第85話 孵化するドラゴン①
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《キャラバン・ジゼニア14日目ーケルンジリア33日目ー》
「う~ん、やっぱりドラゴンの育児書なんて都合よく存在しないか……まあ、想定はしてたけど」
「そうですね。そもそも、これまでドラゴンを孵化させた記録が存在しないので、資料自体がほとんどないんです」
ドラゴンの卵に魔力を注ぎ始めてから、今日でちょうど三日。
聞いた話では、そろそろ孵化してもおかしくない頃合いだとか。
ただ、前例がない話なので本当のところはわからない。
でも、毎日少しずつ鼓動のような気配が強まっている気がするのでその時は近いのだろう。
「じゃあ、魔物全般だったら? ……ねぇ、神斗も考えてよ。生き物育てたことがなくて……」
私たちは、いつもの宿の一階にある酒場兼食堂で朝食を囲んでいる。
賑やかな声と香ばしい匂いが交差する空間。
この世界では、朝からしっかり肉料理。
神斗はプレートの上の肉をフォークに刺し、まるで何かを思いついたように、にっこりしながらこちらに突き出してきた。
「そんなに難しく考えることかな? ドラゴンって肉好きそうだし、とりあえず肉をあげればいい気がするんだけどな」
「え、生まれたての赤ちゃんにいきなり肉って……それ、ちょっと無茶じゃない?」
「リザード討伐したことがあるんだけど、雌も雄もパット見わかんないんだ 外見はほぼ一緒」
パッと見って……?
あ~、確かに言われてみれば、しいて言えばサイズ感の違いはあったかな。
雄は雌より一回り大きいだけの感じかも。
「だからね、えっと……胸がないわけよ。お……お……その、言いにくいけどさ……」
「あー! そういうこと! つまり、おっぱいが無いってことね!」
「ヴィヴィ、駄目ですよ。大きな声で言ったら」
ウィルは眉をひそめて、困ったような目でこちらをじっと見つめてくる。
し、失礼しました! それに向こうの商人さんとも目が合う。
ドラゴンの卵を肌身離さず持ち続けて3日もたてば、誰かに聞き耳を立てられるのは日常の一部みたいなものになってきた。
「ん‶ん‶。だからさ、ドラゴンにそれが無いんだから、ミルクで育てるわけじゃないってことなんだよ」
「どうなの? ウィル」
「そうですね。確かにドラゴンに哺乳のための器官は確認されていませんね」
興味津々な冒険者や、スプーンの手を止めてじっとこちらをうかがう商人。
会話の内容が内容だから仕方ないけど、これ、完全に観察対象だよね、私たち。
だったらもう、開き直って堂々と育児会議を進行しようじゃないの。
「じゃ……やっぱり?」
「肉だよね」
そんな簡単な事だったのかーー、昨日の深夜ズーッと考えていたのに!
「神斗! 賢い! じゃあ、【収納】にたんまり入っているチキンチキンの出番だね!」
「でも、捌いてミンチにしないといけないかもな……」
「おおおおぉぉぉぉ……」
捌いて、刻む……。
まさか、ここから育児=解体鍛錬がスタートするとは……悪夢が始まってしまうのか?
でもね、育てるって決めた以上、逃げ出すわけにはいかない。
「大丈夫ですよ。冒険者ギルドで依頼しましょう」
その一言に、私はふーっと息を吐き、思わず胸を撫でおろした。
「じゃあ、あとは元気に生まれてくるのを待つだけだね」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
冒険者ギルドの治療室にいる。
中央のベッドに座ったまま、私は息をひそめて我が子――そう、ついに孵化しようとしている小さなドラゴンの誕生を待ち構えている。
ギルドで【収納】に入っているチキンチキンを肉ミンチにしてもらうための依頼作成中に、卵に小さなヒビが入ったので急遽、場所を借りた。
いや、違う。私たちが望んだというより……。
冒険者ギルドの職員が「ぜひとも、孵化は安全の為ギルドで」と熱烈かつ強引にお願いしてきたんだった。
ついでに後学のためにと、何だかんだ理由を並べて。
「また、ヒビが入った!」
「おおお!」「もうすぐか?」「こんなことがあるなんて!」
「ドラゴンの孵化を見るなんて孫・ひ孫、いやズーッとのちの代まで自慢できるぞ」「もし、襲ってきたら?」「ヴィヴィオラさんが〖魔属性〗持ちらしい」「へぇ。へぇ? どんだけ属性持ってるんだ?」「ウィルヘルムさんやギルド長が★だから大丈夫だろ」「最悪、あの二人がなんとかしてくれるはず!」
そう、もしもドラゴンが私と神斗を親だと認識せず、暴走するようなことがあれば魔属性魔法【友魂の詩】をすることになっている。
【友魂の詩】できなかったら……考えたくもない。
この魔法は1体にしか使えない制限付きの魔法で、【友魂の詩】する相手を慎重に選ばなくてはいけないがドラゴンなら共に旅するには心強いので問題はない。
正直言うと、私はスライムでも全然よかったんだけど……可愛いし、ぷにぷにだし、ね?
「ほい。急いで作ってきたぞ」
私は「ありがとうございます。本当に、すみません!」と深く頭を下げながら、大きめのボウル皿を二つ受け取る。
本来なら今日お休みだったはずの解体専門職員さんは、ナザル・ギルド長と職員たちの勢いに押され、しぶしぶチキンチキンのミンチ肉を作ってくれたのだった。
しかも気を利かせて、牛乳を混ぜたタイプとそうでないもの、2種類を用意してくれた。
ありがたい……けど、やっぱり申し訳ない!
「あぁ、気にすんな。ギルド長も元冒険者だからな。好奇心が暴走すると、もう誰にも止められないんだよ、あの人は」
「たまにはいいだろう! それに、ジゼニアのど真ん中でドラゴン暴れたら? それこそ街の終わりだぞ!」
解体専門職員さんは「はい、はい。そうっすね」と抵当に相槌を打ち部屋から出て行った。
「俺は解体できないなら興味ない」らしい。
そのときだった。
ふいに、空気がピリッと引き締まるような、肌を刺すような冷気が漂いはじめた。
「ねぇ、ウィル? ……ちょっと寒くない?」
「ええ、そうですね。この卵から漏れ出る魔力のようです」
コツコツ……。
ガリガリ……。
静まり返った室内に、卵の殻を内側からひっかくような音が響いた。
「もうすぐだ!」
神斗が、感極まった声で身を乗り出す。
私の心臓は今か今かとドクンドクンと高鳴っている。
パキッ、パキパキッ
殻の表面に小さな亀裂が走る音が響く。
もうすぐ、逢える。
ファンタジー映画でしか見たことがないドラゴンとしても、自分たちが親として子供となるドラゴンとしても。
パキッ、パキッ。
パキパキッ。
!!
その瞬間、まばゆいほどの魔力の気配とともに、生命の誕声が弾けた。
「ギャウゥゥン!! ギャウゥン!! ギャウゥン!!」
鋭くもどこか愛らしい鳴き声が、部屋中に響き渡る。
私たちが言葉を失った一瞬の静寂のあとーー部屋中に、歓声と拍手が嵐のように巻き起こった。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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