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第84話 ドラゴンの未熟卵

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

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「え? なんですって?」


 ウィルが驚きのあまり声を裏返すのも無理はない。


「あのね……魔力を注いじゃった。神斗と私で」


 申し訳なさそうに伝えても、すでに後戻りはできない。

 鼓動が生まれてしまったから。

 このドラゴンの卵は、私と神斗の魔力を受け入れ生まれる選択をしたのだという。

 ウィルは、神斗の抱えているドラゴンの卵と一目で見破りはしたが、魔力を注ぎ孵化させることに成功したのは予想外だったらしい。


「ドラゴンの卵に魔力ですか!? しかも、ドラゴンが受け入れたと!?」


「「うん」」


 そう、ドラゴンの本当の親であれば、孵化はそんなに難しいことではない。

 この商人ギルドに持ち込まれた卵のように、他の種族が魔力を流した場合だと99パーセント孵化には至らない。

 1パーセントの孵化成功例は、神話の中で語られることなので眉唾物。

 だから、商人ギルドも100パーセント孵化には至らないだろうと思いつつも、提案をしてきた。


「ラッキーでしょ? ……え、ラッキー……だよね……?」


 ウィルの眉間には深く皺が寄り、その表情は明らかに納得がいっていないことを物語っていた。

 

「ギルド長が今回のお詫びだって言って、『もう死にかけだから、一か八かで魔力を注いでみませんか?』って」


 ギルド長から格安で譲ってもらったこのドラゴンの卵。

 商品として仕入れられたものの、1か月間誰にも買われることなく残されていたもので、孵化させるにはもう時間的に手遅れの状態だった。

 ドラゴンの卵にしては、約40センチと小さく、鑑定をつけても偽物と疑われて買い手がつかなかった。

 通常でも孵化できることがゼロに等しいのに、未熟卵だから孵化の可能性はゼロ。

 だから、貴族や富豪ですら、この卵を買おうとしなかった。

 あとは……卵料理になる運命。

 だから、金貨1枚のお値段だった。


「ヴィヴィ……と神斗さんの魔力で……子供がーー」

「子供!? そ、そうだよね、確かに、子供になるのかぁ……」

「つまり……二人の子供、ということになるんだね」


 神斗は目を輝かせながら卵を見つめている。

 神斗がこんなにも早く子供を欲しがった理由は、今でもはっきりとは分からない。

 でも、少なくとも彼の願いが叶ったのなら、それはよかったのかもしれないと思う。

 私自身も子供が出来ない身体にはなってしまったけど、こんな形で子供になる存在と出会えるとは想像もしていなかった。

 でも、何度も思うけど、この世界に来てまだ1カ月。


「やっぱり! 駄目です! それに三日三晩、魔力を流し込まなくてはいけないんですよ!?」

「そうみたい……」

「返してきてください! いや、むしろここで割ります!!」


 ウィルの魔力が膨れ上がり、空気が震え始める。

 これは、まずいと何も知らない私でもわかる。

 ビリビリと皮膚を刺すような鋭い魔力が漏れ出している。


「そんなにドラゴンが欲しいのであれば、今すぐ私が狩ってきます!」

「別にドラゴンが欲しいわけではないんですけどね」


 通行人が次々と足が止まった。

 突然、一人の男性が泡を吹き、力なく崩れ落ちたーー!!

 次々と地面に座り込んでいく通行人。

 ウィルの魔力に当てられたのだろう。

 魔力を持ってない人は、耐えられないみたいだ。


「あわわわわぁぁぁ。ウィル? 神斗?」


 当のウィルは、神斗に卵を渡すように要求している。


「ウィル! 落ち着いて!!」

「もう……この卵、生きているみたいだ。だから、育てるよ」

「三日三晩! 耐えられない!!」

「ウィル、ごめん……」


 魔力を注いだあと卵に耳を当てたら、トクトクと音がしていた。

 魔力を注ぐ前は、無音だったのに

 生きていると思ったらもう壊すことはできない。

 何よりも神斗が育てると言って譲らないのもある。


 わぁぁぁぁぁ、また商人さんが!!


「おい! ウィルヘルム!! 何やってんだ!!」


 ナ、ナザルギルド長~~!!

 助かった!!


「魔力を抑えろ!! このバカモン!!」


 ナザルギルド長なら、なんとかしてくれるはずーー。


「ヴィヴィオラ! なんとかしろ!!」

「私!?」


 ドン!!

 突然背中を押され、気づけばウィルに抱きついていた。

 !?

 !?!?


「ご、ごめん……ウィル……?」


 驚いて見上げると、ウィルは片手で顔を覆っていた。


「す、すいません……少し……我を忘れていました……」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 そして、夜。

 宿の天幕越しに酒場の賑やかな声が聞こえる。

 この部屋は相対して、静かだ。

 

 うん、気まずい……。

 

 いつの間にか、ベッドの位置が変わっていた。

 気づけば、三つのベッドがくっついて、一つの大きな寝床になっていた。

 正真正銘川の字。

 神斗は卵を撫でながら微笑み、ウィルは何か言いたげに視線を外している。

 私は……距離が近すぎる……と少し気まずくなりながらも、仕方ないかと諦めた。

 

「うん、私が真ん中よね……」

「……」


 ウィルの無言が、妙に怖い!

 なんでこんなことになったんだろう?

 そっと神斗が抱いている卵に手を乗せ、ゆっくりと魔力を流していく。


 ドラゴンが、本当に想像通りのドラゴンなら、巨大な生物になるはずだ。

 もし、この卵が親と認識してくれなかったら、どうなってしまうのだろう?

 育てる覚悟が、ずしりと胸にのしかかった。


「神斗。私が魔力を注ぐから、先に寝て? ガビルの件であまり寝てないでしょ?」

「そうだけど……じゃあ、先に寝かせてもらうよ。もし、疲れすぎて無理になったら、遠慮なく起こして」


 「おやすみ」と卵を撫でながら挨拶する。


「ウィル、神斗おやすみ」

「ヴィヴィ、いい夢を」


 背中にウィルの頭が当たった。

 明日には機嫌が直ってますように。

【★お願い★】

こんにちは、作者のヴィオレッタです。

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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