第三話・縁の下の奔走者達②
「それで大会のほうはどうなんだ?」
カイトは視線をクロノスから外に戻し、城門付近の広場に設営されている会場に目をやった。そこには剣闘大会と記された看板が掲げられている。
「その辺はアルベルト兄上とフィルの管轄だからねぇ。でもぉ、このお祭り騒ぎにふさわしいだけの大会にはするつもりみたいだよぉ?」
「……これだけ人が集まれば優秀な人間もいるだろう、ってことか」
大勢の人間の中に、王国が望むような優秀な人間は一握りしかいない。それこそ何厘といった割合だろう。それでは大会を催したところで大した実りは得られない。
しかし分母が増えれば、それだけ分子も増える。このお祭り騒ぎで人が増えれば、他国で日の目を見なかった優秀な人材はもちろん、隠れた逸材を見つけ出すことも出来るようになる。
「それもあるけど、これだけ賑やかにしておいて四ヶ国会議が宣戦布告になりましたじゃどこの国も外聞が悪いだろぅ?」
「なるほどな」
カイトはふむと頷いた。
確かにこれだけ他国の人間も集まって無自覚な証人となり、かつ明るい雰囲気の中で会議が行われるならば。宣戦布告などという民達を絶望させるに十分な話題を突然出すことも容易ではないだろう。
戦争が民達に受け入れられるには、相手国への敵意が必要だ。それが自然発生したものであれ、作られたものであれ、戦う理由が必要なのだ。
しかし現在の四ヶ国は前アリステア国王の尽力により、小競り合いはあっても大きな戦争を経験してはいない。つまり、相手への敵意が育っていないのだ。そんな中でいくら戦争を唱えようとも、民の士気が上がる訳がない。
「兄上たちには他にも思惑があるみたいだけどねぇ」
「思惑、ねぇ……」
カイトは柄にもなく空を見上げた。
四ヶ国会議を成功させる、大会を成功させる。それ以外にも目的があるのか。
それはおぼろげながらも彼の脳裏に浮かんだが、ハッキリとした言葉とはならなかった。
それよりも腹立たしいのは、自分の関与していないところでそういった話が進んでいることだ。
確かに自分はまだ若年である。それは覆しようのない事実なので異を唱えるつもりはない。だが若年だからと侮られるのは我慢ならない。自分も兄や姉達に及ばずとも追いすがるだけの力はあるのだから。
「俺は俺で動かせてもらおうか」
「ん? 何か言ったぁ?」
「いや、なんでもねぇよ。なんでもな」
カイトは不思議そうな顔をするクロノスを置いて、彼があるいて行くであろう方向とは逆の方向に歩きだした。