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アリステア王国存亡記  作者: ぞなむす
第一章・新王選定
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第四話・『ゲーム』開始~スティレ川を渡る~⑥

佳境

 内の城壁、その上では激しい攻防が繰り広げられていた。鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音、刃が肉を断つ鈍い音、何かが地面にぶちまけられる湿った音。そして力を失った体が倒れ込む音。様々な音が奏でる不協和音は戦いが佳境に入ったことを教えてくれる。


 今までは峰打や、浅く切られただけで負傷として下がっていた。同じ国の者同士で、しかも完全に対立した訳でもないのに戦わなければならない彼らの間には暗黙の了解としてそれがあったのだ。


 しかし戦いが最終局面に入った今、最早手加減などと言っていられない。誰も彼もが自らの主へ勝利をもたらすべく必死に戦っていた。


 そんな血の臭いが満ちる戦場でライナスは剣も持たずに立ち尽くしていた。


(これが……本物の戦場)


 先程までの緩い『ゲーム』の雰囲気とは一味も二味も違う、死の香りの満ちる戦場。前後左右どちらを向いても視界に赤が入らない事がない光景に、彼は思わず吐き気を催した。


(なんて……醜い)


 知識としては知っていた。戦場とはこういうものだと。だから自分は争いを好まなかった。争えばお互い傷つくし、得られるものがそれに見合う事も稀だ。何故人は争うのだろうというのは子供の頃からの疑問だった。


 そして今、その感情は憎しみへと形を変えた。知識が経験に変わりゆくのに合わせて、嫌悪が憎悪に姿を変えたのだ。


(戦争なんて消えてしまえばいいのに……!)


 そうだ。そのために王になるのだ。


 自分は無能だ。しかし自分には優秀な兄弟達がいる。彼らを使えばいい。彼らで足りなければ貴族たちを利用してやろう。それでも足りないのなら自分も学ぼう。才無き身ではあるがやらないよりはマシだとアルベルトも言っているではないか。そしていつか……


「殿下」


 その時、彼の耳に入ったのは二つの報告だった。




「ハァ!」


 気合一閃。イキシアが立ちふさがる敵を切り払った。


「もう一息だ、最後まで攻め手を緩めるな!」


 彼女達は既に城壁を超えた。後方はキースに、バックアップはオルテンシアに任せ、イキシアは少数の部下とともに城内を駆けていた。


 そんな彼女たちの元に、次々と報告が入ってきた。


「武器庫、ありませんでした!」


「同じく、資料室にもありませんでした!」


 それは、フラッグの有無を知らせる報告であった。


 フラッグというのはゲームであり、遊びの一種である。本来なら高々遊びにここまで大規模な陣地を構築して遊ぶこと等考慮されていない。そして、ルールに勝敗を決めるフラッグを配置する場所は詳しく指定されているわけではない。


 故に生じた問題。彼女達は今フラッグが見つからず、何処にあるのか探さなければならなくなっていた。


 イキシアは歯噛みする。こんなことになるなら設置場所を指定しておくべきだったと。


(まぁ、恐らく提案したところでアルベルト兄上に上手いこと言いくるめられて出来なかっただろうがな)


 そこまで思考し、頭を振ってそれを追い払った。今更言ったところでもどうにもならないのだから。


「どうかしましたか?」


 プラムが勝利目前というこの状況においても冷静さを失わずに訪ねてきた。


「いや、何でもない」


 とにかく、今はすべきはフラッグの奪取であって後悔ではないのだ。


 今も城壁で戦う味方がいる。共に王国に命を捧げる敵がいる。彼らの命を無駄に散らせないためにも、一刻も早くフラッグを見つけなければならない。


「宿舎にも見当たりません!」


 そして、最後の報告が入った。


 そう、最後の報告だ。これで、今イキシア達が向っている司令室以外の全ての部屋にはフラッグがないことがわかった。


(ならば………)


 フラッグは間違いなく司令室にある。恐らくはライナス派の王子達と共に。


「お前達!これが本当の最後だ。行くぞ!」


 イキシアは大きな声で後ろに続く者達を鼓舞し、自身も更にスピードを上げて駆けた。すると、5分と経たないうちに司令室の扉が見えてきた。


 彼女は最早扉を手で開けることもせず、強引に足で蹴り開けた。


 そして、そこで彼女が見たものは。


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