第83話 娼館の使い方は色々なのよぉ
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「えーっと?」
視線を巡らせる。
風呂樽の完成時の受取先を、ジゼニアの次の滞留場所の商人ギルドに変更するための手続きーーそれが目的で来ていた。
手続きが終わった後、なぜかギルド担当者が代わり、衝立で区切られた個室に通され、目の前に気まずそうな神斗が座っている……。
「んーっと?」
誰もが何か言いたげで、それでも言葉を飲み込んでいるようだった。
神斗の隣には、商人ギルドの担当女性。
そして、その横には赤茶色のショートヘアを持つ魔人族の多分、娼館勤めの女性。
彼女は、私と同じ猫獣人。
尻尾がクネクネと、まるで気分を表すかのように細かく揺れ動いている。
彼女は「なるほどねぇ」と薄ら笑いを浮かべている。
「これは一体どういうことでしょうか?」
ウィルは冷静に商人ギルドの担当女性へ視線を向け、問いかける。
答えたのは娼館勤めの女性だった。
「うーん、そうねぇ。ちょっとイケメンのお兄さんは席を外してもらえないかしら? そうしないと、多分、話が進まないのよねぇ」
「私……ですか?」
ウィルは小さくため息をついて、「ヴィヴィ、何かあったら呼んでください」そう言い残し、ゆっくりと席を立ち、商人ギルドから出て行った。
「うん、もぉ。商人ギルドで何かなんてあるわけないじゃない!」
つづけて「さっさと話進めて?」と彼女は言った。
「……ごめん、ヴィヴィオラ」
「え? 何?」
「俺がーーその、店に入ったの、見たでしょ? 幻滅しただろ?」
娼館に入るところを見られたことを言っているのだろう。
「う~ん……、幻滅、は、してないかな?」
だって、プライベートのことを口出す権利はないしーー。
男性の性的欲求のことは、あまりよくわからない。
「あの、私の方から、説明をしてもよろしいですか?」
「あ、いや……」
神斗が少し躊躇いながら言葉を濁す。
「そのほうが絶対いいわ! だって、勘違いされたままだと、あとあと余計にややこしいことになるんだから! 本当に大変よぉ!」
「それって、私と関係あることなの?」
だって、姉にイケナイ本を見つけられて、『それは違うんだ!誤解だから!』って必死に釈明してる弟のようなものでしょ?
この先の説明は、どう取り繕っても気まずいことになりそうな予感しかしない……。
「まずですね、行為はしておりません!」
「ふぁああ!!」
驚きで尻尾がピンと立った!
ギルド職員さん!?
なんてこというの!
「いや、そういう場所とは知っているけど! した、してない、なんて聞きたくないぃぃーー」
「いえ、一番重要なことなので!」
何に巻き込まれているのーー!!
「そうそう、まだ、契約段階の話だったんだけど。彼、すっかり落ち込んじゃって話にならなかったから戻ってきたのよぉ」
「契約? そんな重要な事、私が聞いていいのですか?」
「本当は、こんなことを話すのはあまり良くないのですが……今回は、きちんと説明しておいたほうがいいという結論になりまして」
神斗は覚悟を決めたように息を整え、観念したように口をひらいた。
「えと、子供を作ろうと思ったんだ。俺たち、というか……こういう世界じゃん? ほら、いつ死んでしまうかわからないし……」
「え!? そんなに早く子供が欲しいの!?」
まだ、この異世界にきて1か月なんだよ?
正確には29日。
子供って……つまり、自分の生きた証を残したいってこと?
気持ちはわからなくもないけど、それにしたって急すぎない?
いや、本気で言ってるの?
「ちょ、ちょっと待って、死が近い世界っていうのはわかるけど、それでも……神斗、まだ17才なんだよ!?」
「まぁ……色々考えてのことなんだけど」
内心、気まずさを笑いでごまかしたいのに、神斗の真剣な目に少しドキッとしてしまった。
「で、子供の作り方は行為をするわけでなくて、アレを受け渡しするだけってやつなのよぉ」
針のない注射器と契約書を見せて、説明してくる。
へぇ~、平均5回ぐらいで受精するんだって!
いや、そんな情報いらないし!!
「だからね。彼はまだ何もしていないってことよぉ」
「はあ……そうなんですね」
「私としては、5年ぐらい仕事しなくても遊んで過ごせる報酬だったんだけど、残念だわ……じゃ、私はここまで。契約するならいつでも待ってるわねぇ」
娼館の女性は、商談に来ている商人さんに愛想をふりまいて天幕を出て行った。
本当に商人ギルドは色んなことを斡旋するんだなぁ。
「したいことがあれば応援するよ? 子供欲しいなら、好きな人と儲けてほしいけど……。あぁ! そうか、旅は続けたいから!」
家族を作ってしまうと、そこで地に足のついた生活をしなくてはいけない……かもしれない。
旅が続けられない可能性が高い……んだと思う。
だから、後腐れのない人と子供を儲けようと思った……んだろうか?
全部、私の想像だけど!
「まぁ、そんなところかな……」
「じゃあ、契約した方がいいんじゃない? 旅は続けれるし、子供も作れるーー」
「んー、確かに間違ってはいないんだけど。多分、ヴィヴィオラはわかってない」
神斗は頬杖をつき、不貞腐れたように視線をそらす。
口元を少し尖らせて、ため息をついている。
「もう、わかるように説明してよ!」
「要するに、何もなかったってことと、契約は結ばなかったってこと。それさえ分かってれば問題ないよ」
???
神斗の言っていることがわからない。
もう、なんで娼館入るのを見てしまったからって、こんな説明されるの?
ギルド職員さんは「ちょっと席外しますね」と立って、カウンターの奥へ消えていった。
「もう、ギルドに用事ない? そろそろ帰ろっか……」
風呂樽の手続きも終わってるし、長居する理由はない。
気まずい雰囲気もさっさと断ち切りたいし。
「そうだね。ウィルヘルムさんにちょっと申し訳なかったな……」
私と神斗は、ぎこちなく椅子から立ち上がる。
私たちふたりとも、どこか落ち着かない。
「お待ちくださーーい!」
ギルド職員さんが、帰ろうとする私たちを慌てて引き留めた。
彼女は何か丸くて大きなものを宝物のように慎重に抱えている。
卵?
それは、ハンドボール2個を並べたほどの大きさの、ずっしりとした巨大な卵だった。
「ギルド長からの特別な提案なんですが、神斗さんの依頼内容にぴったりかもしれません! ほら、これを見てください!」
ギルド職員の声は高揚していて、明らかに興奮している。
彼女の目が輝き、誇らしげに卵を掲げる。
次の一言で場の空気が一変した。
「これは……ドラゴンの卵です!」
「「ドラゴンのたまごーー!?」」
驚きと衝撃で、私たちの声が重なった。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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