第80話 ガビルのその後
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《キャラバン・ジゼニア10日目ーケルンジリア29日目ー》
「おはよ……ぅ……。ウィル……」
「ヴィヴィ、おはようございます」
隣のベッドをぼんやりと見やるが、そこにあるべき姿はなかった。
まだ、神斗は帰ってきていないみたいだ。
「え? 本当に徹夜なんだ……」
「みたいですね」
「首を突っ込んだ罰みたいなものなのかな……」
冗談めかして言ったが、心の中ではどこか心配が消えない。
ギルドに置き去りにしたのに自分勝手だなと思う。
ウィルは喉の奥で軽く笑い、優しげな目を細める。
「違いますよ。ナザル・ギルド長が神斗さんを気に入って、ギルドの調査班の仕事などを教えたいだけですよ。戦闘能力は申し分なく、何より真っ直ぐな性格ですから。良き冒険者に育てたいのでしょう」
「そうなの? それならよかった」
「朝食のあと迎えに行きましょう」
神斗は眠気でぼんやりしているだろう。
昨日の夕食は、ギルドが用意するとは聞いていたけどお腹を空かせてないか心配だ。
「そうだね。依頼報告もまだしていないし。何か食べるもの持っていこう。神斗、絶対お腹空いてるよね」
ーーー
「おはようございます」
依頼を受けた冒険者たちが出払った後で、ひどく寂しげだった。
鐘の音が9時を知らせる。
「ああ、来たか。神斗は治療室で仮眠しているぞ。4時前ぐらいに寝させたから、もう起こしてもいいんじゃないか?」
治療室に入ると並ぶベッドはすべて埋まり、そこかしこから徹夜組の冒険者たちやギルド職員がぐったりと眠っている。
「神斗ーー起きて?」
そっとベッドの脇にしゃがみ込み、小さな声で呼びかける。
「う~ん……。もう、ちょっと……」
「そうだよね。眠いよね。ウィルに背負ってもらおうか?」
「や、大……丈夫。おきた……」
スッと上半身を起こす神斗を見て、少し笑っちゃった。
私は【収納】から冷たい飲み物を取り出し差し出す。
氷の入った飲み物を口に含めば、眠気も吹き飛ぶだろう。
「依頼報告を済ませたら、宿に戻ろうか」
「ヴィ……ヴィオラは今日、何するのぉ?」
「そうだな~。伸ばし伸ばしになっていた商人ギルドへの登録を、そろそろ済ませようかな?」
「俺、も、行きたい……」
「一緒に行こうね」
そういえば、神斗は前に何か欲しいものがあると言っていた。
彼が何を求めているのか、ふと気になった。
でも、〖これが欲しい〗と言わなかったことを考えると言いたくないのかもしれない。
聞かないほうがいいかな? そっと心の中で問いを閉じた。
ギルド受付に戻ってきたら、ウィルとナザル・ギルド長が向かい合って談笑していた。
ナザルの声は少し弾んでいて、どうやら神斗の話題で盛り上がっているらしい。
「いや~、神斗は大したもんだな。書類仕事もできるとはな。ウィルヘルム、どこで拾ってきたんだ?」
「レンギアの城からですね」
「ええ? こいつも? 冗談だよな?」
ナザル・ギルド長は「ヴィヴィオラもだったよな?」と記憶を呼び戻している。
「ヴィヴィオラと同じで城から来ました」
「お貴族さまじゃないだろうな」
「違います」
「それならいいが。それにしてもギルドに欲しいぐらいだ。冒険者辞めて俺の補佐でもしてくれないか?」
神斗は、どうやら本気で気に入られたようだ。
「俺は一先ず、自由にしたいことして生きたいので無理ですね」
「残念だな……。まぁ、そうだよな……。冒険者は自由が一番だもんな。俺はそろそろ引退したいってのに、後継者がいなくてな……」
ギルド長になるには、ただ強いだけでは務まらない。
ソロで★ランク以上の腕前を持ち、人格者として認められ、なおかつ書類仕事を苦もなくこなせる――この3つが揃わなければならないらしい。
冒険者にとって最も難しいのは、意外にも書類仕事らしい。
戦いだけではなく、管理能力も問われるのだから、適任者は限られるのも当然だった。
「神斗だったら★にもなれるだろう。残りの2つも問題ない。他の冒険者ギルドと違ってジゼニアは常に移動しているから旅しながら仕事ができるからいいぞ」
「駄目です。神斗は渡せません!」
神斗が本当にしたいことを見つけるまで、私は彼と一緒に旅をするって決めたんだから!
「俺はヴィヴィオラのものなので!」
「それなら私も、ヴィヴィのものです!」
「え!? いや、二人とも違うし……物みたいに言わないで!」
「お前たち……。ウィルヘルムにも断られたし。いつになったらーー俺は引退できるんだ……」
ナザル・ギルド長は、腕を組みながら深いため息をつき、ぼやくように言葉を漏らした。
大きなため息をつきながら、重い手つきで一枚の報告書をこちらに差し出してきた。
その紙には、見たくもない現実が記されていた。
「ガビルの件だが……罠にかかり、キリフ領民が2人犠牲になっていた」
「もう、全て調査終わったの?」
「初動だけで、十分な罪が見つかったんだ」
犠牲者の一人は、103歳の魔人族の奴隷だった。
長年主人に仕え続けた彼は、お使いに出たまま戻ることはなかった。
帰ってこなかったので逃走を図り死んだと思われていた。
死んだと思われていたーーウィルも付けていた〖隷属の首輪〗だっけ。
無理やり外せないし、命令以外の行動を起こすと死んでしまう。
もう一人は、17歳の人族の少女だった。
彼女は森へ木の実を採りに行ったまま帰らず、家族は必死に捜索願を出していた。
だが、願いは虚しく彼女の帰還は最悪の形で果たされた。
私と神斗も罠にかかってしまった。
もし私が一人だったらどうなっていただろう?
この二人と同じ運命を辿っていたかもしれない。
静かに殺され、誰にも気づかれず土の下に埋められていたかと思うと、背筋が凍る。
この旅の中で、みんながそれぞれ進むべき道を見つけて、一人になってしまうことを覚悟していたが、不安になってしまった。
「……一人で行動するのは止めよう」
つい気づけば言葉が漏れていた。
「絶対駄目ですよ。特に町の外は」
ウィルは、いつも心配してくれるが危険を知る者の警戒心でもあるのだろう。
ガビルの定宿していた部屋を調査したところ、女性のアクセサリーや男性が持っていたはずの主人の紋章が刻まれた剣が見つかったらしい。
「ーーでもな、それだけじゃなかったんだ」
「まさか……まだ何かあるの!?」
「ああ、別の3人の失踪にも関わっていた。半月前に行方を絶った領民たちだそうだ」
そんなにも多くの犠牲者がいたのか……。
「冒険者ギルドからは永久追放となった。でだ、警ら官に引き渡したんだが、その後の選択肢は二つ――奴隷落ちか、死刑か……」
「犯罪奴隷の中でも、人殺しは特に厳しく処罰されます。鉱山送りとなれば、そこで一生を終えることになりますから、どちらにしても、もう会うことはないでしょう」
ギルドに報告した逆恨みの報復はなさそうだ。
あの時、ガビルの背中を踏みつけて、高らかに罠に引っかかったと宣言するんじゃなかった。
特に私の見た目は、派手すぎて、どこへ行っても目立つし、見間違えようがない。
こうなってしまうと、人の記憶に残りやすいのが逆に厄介だった。
普通さ、異世界漫画って、ほとんどの町の人がカラフルな髪色をしているよね?
みんな、おちついたダークトーンの髪色なんだもの。
「……あれ? でもさ、犯罪って、この不思議な珠で判別できるんじゃないの?」
キリフ領都に入る際には、必ず領門で検問が行われる。
必ず検問で珠に手を乗せるはずだ。
定宿で寝泊りするにも領都に入るのだから必ず検問受けないといけないじゃない!
「それがなぁ……賄賂だ」
「門番が金で買収されたってことだよ」
報告書を作成していた神斗が言葉を続けると、ナザル・ギルド長は黙って頷いた。
「賄賂? あ……」
私とウィルも、正式な門を通らず、地下水路を抜けてレンギア王都の外へ出たんだった。
カホーさんに通行証代の金貨1枚払って。
賄賂は賄賂だもんね……。
「ヴィヴィオラ、どうしたの?」
「何にもない……よ」
神斗が心配そうに顔を覗き込む。
その視線が、何も言わずとも私の動揺を見抜いている気がした。
「そうだ! 私たちのこと!」
「ん? お前たちのこと?」
ナザル・ギルド長は眉をひそめ、首を傾げた。
「そう、報告書に私たちのこと書いた?」
すっかり、逃亡中なのを忘れていた。
レンギア王国は私たちのことを見逃してくれたのだろうか。
「ヴィヴィオラ、大丈夫。報告書には、俺たちの名前は一切書いていないよ」
「目立つことは避けたいってことでな、ミゲルたちの名前を借りといたぞ」
「よかったぁ……。誰が報告書を目にするかわからないから、ひとまずレンギア王国の土地にいる間は目立ちたくないもん」
レンギア王国。
女神のお告げで勇者召喚した国。
楽して世界を手中に収めようとした国。
あの国、まったく動きがなくてすっかり気が緩んでたんですけど!
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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