第一話・人は城、人は石垣、人は堀。できる国家は一つの生き物①
会議は踊る、されど進まず。しかして場は流転する。
クロノス・D・アリステア
「大臣職はそのままでよろしいですね」
会議室には新たに王となったライナス、前王の時代から続投している宰相のアルベルト、同じく続投している内務大臣のフィルが小さい机を囲んでいた。今は人事について話し合っている。
「そうですな。一部動きが不穏な者もおりますが……能力を見るに他に適任な者もおりますまい」
「悲しい事だね。自国の者を疑わなければならないなんて……」
ライナスが大きくため息をつく。それを見たフィルも同様にため息をついた。
「仕方ありませんな……我らがアリステア王国は、歯に衣を着せぬ言い方をすれば弱小国です。そんな中で大国に攻め入られぬようやりくりするのは非常に神経をすり減らします。何せ、国家の存亡は我々の手にかかっておるわけですし、万が一王国が敗北しようものなら、真っ先に責任を取らされるのは我々のような重役ですからな。大国にすり寄って安心を得たいというのは分からないでもありません」
「あなたもそうでなければいいんですがね」
無表情で疑いの言葉を投げつけるアルベルトに、ライナスは眉を寄せた。
「……アルベルト」
「はは、いいのですよ。アルベルト殿下はそれくらい疑り深い方がよろしい。私を含め高官職は腹の中で何を考えているかわかりませんからな。かといって国王は疑うばかりというわけにはいけません。疑われてばかりでは臣下の心も離れていくことでしょう。ですので、我々を疑いの目を向ける、汚れ役が必要なのです。それも絶対に国を裏切らない人間がそれをする必要がある。その点アルベルト殿下ならば裏切る心配もないでしょう」
無論私も国を裏切るつもりはありませんが。そう続けるフィルにライナスは憂鬱な気持ちになった。
自分達の生まれた国だというのに裏切っても平気な顔をしている人間が、今も大きな権力を持って国の政治を動かしているなんて。誰を信じることが出来て、誰が裏切り者なのかと同じ国の者同士で疑い合わなければならないなんて。そして、自分は国の臣たちを信じなければならず、疑う役目を弟であるアルベルトに背負わせないといけないなんて。
疑い続けることは、ただ信じるよりもずっとつらいのに。
これも自分の性格と能力のせいだろうかと考えると、更に憂鬱になってくる。
瞳を伏せたライナスを余所に、フィルとアルベルトは話を進めた。
「まあその話は置いておきましょう。それよりももっと深刻な問題があります」
「そうですね。今はそれよりも人事の話です。大臣クラスは現状の体制でいいとして、それより下の人材が不足しております」
ライナスは釈然としない気持ちを抱えながらも、話の流れに乗る。
「確かにそれは大変だけど、そんな優秀な人材なんて簡単に見つからないだろう」
「そこで提案があります」
「提案?」
首をかしげたライナスに、アルベルトはぴっと人差し指を立てた。
「在野に埋もれた人材を探すために、大会を開いてみてはいかがでしょうか?」