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第二話・見送られる人、見送られない人③
夜、ひっそりとした裏庭に柔らかな月光が降り注いでいる。その中で黒々とした影が三つ、絵画に落とした絵の具のように存在していた。
そのうち二つの影が頷き合い、手に持った大きなスコップで花壇を掘り返し始めた。初めは植えられた花の根っこを傷つけないよう慎重に、丁寧に。次は大きくスコップを突き立てて。そして最後に底が平らになるように。
すべての作業が終わった後、二人は三つ目の影に手を伸ばした。質素な布に包まれた人間大のそれを、二人で揺らさないように持ち上げる。そしてそれをそっと、穴の中に横たわらせた。そして同じく穴にワインの瓶と一振りのナイフを入れて、優しく土をかけてやった。
「……」
「……」
一見元通りになった花壇の前で、二つになった影が瞑目する。二人は声を掛け合うことなく、その場を去った。
それは月だけが見ていた、3人だけの別れの儀であった。