第一話・人は城、人は石垣、人は堀。できる国家は一つの生き物②
「それはいい考えですな」
アルベルトの提案にウィルが感嘆した様子で同意の意を示した。
対してライナスは顔をしかめる。
「わざわざこの忙しい時期にそれをするのかい?」
今でさえ国内外の調整に忙しいのに、さらに面倒事を増やすのか。
「この忙しい時期だからですよ。新王就任はいい契機ですし、国が忙しない時期は短い方がいい。つまり面倒事は一気に済ませてしまおうということです。帝国も共和国も、皇国も今は比較的大人しい今の内に」
それに。
「新王就任とそれに伴う四カ国会議の開催で今街は大いに賑わっています。それこそ他国からも人が訪れるくらいに」
「そうなれば他国では登用されなかった者も流れてくる……というわけか」
ライナスは得心いったという風に頷いた。その顔にはいまだ渋いものが残っていたが。
「その通りです。大国という大組織では癖の強い者は弾かれますし、そうでなくても取りこぼされる優秀な者もいます。そういった者たちは大抵プライドが高く、自分を取り立てない国に不満を抱いている者も少なくありません。そう言った者達を引きいれれば我が国は一層人材豊かになるでしょう」
ウィルもうんうんと頷く。しかしライナスがそこで待ったをかけた。
「……それはいいんだけど、国内の若者の登用を優先した方がいいんじゃないかな? いくら優秀だからといっても、いや優秀だからこそ他国の者が国の中枢に多く入り込むといろいろ不満が出てくると思うんだけど」
よそ者が幅を利かせれば今までの権力者、特にこの国の基盤の大部分を占める貴族達がいい思いをするはずがない。ただでさえ内部に不穏な動きがあるのに、その上面倒事を抱え込んでもいいものか。
そんなライナスの疑問にアルベルトは確かに、と頷いた。
「もちろん若い人材を見つけ育てていかなければこの国に未来はありません。しかしその者たちは何年か、あるいは何十年単位で育成していくことになります。我々に今必要なのは即戦力です。亡き父王のカリスマが失われた今、それを補うだけの国力が必要不可欠なのです」
そうでなければ、起きるのは国の崩壊か、大戦争か。どちらにしろ、ろくなことにはならない。
「まぁまぁ、どちらの言い分も正しくはありますよ。どうですか? ここはひとつ部を分けてみては」
「部を分ける?」
ライナスが首をかしげるのを見て、ウィルは続けた。
「はい、大会を30歳以下の若者の部と30歳以上の熟年者の部に分けるんですよ。それならば他国の優秀な人材も、自国の有望な若者も登用することが出来るでしょう」
「なるほど……いい考えですね」
アルベルトがその意見に賛同する。それを確認してライナスが頷いた。
「よし、ならそれでいこうか。企画はウィルに任せよう」
「了解しました」
ウィルが座ったまま頭を下げた。