第二話・各々準備は十全に②
「さて、どうすべきか……」
一方、そのまま会議室に残ったキースらアルベルト派は今回の『ゲーム』の作戦を練っていた。先程8人で使っていた円卓を、今はイキシア、キース、カイト、オルテンシアの4人で囲んでいる。
「キース、戦においてはこちらがどうするかよりあちらがどう動くかをまず考えるものだ」
疑問に答えるのはアリステア軍の長たるイキシアだ。先程の会議で見せていた丁寧な口調は鳴りを潜め、まさしく将軍といった風格を見せている。彼女は政治的公の場では王女然とした態度をとるが、一度そこから離れると今のような様を見せるのだ。
「それもそうだな。で、我が国の戦女神はどう考えているのか?」
「兄弟に『戦女神』等と呼ばれるのは少し気恥ずかしいものがあるな」
キースの茶化した呼び方にまぁ気分は悪くないが、と漏らしながら笑みを見せる。
「相手の動きだが、まず間違いなく籠城を選ぶだろう」
「だろうな。あっちだって馬鹿じゃないんだ、わざわざ俺ら王国の最高戦力と正面衝突したがるかよ」
イキシアの断言にカイトも同意した。
アリステア王国の誇る戦巧者であるイキシアは、今回のように命令系統の違う親衛隊でもうまくまとめ上げて見せるだろう。となればライナス派が野戦で勝てる道理がない。
いや、たった800人。しかも200、300、300の混成部隊程度ならば経験豊富なイキシアとその親衛隊だけで事足りる。
「しかし、万が一という可能性がある。向こうにはアルベルト兄上がいるのだからな。何をしてくるかわかったものではない」
キースがその断定に懸念を示すが、イキシアはそれを笑い飛ばした。
「野戦では私に一日の長がある。大がかりな罠を仕掛けられてはどうかわからないが、流石に二日でばれないようには用意できないだろう」
そして罠さえなければ、自分が負ける道理はない。
この弟は少しばかり臆病の嫌いがある。それは彼の欠点であるが、またいい所でもあると彼女は思っている。
こういった作戦を練る時は、少し臆病すぎる人間が一人はいた方がいいのだ。
「そうよね~。いくらアルベルト兄様でもそれは無理よね」
オルテンシアはが腕を組んで唸った。
彼女のアルベルトへの敬愛分を上乗せしてもその結論。つまりは野戦はほぼありえないということだ。
「と、なればやはり攻城戦ですかな?」
カイトの後見である貴族、フランシス・オーデッツ伯爵が笑みを張り崩さず問いかけてきた。この男は先程の会議が終わると同時に入室してきて、今はカイトの後ろに控えている。
嫌な男だ、とイキシアは思う。いつも笑みを湛えているのはライナス兄上や弟のクロノスも同じだが、兄が優しい笑みを、弟が朗らかな笑みを浮かべているのに対し、フランシスには粘着質な笑みが張り付いている。
こういった笑顔を浮かべるのは大抵腹に一物抱えている人間だと相場は決まっているのだ。
それを考えると弟が何を考えてこのような輩を後見に選んだのか疑問に思う。カイトは6歳の頃に今までの後見を排し彼を据え置いたのだ。何があったのか知る由もないが、良い予感など起きようはずもない。
ともすれば舌打ちでもしそうな心持になりながら、なんとか堪え話を続ける。
「そうだな。だが三日間では兵糧攻めもできない。故に攻め落とさねばならないのだが……プラム!」
「はい」
呼ばれて応えるのは彼女の後ろに立つ、プラム・スカーレットである。彼女はイキシアの親衛隊長を務めている女性だ。長らくイキシアとともに戦場に立っており、今や互いに求めているものがわざわざ口にしなくてもわかるほどの関係である。
彼女は軍事面でイキシアをサポートするために、ほぼすべての砦、戦場の情報を脳内にインプットしている。それは武器、兵器の数から小隊単位の特徴にまで至る。彼女がアリステア王国軍のブレインと言っても過言ではない。
彼女は赤く長い髪を揺らしてイキシアの所望する情報、使えそうな兵器の数を頭の中から引っ張り出してくる。
「攻城用の兵器である移動櫓が20機、梯子が43台。今回の『ゲーム』に使用できるであろう兵器の数です」
移動櫓とは敵の城壁を超えるために使われる移動式の櫓である。
梯子は何十メートルにもなる長さのもので、これもまた立てかけて城壁を超えるための物だ。
「投石機や破城槌はないのか?」
キースは攻城戦の定石である投石機、破城槌を所望する。それぞれ城壁や城門を破壊するための兵器であるが、
「申し訳ありません。投石機や破城槌は前線の城にしか置いていませんので」
「そうか……」
プラムの言葉を聞いても彼は別段残念がったりはしなかった。イキシアもキースと同様の態度をとる。今の時代、大きな戦乱もなく軍事費は削られるばかりだというのに、宝の持ち腐れをする余裕は小国アリステア王国にはない。
それに攻城戦において投石機、破城槌は確かに有用であるが、あまり兵器類を多く持ち運んでも使えるだけの人数もいない。
ただ、とプラムは表情を変えずに言う。
「今挙げたのも軍の倉庫に備蓄されているであろう組み立て以前の物を加えた数字ですが……」
「組み立て以前?そんなの使えないじゃないの!!」
オルテンシアはバンッ!と勢いよく机を叩き、プラムを怒鳴りつけた。
「いや、あれらは一から作るならともかく、既にできているパーツをくみ上げるだけならそれほど時間がかからない。そのまま運んでクランスター砦で作れば十分間に合うさ」
オルテンシアも姉であるイキシアの言葉に一応納得したのか、渋々ながら席に付く。
その様子を一瞥すると、イキシアは立ちあがった。
「では私とキースの部隊でそれらの兵器を、オルテンシアの部隊は兵糧を、カイトの部隊は武器等他に必要な物を運んでくれ」
「決まったんならさっさと移動しちまおうぜ!後は向こうについてから考えればいいんだ」
カイトが急かすように言う。傍から見てもうずうずしているのが丸わかりだ。『ゲーム』が楽しみでしかたないのだろう。
カイトは幼いころから戦争に憧れている節があった。今回の『ゲーム』はルールの決まった試合のようなものとはいえ、戦争に近いものがある。つまりは彼にとっての初めての実戦になるのだ。楽しみでないはずがないだろう。
そんな様子の彼に嘆息しながらイキシアはパンッと手を叩いた。
「よし、それでは各々早速準備を始めてくれ」
こうして彼らは各々の準備に向った。