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第55話 -神斗side- 秘密の計画

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

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 ガルルゥゥ!! グァァ!!


 獰猛な吠え声が響き渡る。

 剣を構えた俺は、鋭い眼差しで残りの2匹のホーンウルフを見据えた。

 

 ザシュッ!!

 ギャンッ!


 剣が閃光のように走り、ホーンウルフを一撃で倒す。

 

「14匹目!」


 ウォォォーーーンン!!


 吠え声が響き渡る中、俺の手は迷いなく動く。

 次の一撃を狙い澄まし、冷静に剣を構える。


「お前で最後だッ!!」


 ザンッ!!

 ギャイィンッ!!


 ドサッと重い音を立てて、その巨大な体が地面に崩れ落ちた。

 最後のひときわ大きい個体を倒すとようやく静けさが戻ってきた。

 俺は周囲を見回す。

 もう、逃げたか……。

 ホーンウルフのおこぼれを狙う魔物が何匹かいたが、逃げたらしい。

 俺は腰のバッグから【アクア】の魔石を取り出し、剣についた血を丁寧に洗い流す。


「本当に、魔石って便利だな……」


 剣を振って水気を飛ばし、持っていた布で丁寧に拭き取る。

 そして、散らばっているホーンウルフの死骸を一纏めにした。

 

「起こしたかな?」


 振り向いてヴィヴィオラを見た。

 ヴィヴィオラは、何があったか知らずに無防備に寝ている。

 緩みっぱなしのその表情とは違い、長いくすみピンクの髪が敷物に広がり、彼女の疲労感を物語っていた。


「歩き続けて6日だもんな」


 俺は肩をほぐしながらつぶやいた。

 足の裏は石のように固まり、疲労が全身に染み渡っている。

 俺だってさ、野宿や6日も歩き続けるなんて初めてだよ。

 血生臭さが薄れてきた中で、ヴィヴィオラは横向きに丸まって寝ており、その姿はまるで猫のようだ。


「猫の嗅覚とか聴覚とかないんだ……やっぱり魔人族じゃないのかな?」


 小さな息遣いが微かに聞こえ、その静かな呼吸に耳を澄ます。

 女性ならではの苦労も多いのに、文句も言わずに歩いてくれてる。

 特に風呂やトイレなど。

 ヴィヴィオラだけが逃走するなら、こんな悪路を通らず街道を歩き、乗合馬車で楽に遠くへ行けたはずなのに。

 ウィルヘルムさんは何も言わないが、あの国が〖勇者〗を手放すとは思えないから、コソコソと森の中を歩いているんだろうな。


「ブラックドードー……ゲーミングドードーは甘い……んだよぉ……」


「ゲーミング……、どんな夢見てるんだ。寝言を言うぐらい安心してるのかな。俺、信頼されてるって思ってもいいのかな?」


 ヴィヴィオラがすやすやと深い眠りについているのを見て、ちょっと悪戯を思いついてしまった。

 先ほど倒したばかりのホーンウルフたちを、彼女の周りにそっと並べておくことにした。

 起きたらビックリするだろうね。

 ヴィヴィオラの驚いた反応を見るのが待ち遠しくて仕方がない。

 彼女の驚く顔を想像するだけで、自然と笑みがこぼれた。

 俺はヴィヴィオラのそばに寄り添うようにして、静かに腰を下ろした。

 先ほどまでの穏やかな表情とは打って変わって、彼女は眉間に皺を寄せている。

 俺は優しくヴィヴィオラの眉間の皺を指で伸ばし、その後、そっと唇に触れた。

 彼女の表情を和らげるために。

 いや、唇嚙んでたから!

 深い意味は、ない……。

 でも、この世界はスキンシップが多めというか、当たり前のようだ。

 以前、王都見学の際にジェイクさんが『遠慮していると男として負けますよ』と言っていたっけ。

 この6日間でも、ウィルヘルムさんが甲斐甲斐しくお世話をしてるのを見て、彼の細やかな気遣いに感心せざるを得なかった。

 ヴィヴィオラは大人な男性が好きなんだろうな。

 何かにせよ、俺を子供扱いするから。


「……」


 もうすぐ、目的地のキャラバン・ジゼニアに到着する。

 ジゼニアは、旅商人と聞いた。

 彼らが運ぶ珍しい品々や情報が溢れているに違いない。

 ジゼニアに到着したら、具体的にどこに行けばいいのかまだ分からないが、どうしても手に入れたいものがある。

 城にいる時からずっと考えていたこと。

 どれだけ考えても、この方法が最も確実だと思った。

 

「美香のことをとやかく言えないな。俺、自分でも驚くくらい腹黒い部分があったんだ」


 俺は自分の心の中にあった闇を見つけて、苦笑を漏らした。

 そうか、元から表面に出さないだけで、実際には心の中がこんなにドロドロしていたのか。

 母さんのために無意識に自分の欲望や感情を抑え込んでいたのかもしれない。

 抑圧から解放されたと思ったら、こんなにも心の中に複雑な感情が渦巻いていたなんて、本当に驚きだよ。

 ヴィヴィオラの柔らかな髪に手を滑らせ、そっと撫でた。


「なんで、俺は勇者になったんだろう」


 勇者といえば清廉潔白のイメージがある。

 けれど今の俺は、その理想とはほど遠い存在。

 手に入れたいものは、誰にもバレずに。

 誰にも悟らせずに、実行しないといけない。

 ジゼニアには多種多様な商人が集まると聞いているから、求めるものが必ず手に入るはずだ。

 俺のやりたいこと、手に入れたいことを叶えてくれるはず。


 その依頼料はいくらかかるのか、頭を悩ませている。

 ここで答えが出るわけではないのに。


 確か、平民一人1か月の生活費は2,500ギリアぐらい。

 少し贅沢に生活するには5,000ギリアぐらいあればいいのかな?

 1年かかるとして、それは5,000ギリア×12か月の生活保障と10万ギリアの報酬で引き受けてくれるのか?

 いや、そんなに安くはないはずだよな。


 もう一つは、仕方がないとはいえ、6日の間の全ての費用をウィルヘルムさんに出してもらっているようなもんだ。

 なんとなく、ウィルヘルムさんに借りを作っているようで、気が進まない。

 以前倒したホーンラビットやリザードなどの素材は、全てウィルヘルムさんに預けてある。

 今襲ってきたホーンウルフも合わせて、倒した魔物を換金して借りを返せたらいいと思っている。


「あの【収納(アイテムボックス)】ってチートじゃね? 俺も欲しかった」


 幸いにも、ヴィヴィオラが無属性魔法持ちだったから【収納(アイテムボックス)】を使える。

 俺の私物は彼女に預かってもらおう。


 手元に金貨30枚、30万ギリアはある。

 ジゼニア滞在の間に、さらに多くのお金を稼いで手に入れなくては。

 

「うぅん」


 ヴィヴィオラが寝返りを打ちながら、無意識にうめいた。

 そっち向いちゃったかぁ。

 彼女が顔を向けた先に、俺の悪戯の証拠が並んでいる。

 起きたら顔面にホーンウルフが目に入ってしまう。

 やっぱり、止めておこう。

 怒られるだけで済まないかもしれない。

 

 ふと、先ほどヴィヴィオラが書いた〖虎さま〗の絵が目に入った。


「ンフ。……絵が壊滅的に下手なんだな。……虎かぁ」


 虎の耳は少し丸かった気がする。

 ヴィヴィオラよりもウィルヘルムさんの耳と同じだ。


「……」


 ヴィヴィオラは、ウィルヘルムさんがロング副団長と呼ばれていた時から、魔人族の彼の与える執着なのか恋情なのかを感じないようにしている。

 彼女は鈍感を装って、わざと線引きをしている、それは俺にも。

 この世界で生きていくと、俺よりも早くに意識を持ち始めたのに世界に交わるのを怖がっているんだよね。

 おそらく、彼女が言う虎さま、旧神のせいだと思う。

 旧神は一体彼女をどうしたいのだろうか。

 見た目は魔人族だが、ステータス上では〖[種族]???〗らしいし。

 この世界で認識されていない種族として、彼女は一人で生きていくのだろうか。

 酷なことを強いるんだな、虎さまは。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 突然の叫び声が、静寂を一瞬で切り裂いた。

 片付けが間に合わなかったというより、完全に忘れていた……。

 ごめん。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 1箇所に山積みにしたホーンウルフを見ても、彼女は叫んでいる。

 そっち見ても叫ぶんだ。

 そのホーンウルフの山は、しょうがないよね。

 集団で襲ってきたのだから。


 このあと、ホーンウルフを悪趣味に並べたのをごまかすように、「無防備に眠るのは危ない」と説教を垂れてしまった。

 本当にごめん。

【★お願い★】

こんにちは、作者のヴィオレッタです。

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

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最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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