第48話 目的地はどこですか?
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王都からまだ近い場所にいるため、私たちは軽い昼食休憩を取ることになった。
私の感覚ではかなり離れたと思っていたのに、ウィルが笑いながら「まだ馬で1時間もかからない距離ですよ」と言った時、実はまだそれほど離れていなかったことに気付かされた。
追手がいたら、すぐに追いつかれる距離だと思うと、心がピリッと引き締まる。
レンギア王国の大陸統一を目指す戦争に巻き込まれるという最悪のシナリオだけは、絶対に勘弁だからね。
「ねぇ、ウィル。国を出るのは理解してるけど、具体的にはどこに向かってるの? 目的地は決まってる?」
そう、私は一番肝心なことをまだウィルに確認していなかったことに気付いた。
どの国に向かうのか、きちんと相談しておくべきだったよねと、自分に呆れつつも反省した。
ウィルは焚火に水を注ぎ、火を完全に消すために手際よく土をかけ、後片付けをしていた。
凄い手慣れてる。
見ているだけで感心してしまうよ。
「ああ、そうでした。今は王都から南下しています。このまま歩いて国境を越えるにはおそらく2か月ほどかかりますので、まずはキャラバン・ジゼニアを目指すことにしました」
「あー、あのジゼニアね!」
武器屋のおやじさんが話していた移動国家だ。
「この先、キリス伯爵領でキャラバン・ジゼニアが滞留しているはずなので、彼らに紛れて国境を越える予定です。どの国に向かうかはジゼニアの動向次第ですね」
私は腰のバッグから地図を取り出し、広げて確認する。
ウィルは地図の上にあるキリス伯爵領の位置を指差し、「キャラバン・ジゼニアはこの辺りに滞留しているはずです」と言いながら、指で地図上に大きな円を描く。
「おそらく6日ほどでジゼニアに到着するでしょう」
「6日も歩くんだね、結構な距離だなあ」
荷物をほとんど持っていないので楽といえば楽なんだけど、最初から6日間も野営し続けるのは未経験だから、不安が募るばかりだ。
これからの6日間の旅がどのようなものになるのか、全く想像がつかない。
神斗君は地図をじっと見つめ、指で位置をなぞりながら数えている。
「26ですね。国の数は」
「確かに領土を持っているという定義でいえば26か国です。しかし、移動国家であるキャラバン・ジゼニアも国として扱われるので、世界には計27か国が存在します」
27カ国しかないなんて、この星ケルンジリアが小さいのか、それとも一つ一つの国が大きいのか。
「国の中に他国が入るのを許せるんだ?」
「言われてみればそうよね」
「ジゼニアは移動国家で、世界中を旅している商人たちの大きな集まりなんです」
武器屋のおやじさんが、ジゼニアが1年ごとに国を渡り歩くと言っていたのを思い出した。
「ジゼニアの護衛兵は非常に強く、滞留先の問題を迅速に片付ける能力があります。ですから、特に領主からの滞留要請が絶えないんです。ジゼニアを滞留させるだけで、お金を使わずに問題が解決されるので、どの国でも歓迎されることが多いんです。だから、検問も比較的スムーズに通過できるんですよ」
ウィルの説明を聞きながら、私は昼食の後片付けを始めた。
使い終わった食器を魔石から出してもらった水で軽く洗い、布で丁寧に拭いていく。
「検問があるんだ」
「楽な道には砦があり、そこで検問を受けます。山中の森を越えるルートなら検問はないですが」
ウィルは考え込むように言葉を探しながら、「ヴィヴィは気が休まらないと思います」とのことらしい。
様々な魔物がたくさん生息しているらしい。
うん、無理。
「今回はジゼニアが近くに滞留しているので、彼らに紛れてもらうと」
「ラッキーだね」
「そうですね。でも、そのためには私たちも彼らに協力する必要があります。旅の途中で彼らを助けたり、情報を交換したりすることが求められるでしょう」
「なるほどね。私たちはただの旅人じゃなくて、彼らの一員として行動するんだね」
ウィルは優しく微笑みながら「本当に素晴らしい場所ですから、楽しみにしていてください」と言った。
「私とヴィヴィだけならアルネッタ王国に行く予定でしたが、神斗さんにはその場所が過ごしづらいでしょうから」
アルネッタ王国には魔人族しかいないらしい。
迫害を目的として魔人族だけが住んでいるわけではなく、むしろトラブルを避けるために鎖国のような体制を取っているらしい。
とりあえずは魔人族と人族が共存する国を目指すということだ。
キャラバン・ジゼニアの次の滞留地がそのような国であることを願って。
「神斗さん、これからの旅の予定はどうするつもりですか?」
「え? これからの旅の予定……?」
神斗君は少し戸惑った表情で私を見つめた。
「ええ、私とヴィヴィはこのまま旅を続けます」
「神斗君も一緒に来てくれるよね!? 私と一緒に旅を続けてくれるよね?」
確かに私が国を出ると打ち明けた時、神斗君は一緒に行こうと言ってくれたが、旅を続けることについてはまだ話していなかったかもしれない。
「俺もヴィヴィオラと、一番最初に、一緒に行くと約束したから、もちろん一緒に旅を続けますよ」
「そうなんですね。神斗さんが生きやすい国を目指していましたが、それは必要ないと」
「はい、そうですね!」
ウィルと神斗君はお互いに向き合って、満面の笑みを浮かべている。
ハハハ……、本当に仲がいいね……。
兄弟って感じだ。
兄弟ってこんな感じだよね?
「でも、ずっと一緒にいてくれるのは心強いけど、いつか神斗君にも別の道が見つかるかもしれないから。その時は無理せずに教えてね」
「そうだね。その時はその時で考えるよ。……思うけど」
思うけど?
長い枝を足で折る音にかき消されて、神斗君の最後の言葉が聞き取れなかった。
バキッ、バキッと折れる枝の音が、少し不安な気持ちを呼び起こした。
少し寂しいけれど、いつか別れる時が来るのかな……。
「神斗君は、神斗君の幸せが一番大事だから、私は応援するし出来るだけ添うようにするからね」
ちょっと、当たり障りのないことを言っちゃった……。
心の中ではもっと深いことを伝えたかったけど、言葉にするのが難しかった。
私、応援できるかな……。
いや、元々1人で逃げるつもりだったんだからできるはず!
「ところでヴィヴィオラさん、どうしてロング副団長に〖ヴィヴィ〗って呼ばれてるの? それに〖ウィル〗さん、って何?」
「あ。え? あぁ」
神斗君は両腕いっぱいに枝を抱えながら、疑問の表情で尋ねてきた。
夜の焚火用の枝を集めるようウィルに頼まれていた。
そうか、神斗君にとってはロング副団長だから、そうなるよね。
「私がお願いしたんです。このように呼びあいたいって」
ここはサラッと、呼びづらいので、とかでお願いしたい。
改めて言われると恥ずかしいじゃん。
「ん……まぁ、そんな感じかな?」
「へぇ? じゃあ、俺は呼び捨てで呼んでいい?」
「うん、いいよ」
好きに呼んでくれていいよ!
高校入学の時に初めてできた友達とは、こんなやり取りしていたよね。
最近では、勝手に下の名前で呼ぶのは上司ぐらいだったかも。
その上司は、人事から怒られてたっけ。
「じゃあ、俺の事も呼び捨てで呼んで」
「えぇ……。君付けじゃあダメ?」
「ダメ! ほら、神斗って」
「か、かみと……」
「ほら、ちゃんと神斗って」
「ああ! もうわかった、神斗!」
初めてあだ名で呼ぶときもそうだけど、この恥ずかしさはなんとも言えない。
「で、ロング副団長は、ロングさんでいいですか?」
「ウィルヘルムで構いません」
この日から神斗は私をヴィヴィオラ、そしてウィルをウィルヘルムさんと呼ぶようになった。
拾い集めた枝を、ウィルの疑惑のアイテムバッグに入れてもらう。
準備が整ったので、私たちは次の目的地に向かって再び歩き始めた。
相変わらず林の中を進みながら、時折鳥のさえずりや風の音が聞こえる。
やっぱりのどかだ。
【★大切なお願い★】
こんにちは、配信者のヴィオレッタです。
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