93 話し合い②
side佐久間由奈
「報告と言うならば…」
私が言いかけて東雲が制した。
「報告と言うならば、そちらにも報告すべき事があるのでは無いですか?」
東雲が言う。
栗原さんと古村さんは軽く顔を見合わせてびっくりしたような表情を作った。
これも、全て打ち合わせした事だろう。
「何のことだね?
我々が君たちに報告すべき事、とは?」
「やれやれ、とぼけるのも良い加減にして欲しいわね。
南月区に放たれたスタートンという覚醒体…
いいえ、実験覚醒体と呼んだ方がいいかしら?
どこの組織で実験覚醒体なんて作っているというの?」
私は言った。
「…何のことですか?
いや、確かに覚醒体スタートンのニュースは見ましたよ。
テレビでね。
しかし、それにまるで我々が関与しているかのような言い草じゃありませんか?」
シラを切る栗原さんに内心うんざりする。
「…つまり、大和ダンジョン委員会がやったと言う証拠は無い、と、そう言いたい訳ですね?」
東雲が言った。
「もちろんそうですよ。
こちらとしては、証拠を提示して貰わないとね。
やってもいない物をやったと認める訳にはいきませんよ。」
「そうダヨ!
証拠はアルのかね!?」
古村の奴が畳み掛けるように言った。
やれやれ、ここまで来ると怒りを通り越して呆れてしまう。
「なるほど、証拠、ねぇ?
しかし、こちらが猜疑心を持っている時点で、協定として成り立つのか…?
そうは思いませんか?」
私は言った。
「ふぅむ…
困りましたねぇ…
そうは言われてもこちらは何も分かりませんし…
まぁ、一度協定を見直すのもいいかもしれませんね。」
栗原さんはそう言った。
よほど、自身の策に自信があるのだろう。
そして、話し合いは終わった。
いや、話し合いという名前の騙し合いか?
とにかく私たちは帰路についた。
♦︎♦︎♦︎
帰りの車の中で。
「あんな猿芝居が通用するとでも思っているんですかね?」
東雲がハンドルを切りながらそう言った。
「まっ、認めなければ真実とは言いようが無いからね。
そう、イライラしなさんな。
こっちだって、真の手は隠してあるんだからさ。」
「まぁ、そうですが…」
「しかし、大和ダンジョン委員会は協定を破棄しても良いみたいねぇ。」
私は言った。
「そのようですね。」
「さてさて、どうなるか…
本当に神のみぞ知るって奴かしら?」
私は冗談めかしてそう言った。
「神のみぞ知る、ですか…」
東雲は何とも言えない顔でハンドルを持っている。
そうして、私たちの一日は終わろうとしていた。




