冒険へ出る前に
冒険者登録を無事に終えてから、少し時が経った。
ケヴィンは農作業の手伝いの傍ら、剣術の修行と冒険者ギルドからの簡単な仕事を請け負うという生活をしている。叔父のブルーノに剣術の指南を頼んだ。
「まぁ、大したことは教えられないけどな」
ブルーノはそう言いながらも、熱心に基礎的な事を教えてくれた。
生死を賭けた戦いにおいて、剣術の型を気にし過ぎるのは命取りになる。効率的な戦い方が勝利に繋がるとも限らない。
「相手の命を奪う行為。そうでなければ、自分の命が奪われる。その姿勢がまず大切だと思う」
ケヴィンは強く頷く。
叔父の表情が真剣だった。
戦うとはそういう事なのだ。
命を奪い合うのだから。
訓練用の木刀で、ケヴィンはブルーノを相手に剣の扱い方を学んでいく。
それだけでも、ケヴィンの日常はかなり忙しくなったが、さらに冒険者ギルドの仕事も請け負う事を決めた。それは、村のギルドのマスターであるディアスの助言によるところが大きい。
「まずは簡単な仕事、まぁ、雑用みたいな仕事をこなしていくことが良いと思う」
冒険者としての名声。それが無ければ、より良い仕事は回ってこない。特に世界が平和な時には、それが顕著になり、初心者の冒険者には名声獲得が最初の課題となる。
ケヴィンは村民の簡単な雑用を引き受けることで、名声と小遣い稼ぎを始めた。
冒険者ギルドの仕事とは言え、小さな村の仕事依頼は簡単なものばかり。農作業関連や荷物運び、家畜の世話など。もはや冒険とは縁遠いものばかり。
少し退屈さを感じながらも、目に見えて、自分のお金が増えていくことには喜びを感じていた。
そんな中、初めて村の外に出る仕事が舞い込んだ。
「隣町のナーバリに届け物をして欲しいという依頼があるよ」
ディアスが言った。
ケヴィンは目を輝かせた。
隣町まで距離的には大したことはない。徒歩で半日も歩けば、辿り着く。道中も整備されているところがほとんどなので、魔物や賊なのどの心配も少ない。
そろそろ、村の外に出ても良いのではないか。
自問自答する。
この世界はどれほど広いのだろうか。
冒険物語の中でしか知らない外の世界。
届け物をする日はまだ少し先だ。
ケヴィンは装備を揃えたり、地図をちゃんと読み込んだり、と準備に忙しくなる。叔父ブルーノと叔母アラーナはその様子を微笑ましく見守っていたが、時折少し寂しげな表情を浮かべていた。
もちろん、ケヴィンはそんなことには気付いていない。
彼はまだ若い駆け出しの冒険者。