第82話 水家具屋で散財……、ん!?
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イーチダ……イーチダ……。
家具屋通りを看板を探しながら歩いている。
風呂樽を売っている店の名前は、水家具屋イーチダ。
水家具ってなんだろう?
水回りの家具ということであれば、風呂やトイレの専門店なのかもね。
トイレかぁ……。
やっぱり日本人としては、どこでも快適に過ごしたいものだ。
「仮設トイレを持ち運ぶのか、トイレだけを持ち運ぶのか……」
だって、ただの便器をポツンと森の中に置いて座るなんて、どう考えても変でしょ?
野外とはいえ、最低限のプライバシーは欲しい。
「トイレを持ち運ぶのですか?」
ウィルが不思議そうにしている。
【収納】を持っているウィルでさえ、トイレを持ち歩くという発想がないので、持ち運びは異世界初かもしれない。
「うん。トイレを森の中で置いて座るなんて……。想像してみてよ、見られたら羞恥で死んじゃう!」
「なるほど、では天幕も買いましょうか。何にでも使えますし」
ウィルは落ち着いた口調で提案してくる。
「トイレと兼用はちょっと……抵抗あるなぁ」
「ヴィヴィには【浄化】がありますし、別に問題はないはずですが」
「気分的な問題なの」
「では、2個買えば……いっそのこと、小さめの小屋でも買います? あぁ、でも土属性の魔法持ちがいないと設置に困りますね」
【収納】持ちの二人だから話がやたらとスケールの大きいものになる。
こういう贅沢な悩みを持てるのは、ある意味幸せかもしれない。
ウィルは「土台が……」とブツブツ呟いている。
小屋を持ち運ぶのは……盲点だった。
たしか、私の【収納】は、ドラゴン10体が悠々と収まるのだから、ちょっとした小屋なら問題なく収納できるはずだ。
【収納】、無属性サイコー!!
ウィルの足がピタリと止まる。
目の前には商人ギルドから紹介された水家具屋の看板が。
「いらっしゃい。今日は何をお探しだい?」
店には、木片・金属片・布のサンプルと紙に書かれたカタログに当たるものが山積みされている。
「風呂桶が欲しいです! 値段次第なんですけど……」
「私が出しますよ?」
「もう! 自分で買うもん。お金が足りなかったらその時は貸して……」
店主は「はいはい、風呂樽ね。二人で入るのかい? それなら値段も上がるし、サイズも大きくなるぞ」と私たちのやり取りを絶妙なタイミングで拾いながら、手慣れた様子で分厚いカタログを取り出してくれた。
「いや、一人用でいいです!」
「大きくても【収納】に入りますから問題ないですよ」
「あっ、そうか……みんなもそれぞれ入るとなると、大きい方がいいのか」
「まぁ、そうですね……」
「まぁ、どんまい……だ」
一緒に入るかぁ……。
一緒に入る……そんなシチュエーションが頭をよぎる。
ウィルと神斗が並んで、肩までお湯に浸かりながらリラックスしている光景がふと頭に浮かんだ。
妙に穏やかで、妙に……違和感がある。
私は? 絶対にないない! 一人で静かに入りたいんだってば!
ウィルも神斗もそこそこ体格があるし、もし二人用なんて買ったら、それこそ距離感が微妙になりすぎる……。
そう、ここは健全第一! お風呂を楽しむために、大きめを選ぼう!
3人用? 4人用? ええい、大は小をかねる!
「5人用のを買う!」
「まいど!? お嬢さん、大きく出たねぇ!」
風呂樽は、四角いもの、長方形のもの、丸いものーー種類が想像以上に多く、どれもそれぞれに良さがある。
「持ち運びするなら丸形を選ぶみたいだな。というか持ち運ぶ奴は20年で1人ぐらいしか見たことがない」
「みんな濡れタオルとかで我慢するの?」
「川とか、湖にドブンさ」
「やっぱりそうなるよね」
これがこの世界の"普通"なのだ。
旅の途中でそんな光景を何度か見たよね。
私も1回入ったけど、綺麗になったのかは???だよ。
庶民の家には、風呂はない。
だから、風呂屋に行くか、近くの川や湖でご近所と一緒に水浴びをするのが一般的らしい。
「それは、それで楽しそうだね」
「まぁな、でも大変だぞ。男なんて見張りの為に連れてかれるだけだからさ。ひたすら外向いて座ってさ。うっかり覗いてみろ。村八分ならぬ。町八分だぞ」
どうやら、この世界では男性には厳しいルールがあるらしい。
その後、思い切り飲んで騒げるから、結果的には楽しいらしい。
どこの世界も、苦労の後には酒が待っているんだな……。
「イケメンは覗いても許されるのが解せないけどな」と店主がボソッとウィルを見てぼやく。
どこの世界でも美男美女無罪法があるんだねぇ。
「よし、決めた。長形にする。次は高さかぁ。肩まで浸かりたいよね!」
「そんなデカイもの、旅に持っていくんか? 大丈夫か? キャンセルできんぞ?」
「そこは大丈夫!」
収納の問題なんて、【収納】がある限り、気にする必要なんてないのだから。
これで、旅の不安が一つ解消できた。
もう、汗のベトベト不快感からおさらばだ。
「商人ギルドの紹介だから、ちょっと割引しておいたぞ」
「わぁ、ラッキー」
こういう交渉がスムーズにいくのも、商人ギルドの信頼あってこそ。
「移動期間に入りそうだから、商人ギルド経由で受け取る形でいいな?」
「あっ、そうか」
「次の行き先が決まったのですか?」
「まだだが、もうそろそろなはずだ。3~4か月で移動だからな」
ウィルが「準備を急がないといけませんね」と私をみる。
また、食料爆買いが始まる。
「私たちもジゼニアと一緒に移動するんだよね?」
「はい、行先次第ですが、その予定です」
「そうか、お嬢ちゃんは戦えるのか?」
「もちろん!」
店主は「頼りにしてるぞ」と笑い、手慣れた動きで商人ギルドに渡す書類をまとめてくれた。
こうして、風呂樽の購入は無事完了。
頼りかぁ。
ホーミングの矢が飛んでいくだけではあるんだけど!
でも、それだけで済まない場面もきっとある。
短剣の訓練もそろそろ再開しないといけないな。
商人ギルドへ向かいながら、頭の中で短剣を構えるイメージをして何も持ってない手を振リ回す。
「ーーん? ん!? え!?」
「ヴィヴィ、どうかしましたか?」
「あ……、いや、何でもないの。えと、そうだ! トイレも買うの忘れてた!」
ウィルの手をぐいっと握り、そのまま店へと戻って行く。
「戻りましょう!!!」
あれは、神斗だったよね?
いや、どう見ても神斗だった!
神斗は、商人ギルドの加入担当してくれた女性と共に、ある店の前に立っていた。
店の名前はーー。
〖美味しいお酒とマッサージなら当館にお任せ 娼館 艶夜の楽園〗
鮮やかな文字が掲げられた看板。
キスマークのイラストが。
娼館!?
娼館!?!?
娼館!!!???
しょ、しょ、娼館って売春宿だよねーー!?
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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