第67話 冒険者は意外に泥臭く
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チキンチキンたちは、これでも急いで逃げていると言わんばかりに「グワーッ!」と泣く、いや、鳴く。
「……これを倒すんだよね? 無抵抗なのを殺すのは厳しいなぁ……」
疑卵を吐き出していたから無抵抗ではなかったんだったけどね。
迷いながらも、意を決してチキンチキンの胴をむんずと掴む。
ふわりとした羽の感触と、わずかに温かみを持つ体が手に伝わり、一瞬だけ躊躇してしまう。
嘴で突きもしないんだ……。
ーーチキンチキンは、じっとこちらを見ている。
抵抗もしないんだ……。
ーーチキンチキンは、ただじっとしている。
おぉぉぉぉぉぉぉ……。
「俺も捕まえた」
「さぁ、頑張りましょう。まずは首を折ります」
「はーい……折ります……」
手のひらにじんわりと汗が滲むのを感じた。
この世界で生きていくためにはーーそう自分に言い聞かせながら、ダガーの柄をしっかりと握る。
迷いを振り払うように、柄の底を首に目掛けてを強く振り下ろした。
あぁぁぁぁぁぁぁ……。
「先ほどの昼食を食べたところの近くに移動しましょう。ヴィヴィは【収納】で移動させてくださいね」
神斗は、「おいっしょ」と軽く声をあげながら、楽々とチキンチキンを両脇に持つ。
結構な重量があるはずなのにさ、神斗はあっさりと持ち上げる。
なんで、こんなに力の差があるんだ!
この草原には、チキンチキンの討伐後に血抜きを行うための専用スポットが設けられているらしい。
その場所は、昼食を食べた大岩のすぐそばにあり、休憩できるスペースも確保されている。
「ここの木に吊り下げてください。そして、首を切ります」
古びた木の杭がいくつも並び、その表面には長い年月を感じさせるひび割れが走り、そこに縄をかけて吊るす仕組みのようだ。
「はーい……首を切りまーす……」
ゆっくりと手を動かしながら、深く息を吸い込んで覚悟を決める。
ザシュッ!
鋭い刃が肉を断つ音が響き、直後にボトボトッ……と、温かい赤い血が地面へと広がっていく。
「……ん……」
「ヴィヴィ、あと1羽分どうします?」
「や、やるよ……ホーンラビットだってやれたんだから! 誰かが食べるなら、できる! やれる!」
ウィルの大きな手が、そっとダガーを握る私の冷えた手を包み込む。
「一緒にしましょう。これぐらいの手伝いなら大丈夫です。それにヴィヴィは【収納】がありますのでそのまま持ち帰ってギルドに任せることもできます」
「そうそう。無理しない方がいいよ」
ウィルも神斗もどちらも無理を強いることなく、私のペースに寄り添い、そっと支えてくれる。
「私も冒険者になるんだもん! 少しずつでいいから頑張る!」
強く言い切ることで、自分の気持ちを奮い立たせ、ダガーを握る手に再び力を込めた。
―・―・―・―・―・―・―
はぁぁぁぁぁぁ……。
「【水】……」
ダガーにこびりついた血を指でなぞるように流し落とし、赤色が水とともに地面へと消えていった。
はぁぁぁぁぁぁ……、魔法って便利だなぁ……。
「ヴィヴィオラ、俺も洗いたい。【浄化】でもいいんだけど、やっぱ、水だよな」
【浄化】は、あらゆるものを綺麗にしてくれる。
こびりついた血も、染み込んだ汗も、固まった泥も、一瞬で消えてしまう。
それはまるで、時間が巻き戻され、汚れる前の瞬間へと戻ったかのような感覚になる。
それでも、水で洗い流したほうが、ずっとスッキリする気がする。
この差は、なんだろうね。
昼食を食べていた大岩にそっと体を寄せる。
ひんやりとした岩の感触が、少しだけ心を落ち着かせてくれる気がする。
日本でも料理はしていた。
だから、お肉を切ること自体には慣れているはずなのにーー。
「紅茶でも飲んで、少し休んでおいてください。あと10分ほどで帰れますよ」
「…はーい……王様の頭の時、あの時寝たから平気だったのかなぁ……ううぅ。これを見ながら紅茶はちょっと……」
目と鼻の先には血を流しているチキンチキンが。
小さくため息をついた。
鐘の音がゆったりと響く、15時だ。
「もう、血抜きは十分でしょう」
「神斗のチキンチキンも……【収納】に入れとく……ね」
「うーん、初めての依頼だから、普通の冒険者と同じように2羽は持って帰ってみるよ。あとは頼むわ」
「わかった。じゃあ【浄化】をかけておくね」
軽く手をかざしながら魔法を発動する。
瞬時に輝く魔力が広がり、チキンチキンについていた汚れも血の匂いもすっきりと消えていった。
今日はまさに魔法三昧だ。
【収納】ー物の出し入れした
【永遠の鎧】ー攻撃を防御した
【追尾の矢】ー地面を狙い通り射った
【治癒】ー神斗を治療した
【鑑定】ー薬草を調べた
【探索】ーヒール草を探した
【浄化】ーチキンチキンを綺麗にした
【水】ー手を洗った
今日の依頼で、設定した魔法をほぼすべて使った。
こうして振り返ると、私の持つ魔法はどれも実用的でラッキーだなあ。
攻撃だけでなく、防御や治療、さらには後片付けにまでできる。
嬉しいことに私はMPの総量が多いから。
そのおかげで魔力切れを起こすこともなく、依頼を問題なく完遂できた。
あ、依頼達成報告するまでがお仕事だった。
帰るまでが遠足っていうからね。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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