弟三品
「こんにちわ」
厨房にいた店長に声をかけた。
「うぃっす」
声をかけた相手は店長ではなかった。
「たかはしさんですか」
「たかはしじゃなくて、かたはしだ」
切れ長の目で睨まれた。
たかはし…失礼、かたはしさんは厨房でバイトしている。名前は方橋宙瑠さん。調理師になるのが小さい頃からの夢で調理関係の大学に通っている。
「高野、これ食うか?」
店長に許可を得て方橋さんは時々厨房を借りる。厨房で方橋さんに会うと何かしらの料理を食べさせてもらえる。
今日はケーキを作ったみたい。
「ニンジンケーキだ」
「いただきます」
いつも無愛想で恐いけど作る料理は大体お菓子。この前はクッキーを焼いた。その前は餡蜜、更にその前はマフィンを作った。…乙女かっ!
「美味しいです」
「本当か?」
方橋さんはじっと私を見る。
「本当に美味しいです」
「そりゃ、どうも」
方橋さんはもう一つのケーキを持ってきて食べた。
「高野に毒味させたけど、問題ないから食う」
「毒味させたんですか」
「そうだ。何か文句あるか」
「別に」
方橋さんは声を出さずに笑った。怪しい〜(笑)
何だかんだ言ってケーキを完食した。
「そういえば、高野はここで女一人だけど平気か?」
珍しく方橋さんは私を気遣った。
「まぁ、平気です」
「そうか、なら良いけど」
方橋さんもケーキを完食し、お皿とフォークを洗い始めた。
「私も洗います」
自分のお皿とフォークを持ち洗おうとした。
「洗うから置いとけ」
ぶっきらぼうに方橋さんは言った。
「高野はカウンターでも拭いてろ」
私に向かって布巾を乱暴に投げた。
「宙瑠、女の子に優しくしないと。ね」
店長はクスクス笑って方橋さんに言った。
「何が、ね。だよ。このスマイル馬鹿」
店長と方橋さんは幼稚園の時から一緒。店長は大学生。いい忘れました、店長は大学がお休みの時と大学が終わってから店で働く。店長のお祖父さんがオーナー兼店長。だけど、最近は体があまり良くないらしく店長がお祖父さんの代わりに店長をしている。
「宙瑠、店長にそんなこと言っていいのかな」
方橋さんは黙ってしまった。
「聖ちゃん、夏萌くん達は?」
「夏萌は学校に忘れ物したみたいで一旦学校に戻りました。鈴木先輩はまだ授業です」
店長は「そっかー」と呟いた。
店のドアが開く鈴の音がした。
「お客さんかな」
店長は「いらっしゃいませ」と言いながら厨房を出た。
ふと、方橋さんはの方を見ると目があった。
「優しくしないとだめですよ」
「はぁっ?」
私も厨房を出た。