98 ラボ②
side栗原心
私はその日、ラボに向かっていた。
研究者の山野から新しい成果が上がったと報告があったからだ。
三重にしてある自動ドアが音もなく開く。
私は指紋・虹彩認証をして、ラボの中に入った。
「やぁ、山野君。」
「お久しぶりです。
さて、挨拶は後ほどにして。
早速本題に入りたいのですが…?」
山野君はクールにそう言った。
しかし、そちらの方が私にとっては好印象だった。
「あぁ、成果を聞こうか。」
「はい。
結論から言うと、覚醒融合体の制御に一部成功しました。」
「ほぉ?
しかし、一部とは?」
私は少しの驚きの表情をしてみせた。
「こちらをご覧下さい。」
ラボの正面の巨大な画面が切り替わった。
ラボ2の森の中のようだ。
そこには、ゾンビをさらに醜悪にグロテスクにしたような巨体の化け物がのっしのっしと歩いていた。
「覚醒融合体・名前は、そうですね…
次の、という意味を込めて、ネストです。」
「ネスト、か。」
「えぇ、ネストはゾンビとグールの覚醒融合体です。
さらに、足りない部分はラボからの金属で補っています。
このネストに今からある指示を出します。」
「ほぉ…」
「指示は、前方の豚を攻撃せよ、です。
ご覧ください。」
山野君が他の研究者に目線を送る。
その研究者はパソコンで何らかを打ち込んだ。
次の瞬間、ネストが咆哮を上げて豚に食いついた。
豚は無惨にもすぐに息絶えた。
「ほぉ?
つまり、敵を認識して攻撃できる、と。」
「その通りです。
しかし、その行動を起こすには、こちらからの指示が必要です。」
「なるほど…
それは、まだまだ完全とは言えないな。
つまり、武器を扱う者が必要という事だね?」
「おっしゃる通りです。」
山野君は短く答えた。
「私の目標は、自我を持ち、自ら敵を認識して攻撃する、忠実なる殺戮兵器、なんだよ。」
「存じ上げております。
ですが、今のところここが限界です。
もちろん、その限界は乗り越えられない物ではありません。
しかし、時間が必要です。」
山野君は言った。
「ふむ、君の言う事には一理も二理もあるし、実際に結果も出している。
もう少し時間を与えようじゃないか。」
私は言った。
「ありがとうございます。」
「では、ネストを試してみよう。
COCOダイバー局の位置を割り出す事に成功した。
そこに乗り込ませる。」
「かしこまりました。
1週間後には準備できます。」
「よろしい。
1週間後が奴らの墓場だ。」
そして、私は満足気に笑いながら、ラボを去った。
山野莉緒、彼女は優秀なようだ。




