第五話・汚れた手の新たな王①
その後、戦後処理、というよりか『ゲーム』の後始末はスムーズに行われた。
今回の『ゲーム』の勝者であるライナス派の面々は、休む間もないほどの忙しさに見舞われていた。
まず、ライナスはアリステア王国の新たな王として、戴冠式の主役を務めることになった。この戴冠式は彼にとって一世一代の晴れ舞台であり、また王の権威と品位を示すものとなるので、式の段取りやリハーサルは綿密に行われた。
また、彼が新たに国王となることで、彼にはアリステア王国前国王の葬式を行う義務が生じた。前王の葬儀は新王が行う、それがアリステア王国の慣わしだからだ。
そちらの方の準備も合わせて進めなければならず、ライナスは目が回るような忙しさとはこの事かと少し憂鬱になった。そして、父王も、歴代の王達もこのような忙しさを味わっていたのかと時折過去に思いを馳せてみたりもした。
アルベルトはそんな彼の手伝いで同様に忙しなく働いていた。
ただ、彼の場合はその他にも、彼が数日間政治から離れていたことによって生じた色々な不具合を修正する仕事もあった。
『ゲーム』の最中、政治や外交等の仕事は全て前王妃であるサルビアに任せっきりであった。サルビアは王妃として前王の補佐をしていたこともあり、政治力自体は優秀ではある。
しかし、宰相を務めているアルベルトや外務大臣であるクロノスの代わりとなるには、些か能力も労力も足りなかった。天才と呼ばれる彼らの代行は荷が重く、また彼女自身の仕事に加えて王子達の仕事もするとなるとどうしても手が足りなかったのだ。
結果、様々な部署で滞りが生じてしまった。
とは言っても高々数日のことであったので大きく滞ることはなかったが、やはりアルベルトの仕事が増えたことは確かであった。
今回の『ゲーム』でわかったことだが、どうやらアルベルトには軍師としての才能があるらしい。ならばそれが必要な時も、もしかしたらまた出てくるかもしれない。
それを考えると、自分が政治から離れている間に、いやその場合に限らず不慮の事態に陥った時に国を支える人間が必要になってくる。
それは自分に限ったことではなく、外務大臣であるクロノスや他の面々にしても同じことが言えるだろう。どこの役職も優秀な人間が多くて困ることはないのだ。
アルベルトは今の人材不足に一層頭を悩ませつつ、事態が落ち着いたら人材の発掘と教育に力を入れようと考えるのであった。
クロノスはというと、今回の『ゲーム』で使用された砦の修復や、亡くなった兵士の遺族への手当の手続きに追われていた。
物資の補給は各々が物資を持ち込んでいたので必要なかったが、砦自体の損耗はそうもいかなかった。撃ちこまれた矢や、折れた剣や槍、欠けた鎧などの後始末をする必要があったし、そこかしこに飛び散った血の掃除や兵士たちの遺体を丁重に葬るが必要であった。なにより、アルベルトの策によって掘り起こされた地面を早急にならさなければならなかった。
本来ならそういった業務は砦に詰めている兵士たちの役割だったのだが、国王就任に伴い各国の賓客を招待するに当たって、共和国側の通り道となる各砦が汚れたままでは国の品位に関わる。よって早急な修繕が求められたため、士気が乱れぬように王子が直々に指揮を執ったのである。
また亡くなった兵士の遺族に対しては王子が進んで感謝の意を述べることで、誠意を見せたのであった。
その一方で、敗者であるアルベルト派の面々は城で軟禁状態にあった。
今回の『ゲーム』はゲームといえど戦争である一方で、戦争といえどもゲームであった。勝利条件が曖昧で、その気になれば最後の一兵まで戦うことのできる戦争とは違い、条件を満たせばその時点で勝敗が決まる、規律ある争いがゲームだ。
そして争ってから勝利者が得るものを決めるのが戦争で、勝利した者が得られる物があらかじめ決められているのがゲームだ。
つまり今回のようにどちらかが勝利し、王となるのはある意味で予定調和と言える。そしてゲームには罰ゲームがあっても処罰はない。ただ新王に反対した者たちに何のお咎めもなしというのは他の者に示しが付かないので、建て前としてこういった罰が与えられているのだ。
彼らは外からカギをかけられた部屋で思い思いに過ごしていた。しかしそんな中キースだけは他の者たちと違っていた。
彼は、自らの処刑を申し出たのである。