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第57話 古代の遺物の〖珠〗次第です

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

改行などで見辛くなる時はビューワー設定の調節してください

 柔らかな笑顔を湛えている事務員は、羽根ペンを手に取り、軽やかに紙の上を滑らせながら丁寧に何かを書き始めた。


「3人とも滞在1か月。私以外の2名はギルド証の発行を」

「滞在期間が1か月となりますと、ちょうど移動期間に重なりますが、それでもよろしいですか?」

「えぇ、それで問題ありません。ギルドからの義務についても理解しています」

「では、こちらを」


 目の前に差し出されたごわつく紙をじっくりと眺めながら、少し不安な気持ちがこみ上げてきた。

 ギルド加入用紙には、当たり前だが氏名欄がある。

 名前を登録してしまって本当に安全なのかな?

 

「ねぇ、ウィル……この名前欄、どうすればいいと思う?」


 小声で話しかけるとウィルが私が指さした氏名欄に目を向ける。

 

「名前ですか?」

「そう、いつお尋ね者になるかわからないじゃない? だって、あの強欲そうな人たちが私たちを簡単に忘れてくれるとは思えないし……」


 氏名をここで登録してしまったら、それを手がかりに居場所を突き止められる危険がある――そんな考えが頭をよぎる。


「確かになぁ。ヴィヴィオラはともかく、俺のジョブ的に考えると逃がしてくれなさそう…だよね」


 ぐぬう……、ジョブ〖勇者〗という肩書が眩しいけど、今になってはそれが足枷になっている。

 私はジョブ???だからね。

 あの召喚の瞬間、周囲に漂っていた微妙な空気をふと思い出す。

 でも、振り返ればそのおかげで余計なしがらみを抱えずに済んだのかもしれない。

 今思えば、ラッキーだったのかも。

 

「大丈夫だと思いますよ。登録して構わないと思います」


 ウィルは、先ほどの珠に目を向け、指で示した。

 珠の上に手をそっと乗せ、安堵の表情を浮かべながら立ち去っていく人々の姿が目に入る。


「あの珠は、重大な犯罪歴の記録がないかを判別する役割を果たしているんです。珠が反応しなかったということは、危険人物として認識されていない証拠です。だから、名前を登録しても問題はありませんよ」

「どうやってそんなことがわかるの?」

「そうですね……、古代の遺物(アーティファクト)の一種で、私も詳しい仕組みまでは分かりません。ただ、あの珠が反応しなければジゼニアが情報を外部に提供することは絶対にないので」


 ふーむ……、どんな理屈で動いているのかまるで分からないけれど、なんてオーバーテクノロジー。

 そもそも、この世界の魔法そのものが、日本で生きていた私からしたら不思議なものだし。

 ギルドで依頼を受注や報酬を受け取ったり、検問の際など、そのたびにあの珠に触れる必要があるらしい。

 うん、考えてもわからないや。


「検問ってさ、王都にいるときには、一度もあの珠に触ったことないけど?」

「俺もないな」

「それはーー、なんででしょうね?」


 ウィルみたいに知識豊富な人でも分からないことがあるんだ。

 城勤めの騎士だからとかの理由ではないとなると……門番のサボリだね。


「じゃあ、私は……ヴィヴィオラで」


 元の名前である〖桜〗愛着があったけれど、この世界でその名前で生きることが、どこかしっくりこない気がして。

 この名前〖桜〗は、私だけが心の中でそっと守っていれば、それで十分だと思った。


「俺も……カミトって書けばいいのかな?」

「うん、それで良いんじゃない?」

「そういえばさ、ウィルヘルムさん。〖義務〗って具体的に何です?」

「それはジゼニア独自の制度です。義務とは、キャラバンの移動時に、冒険者が護衛の役割を担う制度のことです」


 私は、ウィルが以前話していた『旅の途中で彼らを助けたり、情報を交換したりすることが求められる』という話が、この義務に関係していることを思い出した。

 あれが義務のことだったらしい。

 ジゼニアには〖護衛兵〗と呼ばれる兵士たちがいて、彼らがキャラバンの安全を守る重要な役割を担っている。


「護衛兵……っていうくらいだから、ただの兵士とは違うの?」

「同じですよ。〖護衛〗という役割名が付けられたのは、ジゼニアが多くの国と友好関係を築いている一方で、軍隊を引き連れて滞在することが外交的に望ましくないのでその名前になってます」


 名前を〖護衛兵〗と変えたところで、結局のところ軍隊であることに変わりはないらしいけど……。

 その護衛兵を補佐する形で行動するのが、冒険者に課される〖義務〗と呼ばれるものらしい。

 記入を終えた紙を、穏やかな笑顔を湛えた事務員に静かに差し出した。

 種族欄は魔人族にした。


「商人ギルドと冒険者ギルドどちらになさいますか? もちろん、両方同時に登録することも可能ですよ。なお、1年ギルドを利用されない場合、登録は自動的に抹消されます。その際は、再登録時に追加の費用が発生します」


 1ギルド当たりの登録代、2,000ギリア。

 平民1人一か月の食費が1,000ギリア程度だと考えると、この金額は決して安くはない。


「私は両方で! 売りたいものがあるんだぁ」

「俺も両方にしようかな」

「えっ、神斗も両方に登録するの?」

「まぁね。俺はどちらかというと、欲しいものを買うほうがメインだから。商人ギルドって、欲しいものを依頼して手に入れることもできるんでしょ?」

「ええ、もちろんです。ジゼニアの商人ギルドでは、さまざまな依頼を引き受けています」


 務員は誇らしげな笑みを浮かべながら、「依頼達成率は驚異の91パーセントです」と自信たっぷりに答えた。


「「おおーー!!」」


 私と神斗は同時に声を上げ、思わず拍手をした。


「他の地域の商人ギルドの依頼達成率は約69パーセントぐらいです。やはり我々は商人ですから!」

「本当に、どんなものでも手に入るんですか?」

「もちろんです! ジゼニアの商人ギルドにお任せください!」


 神斗はさらに前のめりになり、目を輝かせながら事務員に質問を続けた。

 そんなに欲しいものがあるんだ……。

 男性が欲しがるものってーーなんだ?

 車? 車に相当するものなら、やっぱり馬とかになるのかな?

 腕時計? この世界では懐中時計がそれに当たるのかもしれない。

 ゲーム機? ゲーム機はさすがにこの世界にはないだろうし、×だよね。

 スマートフォン? もちろん存在しないから、これも×だ。

 他に考えられるものといえば……まさか、人? 奴隷!? ーー女!?

 そういえば、異世界小説の主人公って、よくハーレムを作り出す展開になるよね……!

 あわわわ……。

 あわわ……、まぁ、結局のところ、それは本人の自由だし、私がとやかく言うことじゃないよね……うん。


「では、一人当たり滞在証代は、滞在期間1カ月3,000ギリアです。2つのギルド加入代4,000ギリアとなります。ギルド初加入の方はあちらで説明をうけてくださいね」

「「はーい」」


 私は腰に下げたバッグから、慎重にお金を取り出した。

 ウィルは、私たちが自分でお金を出すことに少し不満そうな顔をしていたけれど、私は迷わず自分で支払うことに決めた。

 まあ、正直なところ、このお金も本当の意味で自分のものではないんだけど……。

 木製の四角い木札が手渡された。

 その表面には自分の名前と滞在期限が型押しされ、裏側には、ジゼニアのシンボルがはっきりと焼きごてされており、その焦げた香りがまだ微かに残っていた。


【★お願い★】

こんにちは、作者のヴィオレッタです。

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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