51 冥府
「そうよ、ディアなんてやっつけてやろうよ!」
ルナティさんが言う。
「……………。
ゾード、君はどう思う?」
仙道さんは明言を避けてそう言った。
「そうですね…
引き受けるしか無いんじゃないでしょうか?
今大和ダンジョン委員会と敵対するのは、軽率かと思いますね。
覚醒体ディアというのは、つまり冥府の事です。」
「めいふ?」
白波さんが尋ねる。
「そうです。
冥府…覚醒体の中で、元ボス、又はそれに準ずるランクの者を指して言います。
まぁ、私の世界の言葉ですが、普通の覚醒体と区別する為にそう言うのですよ。
冥府は普通の覚醒体とは一線を画します。
確か、冥府ディアはグリフォンでしたね?
普通のグリフォンでさえ、強いのですから、それが4倍となると…」
「犠牲者が出る可能性が高いと?」
「大いに…あるでしょう。
全員が無事とはいきませんよ…」
ゾードは端正な顎に手を当ててそう言った。
「それでも…
ここで、引くわけにはいかないわ。」
佐田さんが言う。
「多数決を取ろう。
冥府ディアを倒したい者は?」
ほとんどの公認ダイバー達が手を上げた。
「斉藤くんはなぜ反対なんだ?」
1人手を上げなかったroadの斉藤和也に仙道さんは尋ねた。
「危険すぎます。
確かに俺たちは命を賭ける事も多いです。
しかし…
犠牲者が出るかもしれない前提の戦いには身を置けません。」
「ふむ…
それも一理ある。
だが、大和ダンジョン委員会との契約がある以上は、討伐は義務でもある。
今考えると嫌な契約だがな。」
結局、俺たちは討伐を受ける事にした。
そして、総勢22名での冥府ディア討伐が決定した。
♦︎♦︎♦︎
次の日、討伐は決行された。
俺たちはダンジョン・マリアに向かった。
マリアは灼熱のダンジョンであり、溶岩が冷えてかたまり道となっているが、周囲にはマグマが流れている。
落ちたら一発アウトって奴だ。
吹き抜ける風は全て熱風で、立っているだけで体力を奪っていく。
そんな中、地下8階のボスの間の前にたどり着いた。
流石に公認ダイバーの集団なので、ここまでのリタイア者は居ない。
「みんな…
かける言葉はない。
お互いを、そして、自分を信じて戦うだけだ。
行こう。」
仙道さんが言い、俺たちはボスの間に入った。
中にはグリフォンらしき物体が居た…
グリフォンらしき、というのは、その見た目がかなり覚醒体に近く、グリフォンの原型をかろうじて留めているに過ぎなかったからだ。
奴はギロリとこちらを一瞥すると、黒ずんだ長い鋭利な爪を一閃した。
「避けろぉぉぉぉ!」
仙道さんが横跳びで叫ぶ。
「キャァァァ!」
佐田さんの肩に傷が走った。




