表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/112

第74話 罠の置き方にもセンスがある

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

改行などで見辛くなる時はビューワー設定の調節してください

《キャラバン・ジゼニア9日目ーケルンジリア28日目ー》

 

「うぉっ!」


 キュリュッ! シュルゥルゥルゥゥゥゥーー

 ロープが急激に締まり、空気を切るような鋭い音が響く。

 ギッ! ギィ…… ギギィッ…… ギィ……


 吊るされて困惑な神斗を見て「ウフフフッフ」と笑いが止まらない。

 

「いや、いや、見えなかったんだって!」


 神斗は慌てて弁明するが、声にはどこか動揺が混じっている。


「そうだよね! ウフフフッン」

「面白がってるでしょ。……ん!? ……ヴィヴィオラ、そこ危ないから1歩下がって?」

「え? ホント?」


 神斗の言葉を信じ、1歩後ろへ下がる。

 しかし、その瞬間——。


「ひゃっ!」


 キュリュッ! シュルゥルゥルゥゥゥゥーーギッ!

 ギィ…… ギィッ……ギギィッ……

 吊るされた体が揺れ、木の枝が不穏に軋む音を立てる。


 「うわぁぁぁぁん」

 

 ギィッ……ギギィッ……

 二人の体が揺れるたびに音が響く。


「神斗のバカ! わざとでしょ!」

「ごめん、ヴィヴィオラ! そ、その……いや、見えてる! 本当にごめん!」


 神斗は顔を真っ赤にしながら慌てても正直に告白する。


「え? 見えてる? 何、……を!?」


 スカートが重力に屈したように


「いやぁぁぁぁ!!! ーー見た!?」

「見てない!」

「嘘! 『見えてる』って言ったじゃん!」


 慌てて両手でスカートを押さえ、重力に逆らうように必死に抑え込む。

 このドロワーズって短パンって思えば大丈夫なのかな!?

 いや、ダメでしょ!


「神斗のバカ! バカ! バカ!」

「ごめん、ごめん」


 神斗は申し訳なさそうに手を合わせるが、どこか楽しんでいるようにも見える。


 ミノムシ状態と言えばいいのか二人して逆さづりになり、木にぶら下がっている。

 神斗は「ホイッ」と軽い掛け声を上げながら、足を縛るロープの少し上を力強く掴んだ。

 まるで垂直に腹筋をするかのように体を持ち上げるなんて、どれだけ筋力があるの。

 神斗は腰に差していた剣を抜くと手と足の間を繋ぐロープを一気に切り落とした。


「よっと!」


 軽やかに地面に着地し、まるで何事もなかったかのように立ち上がる。

 何? 高校生ってこんなに運動神経が凄いの?


「今、切ってあげるから」


 神斗は罠の始点のロープに手をかけ、慎重に剣を構えている。

 嘘でしょ!? 


「ダメダメダメ! どうやって降りるの!? 怖い! 頭から落ちちゃう!」

「受け止めるから大丈夫!」


 神斗は「ほら、切るよ」といい、ロープに剣を当てる。


 ドサッ! っと衝撃とともに、神斗の腕の中に落ちた。

 神斗は小さく「ゥッ!」っと声を息を詰まらせたが、すぐに何もなかったように態勢を立て直した。


「今、少し『うっ』って言ったでしょ……」


 神斗は何も言わず、ただ静かに天を仰いだ。


「もう! ……でも、ありがとう。さぁ、降ろすのです」

「どういたしまして。それにしても、ヴィヴィオラは軽いよね」

「ん? そうなの? よく考えたらこの姿になって体重測ったことない」


 神斗はまるでダンベルを持ち上げるように私の体を軽く揺らす。


「うわっ! なになになに!?」

「う~ん……。50キロないかもな」

「なんでわかるの? 50キロって。で、降ろして」

「訓練で50キロの砂袋を運ぶ訓練があったんだけど」


 砂袋――荒くて硬い麻布に包まれたそれは、ひたすら無機質で、人が抱えるには無骨すぎるほどの重さを持っている。

 騎士たちが無言でそれを肩に担ぎ、筋肉を悲鳴を上げさせながら運んでいる様子が脳裏に過る。


「何? その訓練。救助の練習? もう! 降ろして」

「あいつらがそんな訓練なんてすると思う? 魔物の素材を余すことなく運ぶ訓練だよ」

「アハハ、それ、レンギア王国の騎士っぽい!」


 「ぷっ!」と吹き出しながら、神斗の腕の中でもがく。

 神斗は再び軽く持ち上げ、体重を確かめるように動かした。


「砂袋と比べて、重心が違うんだけど。……まあ、それでもそれでも軽すぎるな」


 私は「降ろせ~!」と必死に暴れ、ようやく地面に足をつけることができた。


「砂袋訓練の賜物ってわけね。高校生らしい細さが消えつつあるし、筋肉の成長が著しい……」


 でも、1カ月でこんなに?

 異世界のお肉にドーピング薬が仕込んであるのか?


「ヴィヴィオラーーそんないやらしい目で見ないでよ」

「見てません!」


 即座に否定するが、神斗がニヤニヤしている。

 恥ずかし……。


「今も毎日、訓練してるからね」

「うっ……その間、私はティータイムしていると……」


 周囲は静まり返り、風が木々の間を抜ける音だけが響いている。

 人の気配はまったくなく、まるでこの森に二人だけが取り残されたかのように感じる。

 よかった、人は近くにいない。


「ところで、この罠、何だろうね。壊しちゃったけど……危ないから【探索(サーチ)】してみようか。【探索(サーチ)】……」


 視界に、無数の罠が淡い光を放ちながら浮かび上がる。

 その数は20を優に越え、まるで蜘蛛の巣のように広がっていた。

 背筋がひやりとする。


「キッモッ!?」

「ザッと15個はあるな」

「いやいや、【探索(サーチ)】で見るともっとあるよ! 30個以上!」


 こんなにも仕掛けが張り巡らされているとは思わなかった。

 自分たちは一番手前の罠に引っかかってしまった、ある意味ラッキーだった。

 罠から抜け出せたと思ったら、次の罠に引っかかってなんて笑えない。

 二人で身をかがめ、近くの罠を調べる。

 

「神斗、ここに何か埋まってる……感圧板だ!」


 慎重に土を払いながら、小さな板状の仕掛けを指差した。


「何それ?」

「この板が引き金なんだと思う。この板を踏んだから、罠が作動したってことだね」

「何? もしかして山で暮らしてたの?」

「違うよ~。サバイバルクラフトゲームをよくしてたから……」


 神斗は「俺はFPSゲームばっかりやってたから、こういう罠とか全然分からないんだよな」と苦笑いを浮かべた。

 ゲームの話が花咲かなかったのは、やはり異様な罠の数だった。


「あっ、あの藪の手前って見えにくいけど、トラバサミじゃない? 踏んだら痛そう……」

「こんな一か所に罠設置って異常だよな。魔物捕獲用なのか、獣用なのか……それとも人攫い用?」

「さらっと人攫いを候補に入れる日本人なんていないよ!」

「若いから柔軟性があるんですぅ!」

「そうだったね! 凄いねぇ、神斗は」


 まるで子供を扱うように、ワシワシと神斗の頭を撫でまわす。


「もう、俺は大人なんで!」


 神斗はムッとしながら言うが、撫でられるのを完全には拒否しない。

 たしかに、180センチもある身長に体格がよくなった人を「子供」扱いするのは無理があるかも。


「ちゃんと、大人の男性だよ」

「その大人な俺から提案なんですが、一旦ジゼニアに戻ろうか?」

「うん、それがいいかも。この罠の正体がわからないし、もしかしたら他の冒険者にも危険が及ぶかもしれないから、ギルドに報告した方がよさそう」


 ギルドから受け取ったキリフ領の地図に印をつけると、慎重に周囲を警戒しながらジゼニアへ向かって歩き始めた。

【★お願い★】

こんにちは、作者のヴィオレッタです。

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ