第二話・見送られる人、見送られない人②
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「兄上、お疲れ様です」
「うん」
城に戻ったライナスを出迎えたのはアルベルトだった。
いや、出迎えるというよりかは仕事中にたまたま通りかかったのだろう。その手には書類の束が抱えられている。
「……大丈夫かい?」
そんなアルベルトに違和感を覚えたライナスは、ずいっと彼の顔を覗き込んだ。
アルベルトの肌はこの地方の男性としては白い方なのだが、今日はその肌の白さがより増しているように感じたのだ。
それは国家の変動期における激務と、我らが父上の死が原因であろうことは容易に想像がついた。
「兄上の方こそ」
「僕は……まぁ、吐きだせるからね。これでも、心の整理は付けられる方だよ。でもアルベルトは……」
「大丈夫ですよ。少なくとも情勢が落ち着くまでは弱音を吐くつもりはありませんから」
「……」
そういうことを言っているのではないのだが。
「……まぁいいよ。アルベルトがそう言うなら」
かといって、彼が素直に吐き出せる性格でないことも熟知している。だからこそライナスは一歩引いてアルベルトを見守ることにした。
ライナスはこの話をここまでとし、帰ったら話そうと思っていたことを切りだした。
「父上の方はこれでいいとして……キースの方は、どうする? 僕としては、手厚く葬ってあげたいんだけど……」
俯き加減に尋ねるライナスに、アルベルトは首を振った。
「……そういうわけにもいかないでしょう。私も、せめて安らかに眠らせてあげたいのはやまやまなんですが……逆賊として死んでいった彼を手厚く葬れば、あちらこちらから綻びがでます。そうなれば、彼の死に意味がなくなってしまう」
「そうだよね……しかしこのままってわけにも」
いかないでしょ? ライナスは外していた視線をアルベルトに戻した。
本音を言えばきちんとした墓に、きちんとした作法に則って埋葬してあげたかった。しかしたとえ国に実害を及ぼさなかったとしても、彼は逆賊であることには変わりない。墓を作れば実情を知らぬ者たちに辱められるか知れたものではない。
国のために死んでいった英霊に、その仕打ちはあまりにも酷だ。
「……城の裏手に、普段は誰も近寄らない区画があったはずです。そこの花壇にでも葬ってあげましょう。墓を建てることはできませんが、いつも多くの花に囲まれて眠ることができるでしょう。たとえ、我々が参ることができなくても……」
「……そうだね、それがいいかもしれない」
そうしてあげれば、彼は許してくれるだろうか。こんな不甲斐ない兄弟を、こうすることしかできない家族を。
いや、彼はそもそも……。
そこまで考えて、ライナスは首を振った。
「……じゃあ今日の夜にでもしようか」
「あまり人目に付くのは好ましくありません。私と兄上だけで行い、他の兄弟達には後で伝えることにしましょう」
互いに頷き合うと、すれ違い正反対の方向に歩きだした。