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アリステア王国存亡記  作者: ぞなむす
第一章・新王選定
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第一話・始めるための初めの会議③

 それは先程も反対の意を述べていたイキシアだ。長らく沈黙していた彼女がここで声を上げた。


「それでも兵を失うことに変わりはないでしょう」


 確かにその通りだ、とキースは思う。真剣の使用を許可する以上、兵の死傷は免れない。


 しかし同時に思う。甘いな、とも


「潜在的な内乱の危険を抱えるよりは随分とマシだ。ライナス兄上を王にすれば貴族の反発を買い、アルベルト兄上を王にすれば民衆の反発を買う。どちらを王にするにしても、有無を言わさぬ戦いで決めてしまえば渋々でも納得するだろう」


 それに、率先して後継争いをしてしまえば、いくら力のある貴族たちといえども余計な口出しすることは出来ないだろう。


 それだけでなく、王位継承争いをゲームにすることで王子らの生存率は確実に上がる。普通、後継争いでは多くの兵士が死に、何人もの王子が命を落とすことになる。最悪、最後の一人になるまで戦いが終わらない。


 それを考えれば、その程度のリスクは安いものだ。アリステア王国の王子らは優秀な者達が多いのだから。


 だが、イキシアはそれを聞いてなお納得できない様子であった。


「何か他に方法が」


「あるかもしれん。しかし、表向き戦争と見せる以上、リアリティを重視したこの命の懸かる方法が一番だ」


 絞るように出されたイキシアの言葉を遮り、キースは平坦な声で言った。


 命のかからない争いは些か真剣さを欠く。当の本人達が真剣であっても、周りがそうは見てくれないかもしれない。特に、擦れた貴族達の目から見れば。


「彼らの目にお遊戯と映ってはいけないのだ。彼らを納得させられなければこのような『ゲーム』、端からやる意味はない」


 貴族と国民、両方を納得させるための『ゲーム』である。そうである以上、妥協は許されないのだ。


「……そもそも、そううまくいくものでしょうか?仮にライナス兄上が勝ったとして、貴族たちは付いてくるでしょうか?」


 イキシアはなおも食い下がる。が、それを説得したのはアルベルトだった。


「その心配はいりません。そもそも今回の継承権争いの焦点はライナス兄上と私の能力の差にあります」


 彼はちらりと兄を見、イキシアの方に視線を戻す。


「ライナス兄上が私を使いこなし私を王にと望む者たち、ここではアルベルト派としておきましょうか、アルベルト派を押さえこめたなら、貴族たちも実力を認めざるを得ないのですよ。そういうことですよね?キース」


 キースの方に振り向きながら確認を投げかけるアルベルトに、キースはゆっくりと頷いた。


 アルベルトの後見となった貴族達の中にはもちろんアルベルトに忠誠を誓うものもいるが、多くは彼が王となることで得られる見返りを計算した上で彼についているのである。それが得られないとなると、猛反発が起こるのは必至だ。


 それを「ライナスはアルベルトという力を従え、使いこなすことが出来る」というアピールをすることで抑止しようというのだ。


 その議論を聞いて、そこまで理解しているのかどうかはわからないが、ライナスは一度大きく頷くと言い放った。


「やろうか。そのゲーム」


 笑顔を崩さない彼に不快を隠そうともせずオルテンシアが怒鳴る。


「勝手に決めないでよね!無能の分際で……」


「オルテンシア、人を貶める発言をしてはいけません」


「でも……!」


「オルテンシア」


「……はい」


 敬愛する兄に窘められたことでオルテンシアはしゅんとしてしまった。ライナスはそんな彼女に一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべるも、あえて声はかけずに話を進めた。


「じゃあチーム分けしようか。え~……ライナス派とアルベルト派だったかな?」


「そうだ。では一人ずつどちらの陣営に入るか、宣言してもらおう」


「当然!私はライナスの方に入りますわ!!」


 キースの言葉を聞くや否やサルビアが勢いよく立ちあがり宣言した。しかし、


「王妃陛下。今回のゲーム、あなたは参加しないでいただきたい」


「な、何故です!?」


 キースの拒否に悲鳴のような声をあげるサルビアへ、アルベルトがすかさずフォローを入れる。


「私達がゲームを行う期間は五日間とは言え、その間国政を放っておくことになります。ただでさえ国王陛下が崩御なされて国政が乱れているこの時期に、国の舵取りを担える人間が全て居なくなるというのはいただけません」


 それに、


「このゲームは私達王族にも危害が及ぶ可能性のあるものです。兄上も、そして私自身もこのゲームで命を落とす可能性もあるのですよ。その上王妃陛下にまで危害が及んでしまっては誰がこの国を導いていくのですか?」


 アルベルトの論理を理解できるがゆえに、サルビアは意気を消沈させていく。


「あってはならない事ですが、私のライナスが万が一、いえ億が一にもそのような状況になってしまったとしましょう。それでもまだイキシアやクロノスがいるでしょう?」


「その誰かを決めるためにまた『ゲーム』をさせるつもりですか?」


 なんとか反論するもアルベルトの切り返しに勢いを失ってしまう。


 だが、アルベルトはそのまま畳みかけるように言葉を続けた。


「王妃陛下には私達がゲームをしている間国政を担っていただき、万が一兄上と私の両方が命を落とした場合、あなた様の一存で国王を決めていただきます」


「それでは納得しない者もいるでしょう!」


 それでも認めたくないサルビアは絞り出すように言う。アルベルトは理屈の面ではおよそ隙のない理論を組み立てるが、それゆえに人の納得を得られない。彼の言葉を聞いた他者は、その完璧で無駄のない論理に感情が追いつかないのだ。


 凡人は天才の考えを理解できないが、天才もまた凡人の考えを理解できない。優れた天才の持つ彼の唯一の欠点と言える。


「国のトップがいない状況を作るよりはるかにマシです。それに私と兄上が同時に死ねば国の混乱は避けられません。その隙に乗じれば、割とあっさり受け入れられるはずです」


 王位継承権一位のライナスと最有力候補のアルベルトが相次いで亡くなれば、彼らを支持する貴族、すなわち貴族の大半は御輿を失うことになる。つまり彼らは支持する者が決まらず宙に浮いた状態となるのだ。


 そこにすぐさま王を決めてやれば、優秀な者ほど我先にと王の支持に乗り出すだろう。彼らの王への支持が遅れれば遅れるほど王の寵愛からは遠ざかり、地位や名誉といった甘い汁を吸えなくなるのだから。


「……わかりましたわ。此度のゲーム、私は傍観者の立場をとりましょう」


 納得はできなていないが、それでも筋が通っていることは理解できてしまった。結局サルビアはそのまま押し切られる形でゲームへの非参加を受け入れた。


「さて、改めてチーム分けをしようか」


 彼女が押し黙ったことを認めたキースは、今一度辺りを見回し確認をとる。


「僕はもちろんライナス派だね」


「私もライナス派に付かせてもらいます」


 まず、ライナスが自分の所属するチームを宣言した。続いてアルベルトも宣言し、ライナスの後ろに立った。


「私はアルベルト派に付かせてもらいましょう」


 イキシアは彼らとは違うチームを宣言し、その場を動かなかった。


「僕はライナス派ですねぇ」


 クロノスは間延びした声で宣言しながらライナスの側に席を寄せた。


「私はアルベルト派だ」


 キースが立ち上がり、座っているイキシアの後ろにつく。


「俺もアルベルト派だ。無能の下に付くなんてまっぴらだからな」


 そう言ってカイトもイキシアの後ろにまわる。


「私もアルベルト兄様派!あんなやつが王様なんて絶対嫌だもん!」


 ライナスにあっかんべーをしてイキシアの後ろへぱたぱたと向う。


「決まりましたわね。では、このチーム分けで争うこと。よろしいですね?では解散!!」


 二つに分かれた子らを見てサルビアが解散の宣言を行った。


 こうして一方の旗印がもう一方のチームに所属するという、少し変わった後継者争いが始まったのである。


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