第86話 孵化するドラゴン②
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まだ頭に殻の欠片を乗せたまま、羽ばたく姿は滑稽で、でも何よりも感動的だった。
まさか、生まれてすぐに羽ばたくなんて凄い!
ギルド職員さんは、目を輝かせながら必死にペンを走らせている。
この伝説になる出来事を一字一句残そうとしているのか既にノートは数ページに及んでいた。
「さぁ、おいで!」
「こっちおいで!」
神斗と私は、それぞれ手を広げて、小さな翼をばたつかせるドラゴンの赤ちゃんを待ち受ける。
ドラゴンの赤ちゃんはくるくると首を動かし、興味深そうに私と神斗を交互に見比べている。
「ギャウゥン!! ギャウゥン!!」
「ヤッター!! か、かわいい……」
私は思わず声を上げ、抱きとめたその体の温かさに胸がいっぱいになった。
ドラゴンが最初に飛び込んできたのは、私の腕の中。
勝ったのは――どうやら私。
まぁ、別に勝ち負けの話じゃないんだけどね。
神斗は悔しがるでもなく、満ち足りたように穏やかに笑っていた。
「ギャウゥン!? ギャウゥ?」
赤ちゃんドラゴンが不思議そうな顔で私を見上げてきた。
「どうしたの? ご飯かな? それとも……ちょっと不安になっちゃった?」
その薄水色の体は、びっくりするくらい柔らかくてふにょんふにょん。
小さな爪はまだ丸く、まったく痛くない。
額には、ちょんと可愛らしい二本の角が生えていて、触れるとくすぐったそうに身体をくねらせた。
後ろに揺れる尻尾は、ムチっと太く、全体的に張りもあって健康そうだ。
「ギャウゥゥン!!」
突如、甲高く鳴き声を上げた赤ちゃんドラゴン。
その声には、何か強い主張がこもっているような気がした。
「え!?」
けれど、その主張は一瞬だった。
目を擦ってみても、目の前には愛らしい赤ちゃんドラゴンがいるだけ。
「……え?? あれ? 今のって……いや、疲れてるのかな?」
確かに、ここ数日ずっと神斗と交代で魔力を注ぎ続けていたし、寝不足であるのは間違いない。
「……ねぇ、なんか、一瞬だけど人間の赤ちゃんみたいに見えなかった? 見えたよね? ね?」
「ええ。ほんの一瞬でしたが……確かに、そう見えました」
「俺もみたよ! ーー集団で幻覚?」
「うーん……。そうだな。こいつは普通のドラゴンじゃないかもしれないな」
ナザル・ギルド長は腕を組み、顎に手を当てながらうんうんと唸っていた。
考え込んでいる顔が、むしろ嬉しそうなのは気のせいだろうか。
私は赤ちゃんドラゴンの顔を覗き込みながら、そっと声をかけた。
「えっと……【鑑定】していいかな?」
「ギャウン!」
しっかりとした声で返ってきた反応に、まわりの空気も一気に和んだような気がした。
ちゃんと返事してくれるなんて賢い!
これが世に言う〖親ばか〗ってやつだよね。
でも、仕方ない。
だってこれはもう、しょうがないくらいかわいいんだから。
「じゃあ、失礼して【鑑定】」
★アスカリオンドラゴン SSSランク
HP53
MP68
相変わらず、情報が少ない……。
「うーん? アスカリオンドラゴン? わぁ! SSSランクだって! 君は凄い子なんだねぇ~」
「おかしいですね……。通常、ドラゴンはSランクに分類される高位魔物のはずなんですがーー」
ウィルの表情には、これまで見たことのないほどの思案の色が浮かんでいる。
ウィルでも知らないドラゴンなんだ!
「もしかしてこれは未確認の、新種のドラゴンってことか……?」
ナザル・ギルド長は「アスカリオン、アスカリオン……。魔物辞典になかったよな? おい、商人ギルドにも照会を頼んでくれ」と職員に聞いている。
周囲が難しい顔で調査に没頭している一方で、私の腕の中の赤ちゃんドラゴンは自分の尻尾に夢中になっていた。
「うふふ、お腹空いちゃったかな? 尻尾じゃなくて、ごはん食べよっか!」
「俺があげるよ!」
神斗が声を弾ませ、大きめのスプーンを自信たっぷりに持ち上げた。
顔にはやる気満々の笑みが浮かんでいた。
そして、神斗は少しミルクを入れたミンチ肉をスプーンでそっと掬って、ドラゴンの口元へ近づけた。
ドラゴンの赤ちゃんがタイミングを見計らったように、ぱかっと口を開けて、スプーンの上のごちそうを受け入れた。
ごくんと小さな喉を鳴らして飲み込むと、まるで「おかわりまだ?」とでも言うように、じぃっとスプーンに視線を送ってきた。
「ギャギャァ」
短く鳴いてから、腕の中でもぞもぞと動き出す。
私は赤ちゃんドラゴンをベッドの上に降ろすと、お肉のボウル皿に突撃していった。
よかった……ドラゴンって本当に肉食だったんだ!ひとまず、食事問題はクリアだね!
「ところで、この子は女の子かな? 男の子かな?」
「オスですね」
ウィルが淡々と即答した。
「男の子かぁ! じゃあ、元気いっぱい強いイケてるドラゴンに育てないとね!」
「多分、ヴィヴィオラより、もう強いと思うよ」
「え? もう? どうせ私は弱いですよー」
「まぁ、よかった。生まれたとたん討伐にならなくてな」
ナザル・ギルド長は「ほら、もう解散だ。仕事に戻れ、戻れ」と職員を治療室から追い出す。
「【友魂の詩】しなくてよさそうですね」
「よかったよ~、我が子を【友魂の詩】するって響き、けっこう複雑だもんね……すごい魔法だけど」
「でもSSSランクだよ? これ以上の頼もしい護衛はいないんじゃない?」
「う……ん」
ボウルいっぱいのミンチ肉をペロリと平らげる。
「今のところ、【友魂の詩】はしないかも」
トテトテとベッドの上を歩いて、欠伸をする。
「それよりも 名前! 名前だよ!」
たまごん・ドラコ・ぷりん・クルルとか可愛い系の名前をこっそり候補にしてたけど、人に一瞬変化したのを見てしまったら、人の姿に一瞬でもなったこの子には、もっとちゃんとした名前が必要な気がした。
「ヴィヴィオラが名前付けて?」
神斗がやさしく私を見て、少し照れたように頼んできた。
「いいの? 本当に? それじゃあ……えっと、アスカリオンドラゴンから一文字取って、あ、あ……」
「あ?」
神斗が笑いながら私の言葉を促した。
「あす……虎? アストラにする」
「いい名前もらったな。お前は〖アストラ〗だ」
神斗はアストラをそっと胸元に抱き寄せた。
するとアストラが満足そうに「ゲフー」とかわいらしいゲップをひとつ。
こんなにも強くて賢くて、しかも可愛い子と巡り会えたのは、きっと虎様がくれた“ラッキー全振り”の恩恵。
だから「アストラ」の“トラ”は、感謝を込めて虎様からいただいた。
今日から旅を共にするメンバーは3人と1匹になった。
旅が楽しくなりそうな予感がする。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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