第54話 砂糖の実おじさまと当たり屋ガビル
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なだらかな下り坂の先に見えるキリフ伯爵領・領都。
眼前に広がる壮大な風景には、重厚な城壁が存在感を示している。
「ヴィヴィ、あの城壁の右横に滞留しているのが目指しているキャラバン・ジゼニアです」
「あれがジゼニアなんだ。結構大きい! それにしても近くて遠い!」
見えているのに、その場所に立つにはまだ2時間ほどの距離がある。
「う~ん、今日は無理だよね……。少し前に18時の鐘が微かに聞こえたもん」
結局、閉門の時間に間に合わないと野宿になったんだけど、近くに野営場があったので、そこに身を寄せることになった。
「ヴィヴィオラが、寝ちゃうから」
「ごめん。お腹がいっぱいになったら眠くなっちゃって」
昼食の美味しいスープを堪能したあと、ぽかぽか陽気と相まってついちょっとだけと横になってしまった。
しかし、ぽかぽかで気持ちよく寝ていたはずが、最悪な目覚めだった。
私の寝てるそばに、ホーンウルフが4匹寝ていた。
というか、死体が並んでいた。
口から血を流した白目をむいたホーンウルフの死体が、私のそばで添い寝していたのだから。
ビックリして飛び跳ねてるように上半身を起こすと、今度は目の前にホーンウルフの山ができていた。
一通り叫んだそのあとは、コンコンと神斗にお説教された。
その説教も長かったよね。
ウィルは、魔物を解体したゴミを捨てに森へ行っていたらしいから、神斗1人で倒してくれたのだから怒るのも仕方がないよね……。
「俺では対処できない場合があるから、気を付けてよ」
「神斗が強くなったら大丈夫ってこと?」
「あ、うん、まぁ」
「チョロ……。ギャン! 嘘うそウソ! ちゃんとしっかりします!」
尻尾をギューって持つんだもん。
「キリフの野営場がこちら側にあってよかったですね。寝ず番もそんなに気を張らなくていいですから」
野営場は、王都の南にあるものとさほど変わらないが、やはり圧倒的に人が少なかった。
半分ほどの人数がいるかどうかといったところ
「南の野営場と違って少ないね。15パーティぐらい?」
周りを見渡しながら言った。
「お嬢ちゃん、どこから来たんだい? ここらへんじゃ、15パーティは多い方だぜ。なんてったって、今はジゼニアが来てるからな。いつもは5パーティいればいいってもんだ」
隣のパーティの人が「ほらよ」と小粒の透明な石のようなものを差し出してくれた。
彼の手にはキラキラと焚火の炎を反映してる小粒の石が5粒。
「ヴィヴィオラ、ダメだよ」
「心配するな。キリフ領の特産で、これは砂糖だ。ここらの冒険者はみな疲れたときに食べるんだ」
隣の冒険者は笑顔で説明してくれた。
グッ……。
神斗の年齢って私より下よね?
それにちょいちょいこの世界の人、お嬢ちゃんって私の事呼ぶけど、そんなに幼いのかな?
精神年齢は25歳なんだけど……。
あれよね、おばちゃんに〖おねえさん〗って呼ぶやつよね。
子供にお菓子をくれるような……嬉しいけども。
ウィルも頷いているので、食べてもいいのかな?
そっと口に入れると、ふわっと解けてなくなった。
「すごーい! 一瞬で消えた! それに上品な甘さ!」
「美味いだろう! そうだろう! キリフは砂糖の実がなる洞窟がたくさんあるからな」
「砂糖の実……、砂糖は実になるんだ?」
「知らなかったのか? 俺たちは魔物がその実を独占してるから、退治と護衛の帰りだ」
隣のパーティがいる場所には、緑色の液が染み出ている麻袋がある。
それに退治した何かが入っているのだろう。
「陽をあびた砂糖の実は綺麗だぞ。時間があれば、依頼を受けるといい。まぁ、直接行ってもいいがな」
「へぇ~、見たい!」
「ジゼニアに滞在する間に行きましょうか」
「是非とも! あと、たくさん買う!」
「見に行くなら、自分で取ればいいさ」
隣の冒険者は、「瓶を持っていくといい」と教えてくれた。
砂糖の実って気になるよね。
スマホとか、カメラとか持ってこれないのは本当に残念。
リスナーのみんなにも写真とか動画とか見せたいのに。
昼に笑われたけど、やはり絵でも描くか!
「砂糖の実を見に行く?」
「う~ん、砂糖の実も見たいんだけど、先にめっちゃしたことがあって……、かなり切実にお風呂に入りたい……」
「確かになぁ、冷たい川とかタオルで拭くだけだったからなぁ」
「ジゼニアに風呂屋がありますね」
「じゃあ、やっぱりジゼニアに直行!」
ジゼニアでしたいこと
1、魔法の設定?
2、魔法を使いたい!
3、冒険者ギルドに加入して依頼を受ける
4、商人ギルドに加入して胡椒を売る
5、神斗の服、ペンとインクの購入
6、お風呂に入りたい!
7、観光! 砂糖の実
こんなものかな?
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「どけぇぇぇぇ!!!」
にぎやかな夕食の準備をしていた時、突然それは始まった。
誰かが全力で叫んでいる声が、森の中に響いてきた。
「何!?」
「何かに追われているようです」
「すごい、どうしてそんなことがわかるの?」
「【探索】の魔法を使いました。こちらに向かってきているようです」
「こっちに来るの!? 野営場に?」
「助けてじゃなくて『どけぇ』だから、避ければいいんじゃない?」
「おい! やっかいな奴がこっちに向かってきている! 巻き込まれるなよ!」
隣の砂糖の実をくれたおじさま冒険者が、慌てた様子で教えてくれる。
「しかし、20体ほどの何かに追っかけられてます」
「……」
砂糖の実のおじさま冒険者は、驚いた表情をした。
「え? そんなに? あ、うん、まぁ……。とにかく、一旦、みんな木の上に避難しろ!」
砂糖の実のおじさま冒険者の指示に従い、私たちは木の上に登ることにした。
周囲の他の冒険者たちも、それぞれ隠れたり、木に登ったりして、何とか身を守ろうとしている。
「何が始まるんだろう?」
叫び声を上げながら現れた冒険者が、大きな焚火の周りを巨大なボアに追いかけられながら、他の冒険者の私物を蹴り飛ばしつつ必死で走り回っている。
ボアの足音が地面を震わせ、まるで地響きのようだ。
「あいつ、ボアの巣をつついたのか!」
ボアは、3メートルほどの巨大な体躯を持ち、鋭い牙が恐ろしい光を放っている。
「おい! お前ら降りてこいぃぃぃ!」
「冒険者は助け合うもんだろうがぁぁぁ!」
走り回りながら、隠れている冒険者たちに向かって悪態をつき続けている。
「誰も助けようとしないね」
周りの冒険者たちの冷淡な態度に驚いた。
「いつものことだからな。あいつは当たり屋のガビルだ」
「当たり屋のガビル?」
「奴にうっかり手助けなんかしようものなら、すぐに『獲物を横取りするつもりだったんだろう?』って金品を要求してくるんだ。しかも倒した獲物をギルドまで運ぶ手伝いもさせられる」
この世界でも〖当たり屋〗がいるんですね!
「知らねーのは、ここらを拠点としていないお前らぐらいだからな。誰も助けやしねーよ」
ドン!
鈍い音が響き、ガビルの体が宙を舞った。
「おお!? 流石にあれじゃ死んじゃうんじゃないの?」
ドサッと鈍い音を立てて地面に落ちたガビルは、ボアの鋭い牙で突き刺され、動かなくなってしまった。
「「死んだああぁぁ!!!」」
私と神斗が一斉に叫んだ。
パッと見たところ、角は生えていないので、おそらく動物だろう。
しかし、その大きさは3メートル以上もある。
日本にいた猪の牙は肉を切り裂くほど鋭利で、一刺しで致命傷を与えることもあるという。
このボアも体躯に比例して立派な牙を持っている。
「まぁ、因果応報だとはいえ、放っておくわけにもいかないな。仕方がない、ボア退治するか……」
大きなため息を吐きながら、砂糖のおじさま冒険者は木から降り、しっかりと盾を構えた。
「私たちも助けに入りましょう」
「オッケー! ヴィヴィオラはそこから降りないでね!」
神斗の声かけに、うんうんと頷く。
「でも、やっぱり弓と矢は欲しいな……」
ウィルはにっこりと笑いながら無言で否定してきた。
「私だって、人がいる方には絶対射らないよぉ……」
仕方がないので、木の幹にしっかりと抱きつきながら見守ることにした。
だって、あのボアに突進されただけで私のHPでは瀕死になりそうだよ。
弓も矢も持っていない今の状況では、大人しく眺めておくのが一番いいと思う。
短剣の距離になったら、ガビルのように宙を舞う、よね?
「神斗の剣が光ってる! あれって魔法なのかな? いいなぁ……戦えて……」
冷静かつ確実にボアを次々と倒していくウィルと神斗。
砂糖のおじさま冒険者のパーティも、数体のボアを見事に撃退していた。
周囲の他の冒険者たちも力を合わせてボアを倒し、ようやくこの騒動が静まり返った。
ガビルだっけ?
その人は、隠れていた仲間たちによってそそくさと連れ去られてしまった。
「仲間いるんだ……。助けに入れないほど弱いパーティなのかな?」
ボア退治が終えたウィルと神斗が、私のいる木の下にやってきた。
「ヴィヴィ、降りましょう」
「ヴィヴィオラ、受け止めるよ」
二人は同時に手を上げて、私を受け止める格好をする。
恥ずかしい……。
さ、流石に自分で降りれるもん。
「やっぱり、高い! 無理!」
野営場が凄惨な殺ボア現場と化していたが、そこは冒険者たちだった。
それぞれ倒したボアは迷惑料として冒険者たちに分けられ、持ち帰れないパーティのボアを冒険者たちは手際よく解体し、大きな焚火で丸焼きにして皆で美味しく食べることになった。
「このボア、硬いけど、なんだか癖になる味だ!」
神斗が言うと、周囲からも「初めて食べるのかい?」と笑い声が上がった。
野営場は、いつしか戦場のような緊張感から、温かい団結の場へと変わっていった。
冒険者はこんな感じがいいよね。
ガビルには、もう会いませんように。
【★お願い★】
こんにちは、作者のヴィオレッタです。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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