第三話・縁の下の奔走者達①
あらかじめ宣言しておきますが、大会内容はまるまるカットして、外伝として書く予定です。要望があれば先に書いてもいいですけど。
「数日後には国の命運を左右する会議が始まるっていうのに、まるで祭りだな……」
カイトが城の窓から見下ろす風景は、活気と熱気に満ちていた。その喧騒は人が豆粒ほどにしか見えないここにも届き、普段から人通りの多い大通りは地面が見えないほどに人が行きかっていた。
「まったく、いい気なもんだな」
たった三週間しか経っていないはずなのに、もう国王の死などなかったことのようである。そのことがまた彼の気分を害していた。
「まぁ、そうなるようにし向けたからねぇ」
そんな彼の独り言に答えるのは、書類の束を腕に抱えたクロノスだった。
「よぅ、忙しそうだなぁ」
「四ヶ国会議の日程が迫ってるからねぇ。外交となると僕の専門分野だからぁ、頑張らないとぉ」
いつもの笑みを苦笑に変える彼に、四ヶ国会議に向けた調整や根回し、裏工作がそれだけ忙しいのだろうことを感じ取った。
「共和国の方々はそれは譲れないあれは欲しいってわがままばかりでねぇ。しかもそれが使える情報になればいいんだけどぉ、無茶苦茶な要求ばかりで何の益にもならないんだよねぇ。無理だってわかってることを言ってくるんだからたちが悪いよぉ。帝国の方々は帝国の方々でぇ、重要なことは皇帝陛下が決めて下さるの一点張りでぇ。ちっとも進まないんだよぉ」
通常、国家同士の会議などはそれ以前に裏で入念な打ち合わせをしてから挑む。そこで自分の要求などをさりげなく示し、相手の要求を読みとり。そこから自分達が切れるカードを用意しその切り方を構築してから挑むのである。そうしなければお互いに会議へ一発本番で挑むことになり、カードの切り間違いや、そもそも最低限保持すべきラインを見誤ったりすることがある。それが相手国のミスであった場合は幸運だが、自分達がそのようなミスをした場合目も当てられない結果となる。
そのような綱渡りの外交を出来るほど、四ヶ国の均衡は甘くない。たった一つの大きなミスで、即世界大戦が起こってもなんら不思議ではないのだ。
ゆえに彼らの態度はわざとミスを誘発させ、戦争を引き起こそうとしているともとれるのである。真意はどこにあるかはわからないが、平和を標榜するアリステア王国にとっては頭の痛いことであった。
「こうなったら各国の状況からできるだけ相手の要求を予測してぇ、こちらの切れるカードを出来るだけ多くぅ、幅広く用意しとかないとぉ。それだけしたら後はライナス兄上に任せるしかないねぇ」
「大丈夫かよ……」
今の国王は無能と呼ばれ続けたライナスである。『ゲーム』では冴えたところを見せていたが、カイトが不安になるのも仕方のないことであった。
何せ四ヶ国会議に出席できるのは、その国のトップとその補佐だけなのだから。そして補佐の者ばかりが話していれば国王に無能の烙印を押され、王国自体が舐められ発言力が低下してしまう。
もちろんライナスが無能であるということは各国に知れ渡っているのだが、それは能ある鷹が爪を隠していただけだと他国に知らしめる必要がある。普通の国家ならば、爪を隠し続ける選択肢もあるかもしれない。しかし、大国に囲まれた小国・アリステア王国が発言力を失うことは国家の滅亡を招くことになる。
「信じるしかないねぇ。ライナス兄上は国王としての政務もちゃんとこなしてるしぃ、それにその合間を見つけて僕に教わりに来てるくらいだからぁ。付け焼刃でしかないけどぉ、ちゃんと切れる刃は付けてあげるよぉ」
「……」
そう言われれば、カイトはライナスと、それを支えるアルベルトやクロノスといった者達を信じるしかなかった。




