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アリステア王国存亡記  作者: ぞなむす
第一章・新王選定
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第四話・『ゲーム』開始~スティレ川を渡る~④

「う~ん……堅いなぁ」


 先程から矢を射かけさせているがビクともしない。クロノスは敵の移動櫓を見てため息をついた。


 敵が三つに分かれたのでアルベルトは右に自身を、左にライナスを、そして中央にクロノスを敷いた。中央を担当するクロノスは移動櫓への対応に苦慮していた。


(ウチの使っている移動櫓がこれほど厄介なんてねぇ。やらなきゃわからないものだなぁ)


 まぁこれも経験かと思い、さてどうするかと考える。


(とりあえず矢はいらないかなぁ。どうせ効かないしぃ、兄上たちの部隊にまわそう)


 籠城戦において矢は非常に重要な役割を果たす。城壁の上から広い範囲に攻撃することが可能だからだ。しかし、人に対して有効なそれも物にはあまり効果がない。事実、移動櫓は矢を受けハリネズミのようになりながらも一向に速度が緩まる気配を見せない。


 だからこそここで腐らせておくよりは『エンゼルランプ』を迎え撃たねばならない二人の方にまわした方がいい。


 うんそうしよう、と一つ頷きテキパキと兵士に指示していく。それを受けた兵士は数人で余った矢を運んでいく。


 そうして矢を運び終えた頃には、移動櫓は目前にまで迫っていた。


「さぁ皆ぁ、気合入れてよぉ!敵が移動櫓から飛び出してきたら一斉に槍で突いてあげよう!!」


 クロノスの指揮に合わせ兵士たちは槍衾を形成していく。城壁の淵より二歩ほど下がった場所でのそれは、相手に攻撃をさせず封殺する構えだ。


 移動櫓はクロノス達が陣形を形成した約十秒後に城壁へ接近し、そして前面の板が開かれ、


「えっ?」


 クロノスの目に飛び込んできたのは、一斉に矢を構えた敵の兵士の姿だった。




「中央、突破されました!」


「負傷者多数!クロノス殿下も負傷された模様!」


「ご指示を!」


 次々と上がってくる報告にアルベルトはほんのわずかに眉をひそめた。


「ここはもう保ちませんか……全軍に通達!第一城壁を放棄し、武器を棄てルートBで第二城壁まで速やかに撤退しなさい!!」


 アルベルトの号令が皆に伝わっていく。それとともに、ライナス派の兵士たちが一斉に動いた。


 負傷した兵は階段を使って先に降ろし、城壁で敵の侵入を防いでいた兵は内側に設置されたロープを使って、城壁を一気に下りた。


「降下、概ね完了しました!」


 その報告にアルベルトは一つ頷き、


「では、点火しなさい!」


 次の号令を発した。




「ぎゃあああああ!!」


 ライナス派の兵士たちを真似してロープで降下しようとした兵士は、下から上ってくる炎に襲われた。


 ある者は手を焼かれ城壁でのたうちまわり、ある者は体中を炎に包まれて落下した。


「落ち着け!階段から降りればいい!」


 イキシアが声を上げた。しかしそれは、『エンゼルランプ』の面々を落ち着かせることしかできなかった。


 もとより指揮系統の違う混成部隊である。いくらイキシアでも、他者の指揮下にあった部隊を落ち着かせることは容易ではなかった。が、


「落ち着けぇ!!」


 一喝。


 戦場に響き渡るその声は、味方であるアルベルト派の兵士たちはもちろんのこと、敵であるライナス派の兵士達の動きをも止めてみせた。


 戦場につかの間の静寂が満ちる。その機を逃さず、イキシアはもう一度声を張り上げた。


「今、押しているのは私達の方だ。焦らずとも、流れは明らかにこちらに来ている!悠然と、泰然と進むのだ!!」


 そして、戦場が再び動き出す。


 イキシアの号令に圧されたライナス派は慌てふためいた様相を見せた。すでにその撤退に一寸の整然さもない。


 対してそれに押されたアルベルト派は先ほどとは打って変わって落ち着いた様子で、さほど時間をかけずに城壁から下りた。彼らは即座に陣形を組み、そこに再度イキシアの号令がかかる。


「全軍、私に続…きゃあああぁぁぁ!!?」


 全軍の先頭に立ちさぁ進もうとした矢先、浮遊感とともにイキシアの視界がひっくり返った。


「痛っ……これは……」


 今視界には青空が映っている。その周りの土の壁も見える。


 自分が落とし穴に引っ掛かったのだと気付いたのは数瞬後のことであった。


「くっ……!」


 人の身長ほどの深さのそれから這い出て周りを見れば、他にも引っ掛かっている兵士達がいた。


「くそっ、こんな単純な手で!」


 イキシアは表面で激昂しつつも冷静に敵を見据えた。よく見れば、敵がジグザグに撤退していくのが見えた。恐らく彼らは落とし穴を避けているのだろう。


 彼らの動いたとおりに追いかければ、何の問題もなく追撃を駆けることが出来るはずだが……


「……いや、やめておこう」


 ここは慎重に進むべきだ。恐らくここより先落とし穴が多数設置されているだろう。落とし穴による見えない迷路がある以上、追えば自然とそれぞれの隊列は細らざるを得なくなる。


 そこを迷路の出口で襲われれば、一人で数人を相手にすることになる。そうなればひとたまりもない。


 また落とし穴の無いところまで回り込むのも得策ではない。どこまで設置されているのかわからない以上、余計に時間がかかるからだ。


「隊列を整え、前方の罠に注意しつつ慎重にと前進せよ!」


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