59 執務室での
side栗原心
「栗原係長、佐久間様がお見えです。」
秘書がそう言うと、俺は執務室のソファ席に座り直した。
「お久しぶりだね、栗原さん?」
アッシュブラウンの髪をポニーテールにした彼女はそう言ってにこやかに挨拶した。
「あぁ、久しぶりですね。
ここに来るのを、誰にも見られていないでしょうね?」
俺は確認した。
「もちろんよ。
地下の駐車場からプライベートエレベーターで上がってきたんですもの。
心配には及ばない。」
彼女は言った。
佐久間由奈、彼女は、そう、華魔鬼凛のリーダーだった…
「そうですか。
いや、念には念を入れて、ね。」
俺は秘書が持ってきた紅茶を一口飲んでそう言った。
「まぁね。」
彼女は紅茶には手をつけなかった。
用件を話せという事だろう。
「ディア作戦は失敗に終わりました…
公認ダイバーメンバーのうち、死んだのは役立たずの2人だけです。」
「そう…」
彼女はあまり関心無さげにそう答えた。
「まぁ、安心してください。
次こそは仕留めてみせますから。」
「どうやって?」
「覚醒体レイドですよ。
奴を討伐せよ、と言うのです。
契約がある以上、奴らは引き受けざるを得ないでしょう。」
「覚醒体レイド…
ダンジョン・マイナの元ボスのダークドワーフの覚醒体ね?
それで、奴らはシヌの?」
「多数の犠牲は出るでしょう。」
「ふぅん、ならいいけど。」
佐久間は言った。
「そうだ、佐久間さん、アレの準備は出来ているんでしょうね?」
「出来てるわ。
だけど、タイミングがね。
推しはかってるところよ。」
「そうですか。
それなら良いんです。
その時は、ご一報くださいよ。」
「もちろん。」
彼女はまたにこやかに答えた。
食えない女だ…
「用件というのは、それだけですが。
一応最後に聞いても良いですか?」
俺は言った。
「どうぞ?」
「今のエネルギー値は?」
「あぁ、それね。
20万って所かしら?
まぁ、順調に増えてるわ。」
「そうですか…
まだ、意外と低いですね…
ダイバー殺しを加速させましょう。」
「…………」
彼女は沈黙した。
「何か?」
「栗原さんも意外と真っ黒ねぇ、と思って。
いえ、余計な事だったわ。」
「俺は元々真っ黒ですよ。
あなたも、ね。」
「はは。
言ってくれるわね。」
彼女は結局最後まで紅茶に手をつけずに執務室から出ていった。
これが、始まりの終わり。
本当の茨の道はここから始まっていくのだ。
俺には、いや、俺たち大和ダンジョン委員会には崇高なる使命がある。
それは、今の腐れ切った日本という国家を、世界のトップへと返り咲かせる事。
その為には、悪神でも悪魔でも、何とでも手を組む。
それが、俺たちの覚悟だった。




