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アリステア王国存亡記  作者: ぞなむす
第二章・四カ国会議
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第五話・行方不明の道標④

 クロノスが現実に打ちのめされているまさにその時、御白は別のことを考えていた。

(……八神教に興味を示さないのは一向に構いません。宗教は心の支えであり、必要な者だけが信仰すればいいのですから。しかし八神教への侮辱、これはよろしくない)

 彼は一度瞑目する。

(いくら選挙制度によって選ばれた者達の代表として来ていても、共和国全体が八神教を侮辱しているわけではありません。今現在も多数の信者がいて、いくつもの神殿もありますからね。ですが、テオドール・マッシという男性個人には少々痛い目を見せてあげないといけませんね。八神の教皇として)

 御白は眼を開き、テオドールに視線を向けた。睨みでは断じてない。が、力ある瞳だった。

「マッシ外交官殿。宗教とはそういうものです。人々がよりよい暮らしを行うために神々という模範から学び、そして模範となって頂いた神々に感謝をする。それが八神教というものです。ですのでマッシ外交官殿がおっしゃったことはあながち間違いでもありません。ただ一つ訂正させていただくのなら、全てが全て人間に都合のよい教義ばかりではありません。人の行動に制約を設け、そのことにより隣人や自然を守り、結果的に従う者の益となる教義もあります。それはつらく苦しいものですが、そういったものもあるからこそ信仰する価値のあるものだと私は考えております」

 毅然とした態度でそう述べる彼に、しかしテオドールはその態度を崩さなかった。

「だからこそ信用ならないと申し上げているのですよ。宗教など結局は人間のための教義。それに従うからといって信用など出来るはずもないでしょう。所詮理で動いているのだから」

「あなたには一度八神教の教えに深く触れてみることをお勧めしますよ。八神の教皇は必ずそれに従います。そうでなければ教皇などという地位に就けようはずもございません。最も敬虔な信徒のみが神の代理として人々を導く役目を与えられるのですから。共和国の外交官に選ばれるほどの人間ならば、教義を知るだけで私の心の内など透けて見えることでしょう」

「どうでしょうかねぇ? 私ごときでは到底八神教の深淵に辿り着けるとは思いませんから。その深淵の部分で言い訳をされては私としてはどうしようもないのですが。それに人の心などいくら覗こうとしたところで見えるものではないでしょう。そもそもあなたが八神教に殉ずるということ自体信用できないのですから。どうです? 教義だなんだと仰らずに、正直に『今戦争しても儲けられないから』と仰ってみては。理と利を提示されれば我々としても納得できるというものです」

 テオドールはニタニタといやらしい笑みを向けてくる。確かに言いたいことは理解できる。不確かな心よりは明確な損得勘定の方が信じられるということは。しかしその言い方が頂けない。心こそが重要な宗教の教皇に対して心を否定し、更にはさりげなく『我々』と言って他の者たちも巻き込んでいる。八神 御白の言うこと等誰も信じてはいないのだと、御白の疑心暗鬼を誘っている。その発言には彼の心の内が透けて見えるようだった。

「先程も言った通りです。現状起こり得る戦争に正義はなく、すなわち八神教が容認する道理はない。ならば八神皇国が不戦協定を破棄する理由もない。教えにしたがって生きる、それが我々の理であり、利でもあります」

 もちろんそれに取り合ってやる義理は御白にない。彼はあくまで余裕のある表情を崩さなかった。

 もっとつっかかってくることを期待していたのだろう、テオドールはおもしろくなさそうにふんと鼻を鳴らしただけだった。

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