旅立ちへの準備
秋の収穫の忙しさが一段落した頃、ケヴィンは遂に旅に出る事を決意した。叔父のブルーノが背中を押してくれ、叔母のアラーナは少し悲しそうな顔をしたが、反対はしなかった。
旅に出る。
簡単に言葉にしてみたものの、ケヴィンは具体的に何をしなければいけないのかを考えた。
最初は徒歩での移動。
この村から徒歩で最寄りの街までどれくらい掛かるのだろうか。
ケヴィンはこれまで他の村や街に出掛けたことはない。出歩くのは村の周りの森や山だけである。
先ほど夕食を終えて、部屋のベッドに寝転がり、旅支度について考えていた。
地図が必要だ。
装備もいる。
金も必要だ。
すぐに出発する必要はない。
準備がいる。
ケヴィンは考え事をしながら、そのまま眠りに落ちてしまった。
いつも通りの朝を迎え、いつも通り畑に向かう。
ブルーノやアラーナに旅に出たいと話をしたが、具体的にいつ出発して何処に向かうとか、そこまでは話していない。否、まだ何も決まっていない。
農作業で体力には自信があるけれど、戦う力も必要だ。
「叔父さんは、剣術とか得意なの?戦士だったんでしょ」
昼食時に尋ねた。
「まぁ、レベル12くらいだったかな。現役の時は。今はどうだろうなぁ」
「うーん、それは強いの?」
ケヴィンはレベルの感覚が全く分からない。
「あっ、そうか。取り敢えず、冒険者ギルドに行って、登録証をもらいなさい」
ブルーノはバッジを見せてくれた。
特殊な魔法による加工がされているらしく、そこに登録された冒険者の情報が随時更新されていくらしい。
「詳しい説明はギルドで聞きな。この小さな村にも、冒険者ギルドはあるから」
「酒屋のディアスさん?」
「そうだ。代行業務をしている。それに、彼も冒険者だったからな」
「へぇ〜、ディアスさんも戦士だったのかな?」
「確か、斧が得意だったと思うが」
農作業を終えてから、ケヴィンはブルーノと別れ、帰宅する前に酒屋のディアスのところに向かった。旅立ちへの第一歩だ。
酒屋を覗き込むと、お客はまだ誰もいない。小さな村の酒屋なので、見知った顔しか来ない。
「いらっしゃい。あっ、ブルーノのとこの」
「ケヴィンです」
「珍しいな。お使いかな?」
「いや、あのう、冒険者登録がしたくて」
「おっ、いきなりだな」
そう言って、ディアスは笑った。
「そうか、もうそんな歳になったか」
ディアスは奥に消えて、すぐに戻って来た。手には何かを持っている。
登録用紙のようだ。
「まずはここに記入を、新米冒険者さん」
「試験とかはないの?」
「無いよ。登録すればなれる。ただ、冒険者になっただけでは、何も変わらないよ」
ディアスは微笑んだ。