第二話・見送られる人、見送られない人①
王都から少し離れた丘陵地帯。その麓には白亜の門と内部へとつながる大理石の通路があった。
ここは代々アリステア王国の王族が葬られてきた王墓である。今、その前には大勢の人が、国を問わず詰め掛けていた。
楽士達が落ち着いた、されど格調高い音楽を奏でる。その場には数多の群衆がいるにもかかわらず、響くのはそれだけであった。
その中で、黒の礼装に身を包んだ兵士達に左右を挟まれた絨毯の道を、一つの棺が運ばれていく。
棺は白を基調として国の花であるリリーの金細工が施されていた。それは決して華美ではないが、高貴な人物が収まっていることは誰の目にも明らかである。
人々がそれを目にした時、あちこちからすすり泣く声が聞こえた。
そう、その棺に納められているのはアリステア王国前国王、リチャード・O・アリステアその人であった。
世界中の人間の尊敬と畏怖を集めた賢王の棺は今、多くの人に見送られながら王族の墓所に運ばれようとしていた。
だというのに、運ばれてくる棺はただ一つだけだった。
王族であったはずのキース・K・アリステアの棺は、なかった。
棺を運ぶ者たちが、門の前で足を止める。そこに後から数々の宝物と共にライナスが現れた。
彼は棺と、その後ろに控える王墓に向って膝をつき、恭しく臣下の礼をとる。アリステア王国の国王となったライナスが臣下の礼をとるのは、もはや今までアリステア王国を守り抜いてきた歴代の国王にのみとなった。
「お疲れさまでした。どうか、安らかに、お眠りください」
ライナスはその一言だけを告げると、立ち上がって瞑目した。
群衆も、兵士も、臣下もそれに倣い瞑目するなかで、再び棺が持ちあげられた。それはそのまま、宝物と共に王墓の中に運び込まれていく。
ライナスはそれ以上何もいわず、ただ涙を流してそれを送りだした。