第71話 配信するようです④-2 ※ビューワ 1行×32文字以上
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「そういえば、水の生活魔法って便利なんだよ! 例えば、【水】!」
手の平から数ミリほどの浮いた宙に、ふわりと水が生まれ、ゆらゆらと形を変え、とぷんと肌に触れる。
水のほんのり冷たく、心地よい感触が手に広がっていく。
[おぉー! 水出たーー!]
[めっちゃ綺麗なんだけど]
[これ飲めるの?]
「これは飲める水! 手軽に水が作れるのは本当に助かるよね」
手の平からあふれ出た水が零れて流れていく。
あ……水、どうしよう、全部零れ落としたら床がびしゃびしゃになるし、この後どうするかを考えてなかった……。
もう仕方ない、あとで拭けばいいよね?
[おおおお!! めっちゃ魔法って感じがする]
[これ戦闘に使える? 水攻撃とか?]
[水の温度は変えられる?]
[水ってかなり重要だもんね]
「温度は変えられないけど、量を調整すれば水流にできるらしいよ! 今は練習中! 攻撃はできないと思うな。これ生活魔法だもん」
床に零れ落とした水が、まるで砂漠に染み込むように、ゆっくりと吸い込まれていく。
この便利空間……日本にいた時に本気で欲しかった。
[水量次第で、なんか使えそうだけど]
[水攻めできるほどの水は無理だろ]
[樊城の戦い?]
「何の戦いだって? 漢字がムズイよ。水攻め?」
[関羽の水攻めだっけ?]
[三国志だよ]
「三国志の話か! 〖孔明の罠〗しか知らないんだよね。歴史に詳しい人がいっぱいだなぁ。そうそう、今、私ね、ギルドのお試しランクなの」
私はギルドタグを胸元から取り出し、カメラに向けて見せる。
木製のタグにはしっかりと〖Gランク〗と刻まれていて、手触りは少しざらついている。
でも、この文字はケルンジリア語で書かれているから、たぶんみんなには読めないよね。
「これは仮の木製タグなんだよ。ここに私の名前が刻まれていて、ここに〖Gランク〗って書いてあるんだよ」
[また出た、読めない文字!]
[冒険者っぽく見える]
「明日の魔物解体実習が終わったら、正式にギルド所属になるんだよ」
[魔物解体ってどんな感じ? グロくない?]
[解体!?]
[どんな魔物が解体されるの?]
[俺らの食べてる肉も誰かが解体してくれてるんだよなぁ]
「ほんと、日本ではさ、お肉は綺麗なパックに入れてくれてて、買うだけなんてありがたいよね。次回、解体の話をしたい気持ちはあるんだけど……多分無理かも。正気を保てる気がしない! だって、生き物を解体するんだよ!? 包丁を入れた瞬間、実感しちゃいそうで……うわ、考えただけでゾワッとする……」
[日本でも誰かが解体してるんだから、同じだな]
[慣れる×2ww]
[そうそう、結局、誰かがその役割を担ってるんだよね。見えない
だけで、確実に存在する仕事]
「で、魔物は何が出てくるかはまだ不明なんだけど、冒険者ギルドの人に聞いたら『小型の魔物だから安心しろ』って言われた!」
確かに、肉を捌いている仕事の人がいるんだよね。
家畜か魔物かの違いだけ。
[そのうち「まぁそんなもんか」って思うようになるらしいよ]
[医学生だって解剖実習で、吐く人いるらしいよ]
「あーー、吐く……それ完全に明日の私じゃん……。どうしたら良いと思う?」
[十分な睡眠じゃない?]
[空腹だと逆に気分が悪くなるらしい]
「えっ、逆だったの!? 何も食べない方が楽かと思ってたけど、むしろ食べておいた方がいいの!? 完全に認識ミスってたーー!」
対策についてコメントがどんどん流れてくる。
たくさんの「朝食は軽めがいい!」「メントール系の匂いを嗅ぐと楽!」みたいなアドバイスが飛び交い、リスナーたちが本気で助けてくれようとしているのがわかる。
「対策いっぱいありがとう! なんとか乗り切って見せるね」
[がんばれー!]
[明日は大変そうだけど、応援してるな]
「そうだ! ひとまず金策は冒険者ギルドの依頼だけで稼ぐことができるんだけど、落ち着いたらネットショッピングで何か仕入れて、販売してみるのもアリかなって思ってる! そういえば、前の前ぐらいの配信で色々教えてくれたでしょ? スパイス売るのはどうって話。いい話聞いたんだ!」
画面のコメント欄がわずかに止まり、リスナーが注目しているのが伝わってくる。
「胡椒ーー100グラムーーなんと、金貨1枚!! 1万ギリアです!!」
[ほら!! 売れるって言っただろ!]
[異世界転生ものっていえばスパイス・ライター・シャンプー]
[あとおにぎり・日本風温泉なww]
[それはそうだけどww ↑ 今回関係ないぞ]
「あはは! おにぎり食べたいかもーー。凄いでしょ! 1万ギリアってね、平民の家族が一月暮らせるくらいの額なんだよ! 凄くない!? 100グラムでだよ! 本当にみんなの言った通りだね! でも……ネットが使えるのはあと344日だけだから、この金策がずっと続くわけじゃないのがちょっと悲しい」
頼れる期間が限られているのはわかっている。
だからこそ、その時間を最大限活かして稼げるだけ稼いでおきたい。
[<10,000円>これで胡椒買って【収納】に入れておけば、
いつでもお金に替えられる]
「あわわわ。こんなにも良いの? ありがとう! サンクチャありがとう!」
残された日数、あと344日。
これが配信及びネットが使える猶予期間だ。
〖youLIVE-site344〗と画面に載っている。
おそらく、これは365日からのカウントアップで間違いない。
そう考えると、異世界ケルンジリアに来てからたった22日しか経っていないなんてビックリだよね。
[お金持ちだぁ。ナイスサンクチャ!]
[ちゃんと生きていけそうでよかった]
[だなだな]
[ナイスサンクチャ!]
[<555円>俺も少ないけど頑張ってな]
「サンクチャありがとう……」
言葉を絞り出すように呟く。
画面越しに伝わる優しさに、胸の奥がじんとする。
「もう、ちゃんとこっちで生きていけそうだから……、みんなが転生したら私が養ってあげれるぐらい凄い人間になるよ」
配信部屋は静かになり、一瞬の余韻が漂う。
画面にはまだ流れるコメントの文字列が、淡い光を帯びながら行き交っている。
「じゃぁ、今日はここまで。みんな、次の配信までに異世界小説読んでいい情報お願いね。今日もご視聴ありがとう~! バイバイにーにー!」
[おつーにーに]
[ネット小説漁るわ! バイバイにー]
[おつにー]
[またね!]
LIVEを切る。
通知 入金<11,555円>サンクチャ代が入金されました
残金<22,729円>
部屋に静寂が戻る。
ふう、と軽く息をつくと、わずかに緊張が解けた気がした。
配信が出来なくなるその日までに、みんなに心配をかけないように、もっと強くならなくちゃ。
ゲーミングチェアからゆっくり立ち上がる。
まずは、そのためにも今日は早めに休もう。
明日の魔物解体実習を考えると、できるだけ万全な状態にしておきたい。
明日の魔物解体実習を考えると、できるだけ万全な状態にしておきたい。
しっかり休まなきゃ……寝れるかな……私。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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