第64話 多分、ろくでもないことを企んでる
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私は思わず足を止め、周囲を見回した。
ウィルも神斗も険しい顔で音のする方を凝視している。
その表情から警戒心が伺え、手は自然と武器の柄に触れそうな動きを見せていた。
ザクザクザク、ガタガタ、そしてガチャガチャと草原の静寂を切り裂く音が響き渡り、音の方向を見ると、キリフ領都から草原を横切る冒険者たちの姿が視界に飛び込んできた。
5人の冒険者たち。
「なんだ、冒険者みたい」
「そのようですね」
「あいつ……あのボアの時のやつだ」
神斗が呟く。
ん? ボア?
その言葉に、ジゼニアに着く前日の夜を出来事が鮮明に蘇る。
3メートルのボアや魔物を他人に倒させ、その手柄を横取りして金品を要求する、そんな卑怯な行動を繰り返していた男。
「当たり屋のガビル?」
神斗の言葉にハッとしながら目を凝らすと、確かにガビルだった。
複雑な感情が胸の中で渦巻いたけど、生きていたんだ、うん、よかった。
私たち3人は自然としゃがみ込む。
ウィルと神斗は体格が大きいため完全には隠れられないが、薬草採取をしているだけの人間に見えるだろう。
「腕は包帯でグルグル巻きだし、足は引きずっているから完璧に治ってない」
神斗の言葉にはわずかな同情と冷静な観察が混じっていた。
「HP回復ポーションをケチったのでしょう。あの状態で依頼を受けるなんて、無謀にもほどがあります」
「それにガビルとパーティ組んでいる人達の荷物多すぎじゃない? 台車を使ってるし。肉の依頼とかかな?」
【収納】持ちを持っていないパーティは、肉を納める依頼の時は冒険者ギルドで貸し出されている台車を使う。
ガビルの顔には焦りとも苛立ちとも取れる表情が浮かび、その背後を歩く者たちは時折荷物を見回し、不安げに周囲を窺っている。
「何を運んでいるんだろう?」
私が小声で呟くと、ウィルが冷静に答えた。
「何かトラブルを抱えているのは間違いありません。関わらない方が賢明でしょう」
ウィルが冷静にそう言い、私たちはガビルたちが遠ざかっていくのを見送るつもりだった。
ガビルが怪我の為なのか、はたまた歩き疲れたのか台車に乗り込んだ。
台車が不安定に揺れ、草原の上に何かが落ちた。
彼らは気づいていないようだ。
ガビルが台車を引く仲間の頭を小突き、そのせいなのか台車のスピードがあがる。
私は落ちた道具に目を向けたまま小声で呟く。
「あれ、拾っていかないのかな?」
気になるじゃない?
気づかれないように私はしゃがみながら、そっと近づく。
地面には絡まったロープとやや錆びついたトラバサミが落ちていた。
それらを観察してみると、道具の表面に刻まれた傷や汚れから、長い間使い込まれてきたことがわかる。
罠を仕掛けるための道具であることに間違いはないだろう。
「ギルドの依頼なのかな?」
「その割にはコソコソしていたけど?」
神斗が静かに言った。
その言葉には彼なりの直感と不信感が含まれていた。
「彼らはキリフの冒険者ギルド所属でしょう。後日、報告だけはしておきましょうか」
ウィルの言葉に頷きながら、私は慎重に立ち上がった。
彼らの背中が草原の向こうに消えていくのを、どこか安堵しつつ見送った。
胸の中でわずかな不安が膨らんでいくのを感じたが、ひとまず平穏が戻ったようだった。
「さて、薬草採取は終わりましたね?」
ウィルが周囲を見回しながら尋ねる。
太陽は真上に昇り、まるで私たちに昼食の時間を告げるように燦々と輝いていた。
キリフ領都とジゼニア両方面から、鐘の音が一度響き重なる。
「一息ついて昼食にしましょうか」
「そうだね。ガビルたちのことはもういいや。でも、絶対ろくでもないこと企んでるよね?」
「だよな」
「キリフ領都へ行ってみましょうか? 砂糖菓子が買いに行きたいと言っていたでしょう? その時にギルドで問い合わせしてみましょう」
ウィルの提案に頷きながら、私は緊張から解放されたためか空腹を実感する。
朝から初依頼でドキドキしていたので空腹を感じてしまったのもある。
「お仕事として依頼を受けるのは、やっぱり緊張するよね」
「確かに、依頼は期限付きがほとんどですからね。【探索】のような便利な魔法を持たない人には、さらに大変だと思います。薬草系は常設依頼なので期限はないですが」
「ヴィヴィオラはラッキーだね」
「でしょ? ラッキー全振りだからね!」
草原の真ん中、大岩がある場所で敷布を広げ、鮮やかな緑に囲まれながら座る。
目の前に広がる美しい風景が、心に穏やかな安らぎをもたらした。
「そうだけど、ラッキーって言ってたけど……前に子供ができないって言っていたよね。……ラッキーなのかな?」
「それは、副作用みたいなものなのかもね。詳しくはわからないんだ。ただ、虎さまが『子を成すことができなくなってしまった』としか」
「何か重要なこと言ってなかった?」
「う~ん……言ってたかなぁ?」
はむっと渡されたサンドイッチに齧り付く。
宿で頼んでおいた昼食は、野菜とくずれたお肉がぎっしり詰まった硬いパン。
「私、人族でも魔人族でもないからさ。人形なんじゃないかな?」
「ヴィヴィが人形ですか?」
「この姿だって、配信用アバターだから」
「ヴィヴィオラは人形ではないから、生きているから」
本当に【収納】って便利だ。
飲み物もアツアツのまま、サンドイッチも痛まない。
こんな魔法がある世界なのだから、人形に意識だけ宿っている可能性もあるよね。
今だに鏡を見ると自分の姿にドキッとする。
でも、慣れてきたのかその感覚も薄れてきたけどね。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
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