弟二品
「そもそも、夏萌くんが何故こうなったのか分からないんですよね」
店長は首を傾げる。私も分からない。
「あれちゃいます?」
鈴木先輩は私と店長の肩に手をまわし、円陣を組むような形になった。
「会計の時、夏萌が」
と言って首を傾げた。
「すまん、やっぱちゃうわ」
円陣の体勢から元に戻った。
「なんやろな〜」
鈴木先輩が頭をひねり、考える。
「僕帰ります。お疲れ様でした」
夏萌はスタッフルームを出た。
「お疲れ様ー」
「夏萌のやつ、どないしたん?」
「元に戻ったから良かったですけど…」
それから私と鈴木先輩もスタッフルームを出、バイトを終えた。
店の裏口から出て鈴木先輩と別れた。
「聖ちゃんは別嬪さんやから気をつけて帰りやー」
等々言い、私の家路と反対方向の道を歩き始めた。
「聖、」
「うわっ!」
真っ暗な駐車場にぼうっと、夏萌のシルエットが浮かび上がった。
「ごめん、脅かすつもりは無かったんだ」
「私こそごめん。幽霊かと思った」
夏萌は笑っているらしく、肩が上下に揺れている。
「外が真っ暗だったから、聖を送ろうと思って」
夏萌と家は近所だ。近所というか、お隣さん。
「そりゃ、どうも」
私と夏萌は歩き始めた。
「ねぇ、夏萌」
スタッフルームでのことを聞いてみよう。
「何?」
「今日というか、さっきはどうしたの?」
夏萌は立ち止まった。
「今日ね聖がバイトに来る前、店の裏口で告白されたんだ。相手が男でさ…。精神的なショックが大きくて」
「なるほど」
夏萌は力なくフッと笑った。
「相跡夏萌くんですか」
体格のいい男が電柱の光に照らされて現れた。男の制服は隣町の私立高校だった。
「今日はすみません。あれ、間違えでいい忘れたことがあるんです」
見た目の割には丁寧な話し方だ。
「好きなのは、夏萌くんではなく君のお姉さんなんだ」
夏萌のお姉さんは夏萌と似ていなくて、ふくよかな人だ。
「お姉さんに伝えてほしい」
男は頭を下げ、どこかへ行ってしまった。
「助かった〜」
夏萌はペタンと地面に座った。
「良かったね」
夏萌は大きく頷いた。
「夏萌、帰ろう」
夏萌と真っ暗な道を歩いた。