらしいが、オレにはキセトがどちらかか断定することはできなかった。似ているわけではない。むしろ少年は全く違う顔をしている。だが纏う雰囲気的にどちらでもありえそうだ。


 「あっ、ここまでくれば分かる。ありがとな」


 「一つだけ聞こう。彼に会って何を聞くつもりだったんだ?」


 「ん?いや、キセトの過去を知ってる限り」


 「そうか。探すんだな。彼は帝都にいる」


 帝都に、か。志佳と同じ事を言う。

 だがギルド関連で知り合った奴に篠塚という名前は無かった。キセトの過去を知っているのだから元は不知火一族で今は偽名を名乗っているのかもしれない。探し出せたとしても志佳曰く、「判断はあいつがする」なのだ。話してくれるかどうかも分からない。


 「まっ、できることをできるだけすればいい話だよな」


 だが今日はもう夜遅い。一度ギルドに帰って明日から探せばいいか。そもそもこんな風に出回ってる理由がキセトなんだ。躍起になって探すことも無い。あいつならオレなんかが関わらなくても自分で何とかするに違い無いんだから。


 「御節介ってやつかもな。あいつ何も話さねーからこっちから調べるしかねーんだけど。まーだからといって勝手に調べるのも、とか言いながらもう依頼してんだけどな」


 「ん、そこの人っ!峰本じゃないっ!?」


 「んあ?」


 なんか聞き覚えのある声だなー。てか思い出したくない系の相手だ。あっ、そうだ。江里子えりこ嬢だ、これ。


 「どーも。なんか用か?」


 「今何時だと思っているの?なぜギルド街の外にいるの?規則破りなんだけど?」


 そういえば東雲しののめ江里子はギルド全体を管理する、帝国軍第二部隊の隊長だった。この時間にギルド街の外にいるギルド隊員を罰する権利も持っている。つまり状況的にオレが不利。


 「あーえーっと、お、女ができてっ!昼だけの付き合いなんてこの歳で無理だしっ!結構帝国軍だって夜の散歩にはルーズだし、ここでオレだけ罰さなくてもいいだろって話でっ!!」


 「女、か。お前に付き合うような女がいるのか?えぇっ!?」


 「それひどいんだけどっ!!とりあえず今すぐ戻るので見逃してくださいっ!」


 「始末書追加ぁぁぁぁ!!!」


 「うえぇぇぇっっ!?」


 ただでさえも松本姉妹の分の始末書もあるって言うのに。大体隊長が夜の散歩で始末書書いてるなんて、他のギルドのいい笑いものだ。

 いや、そもそもなんで江里子嬢がここにいるんだ?


 「えぇっと、始末書はまぁ書くとして、なんで江里子嬢はここにいるんだ?江里子嬢もコレ?」


 江里子嬢がオレの立てた小指を折った。それも本来曲がらない方向に。何か怒らせてしまったらしい。


 「見回り、だ!お前のように夜にギルド街を抜け出すようなやつらのためになっ!」


 「ひでぇっ!そして色気も糞もねぇっ!!」


 「お前に言われたくないっ!」


 「それもひでぇっ!!」


 怒ったのなら怒ったでいいが、人の小指を本来間接が曲がる方向の逆に折る必要はないだろ。

 相変わらずというか行動に移しやすいというか。人に優しくするなんて知らないひとだなぁ、ほんとうに。折れた小指が一瞬で治るとでも思ってるんだろうか、江里子嬢は。


 「お前の言うとおり夜の外出に関しては見て見ぬフリが多い。だが決められていることには理由がある。守るべきだと私は主張するっ!」


 「……じゃ、『理由』って何?」


 「私が決めたことではない。理由までは知らないっ!」


 「即答か。オレは江里子嬢のこと強敵だと思うぜ」


 「強敵?上司という立場の人間が嫌いなだけではないのか?」


 「さーなぁー」


 物事には理由がある。意味無きことなどない。

 よく聞くといえば聞く言葉だが、じゃ、理由って何だと聞いて即答できる奴は少ない。理由なんて知らない奴が殆どで、知らないこととは悩む。知らないままでいいと思っている奴はさらに少ない。知らないことを聞かれたら悩み、考える。

 だから即答はできない奴が多い、はずなんだけどなぁ。


 「女待たせてるから行くわ。じゃな。始末書はちゃんと書くよ」


 「むっ?ちゃんと帰れ。即帰れ。すぐ帰れ」


 「はいはーいっと」


 知らないままでいい。理由があるということだけ知っていればいい。そういう決まりだからそれを守らなければならない。なぜそう決まったのかは分からない。決まりだから、守る。

 そう考える人間に対して、考えを変えてもらいたいと思ったとき、てこずる。一つの大きな偏見を覆したいオレやキセトにとって、江里子嬢の考え方は強敵になる。


 「あっ、峰本君」


 「ん?」


 呼ばれたので足を止めて振り返ってみると微笑を携えた江里子嬢がこちらを見つめていた。


 「知らないかもしれないけれど信じることぐらいできるんだよ、人間にはね。今回裁かないのは、素直に帰ると信じるからだ!ついでに次はないということも」


 「…っ!?」


 「じゃ」


 ……まさか、江里子嬢にキセトと同じことを言われるとは。

 「知らないとしても条件次第では信じることができる」

 オレとキセトが出会ったばかりだというのにギルドを創立すると決まったとき、オレの問いへのキセトの答え。オレは確か、知り合ったばかりなのにオレのことを信用できるのかどうか尋ねた。あの時も、キセトは即答したっけ。


 「んー。それにしても繋がりすぎてる。江里子嬢にも探りいれてもらうか」


 ただ東雲高貴こうき繋がりか?よくわからん。わからないことは、調べようか。

 

 「あー、なんか楽しくなってきたかもなー」


 見つかればキセトは怒るだろう。隠れてこそこそと、追い詰めていくのも楽しいかもしれない。


 



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