第二話・各々準備は十全に①
「しかし、おかしなことになったものだね」
会議室から退出したライナス派の面々は廊下を歩みながら話し合っていた。その中でライナスがため息をつきながら首を振る。
「そうですねぇ。あちらさんが掲げるのは『アルベルト兄上の国王就任』なのにぃ、肝心のアルベルト兄上がこちらの陣営ですからねぇ。アルベルト兄上はどうするつもりですかぁ?」
クロノスは苦笑しつつライナスに同意し、アルベルトに話を振った。
「もし我々が破れるようなことがあれば、私はおとなしく国王の座に就くつもりですよ。しかし……」
「ん~?何か問題でもぉ?」
コテンと首をかしげるクロノスをちらりと見やり、アルベルトは続けた。
「我々が勝てばライナス兄上の国王就任に貴族の支持を得やすくなるというのはわかります。しかし彼らが勝ったところで本当に国民の支持が得られるのでしょうか?」
あえてあの場では言いませんでしたが、とは言わない。キースにもなんらかの理論あっての提案だと思うし、その理論を聞いて反論できるとも限らない。
自分が相手の理論を聞いた上で潰せば周囲への説得力が上がるが、逆に言い負かされればこちらが不利な立場に置かれることになる。わざわざリスクを冒さなくても、あの場では各々の判断に任せた方が味方が増えるとアルベルトは考えたのだ。
彼は感情を理解するという点において人より劣る事を自分自身で理解している。
尤も、拮抗してしまった戦力比を考えると指摘しておけばよかったと思わないでもないが。
「うーん……まぁ、得られないだろうね」
「ライナス兄上もそう思いますか?」
うんうんと頷くライナス。
「確かに貴族は力ある者に王になってもらいたいだろうね。弱小の王に捧げる忠誠など彼らは持ち合わせていないだろうから」
まぁ野心のある人たちは無能の方がいいのかな?
「でもね、国民はお上のゴタゴタなんてどうでもいいんだよ。自分たちの暮らしが保障されていればそれでいい。とくればお優しい王様の方がいいだろうね、厳しい王様よりは」
ライナスの意見を聞いたアルベルトは、こういう点においてはやはり兄は優秀だと思った。彼は自ら政策を打ち出す優秀さは無いが、人の心の、その動きを理解することに関しては兄弟の中で一番長けているだろう。
その事を知っていればこの人を無能扱いなど出来ようはずがないのだが、とも彼は思う。
「もちろんお優しいだけじゃ政治はできない。けど私にはアルベルトがいるからね。私が政治の方向性を決め、アルベルトがそれを成す。これが理想の布陣だと思うよ」
ふと話がそれてきたことを理解した彼はコホン、と一つ咳を入れ話を切る。
「結局今回のゲームで勝った人たちが示せるのは力だけだ。だからこのゲームで得をするのは私達だけのはずなんだっていうのは僕でもわかる」
だからこそおかしいのだ、お世辞にも頭がいいとは言えない自分でも気づくのに、とライナスは首をひねった。
「でもぉ、あちらさんが勝てばアルベルト兄上を就任させられますよぉ?もともとその気が無い人を就かせられるんですしぃ、向こうとしてもやる価値は十分あるんじゃないですかぁ?」
クロノスの疑問にアルベルトは考える。言われてみれば別にアルベルト派に益が無いわけではないのだ。そして益があるなら、このゲームに特段おかしなことは見当たらないのだ。
「そうなんだけどね……本当にそれだけならいいんだけど」
「……そうですね」
ライナスとアルベルトはそれぞれ眉間にしわを寄せ、深いため息をつく。
「何か懸念でもぉ?」
そんな兄達の様子を不審に思ったクロノスが尋ねた。
「……いえ」
アルベルトは視線を逸らし、言葉を濁した。それに対して、ライナスは言いづらそうな顔でなんとか言葉を紡いだ。
「う~ん……確証のある事じゃないから今は言わないでおくよ。僕も掴み切れてる訳じゃないからね」
できれば、自分の思っている通りでなければいいんだけど、という兄の呟きが妙にアルベルトの耳に残った。