第36話 愛称は親愛の形!
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国を出るにあたって、必要な物資を手に入れるため市場へ買い出しに行くことになった。
袖が手元まで隠れるほど大きなブカブカとしたシャツを着ていたんだけど……これってもしかしてロング副団長のシャツ!?
城で着ていた服に着替えようとした時にこれがパジャマじゃないと気づいた。
誰が着替えさせてくれたのか……。
「も、もしかしてなんですけど……着替えさせてくれたのはロング副団長ですか? 違いますよね? ですよね? そうですよね、宿屋のおかみさんですよね!」
ロング副団長は「いいえ、私ですよ」とニッコリと微笑む。
続けて「大丈夫です。誰にも見せてませんから」言いきった。
うわぁーん!! 恥ずかしい!! 誰にもの〖誰〗に、なぜ自分を入れなかったの?
「次、何かあったら、絶対に! 女性を! 頼んでください!」
「えぇ? 私は隅々まで知ってるのに……」
多分、私の顔は真っ赤になってるよね。
更に恥ずかしいこと返してくるよー。 何? 隅々って!!
私は顔を両手で覆いながら叫んだ。
「な! なんてことを言うんですか! ロング副団長のーー」
突然、真剣な表情でロング副団長が言葉を遮った。
「お願いがあるのですが、ウィルと呼んでは頂けませんか?」
ウィル?
ウィルってなんの言葉だろうか? 名前みたいとロング副団長の顔をじっと見つめた。
「私の名前なんです。もう副団長ではないので、ウィルヘルム。ウィルって呼んで欲しいです」
ロング副団長の言葉には懇願するような響きがあり、その願いがどれほど切実なものかを感じた。
でも、突然の名前の呼び捨ては厳しくないかい!?
「えぇっと……ウィ……ル……」
小さな声で呟いたのに満足したみたいだ。
「ロングさん、って呼んでーー」
「いやです」
食い気味にかぶせてくる。
あの城にいたとき、常に〖ロング副団長〗としか呼ばれていなかったので、名前で呼ばれることは心底嬉しかったに違いない。
「ウィルさんでも良い? この呼び方に深い意味はないよね?」
「〖さん〗は付けてほしくありません。深い意味……愛称以外には特に。愛するものから呼ばれるのは嬉しいものです」
ロング副団長は穏やかな表情で答える。
わぁぁぁぁ! 愛するものって何!? 心の中で叫びながら、驚きと戸惑いが一気に押し寄せてくる。
それに、これはあだ名とかではなく、愛称って言うんだ。
愛称って親愛って意味よね!
あっぶなーい! 勘違いするところだった!
「わかりました! それでは、ウィル。後ろを向いててください、着替えますので」
ウィルは尻尾を嬉しそうに振りながら、すぐに背を向けてくれた。
「私は、ヴィヴィオラの事をヴィヴィと呼んでも良いですか?」
「ええと、別に好きに呼んでもらって大丈夫ですけど、ヴィヴィオラでもいいのでは……?」
「私も愛称で呼びたい……駄目ですか? いいですよね?」
ぐっ……。
ウィルは背中を丸めてデッカイ黒猫みたいになってる。
かわいい! 尻尾が垂れ下がっている!
それは反則だわ。
「ヴィヴィって呼んでください!」
「ヴィヴィ……いいですね」
なかば強引に押し切られ、ヴィヴィ呼びとなった。
ヴィヴィかぁ、リスナーのみんなもヴィヴィって呼んでいるから特別って事はないけどウィルが納得しているなら良いか。
最後にブーツを履き、着替え完了。
耳を隠すためにフードを深くかぶり、念には念を入れて宿を後にした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
道行く人々の顔は特に変わった様子はなく、まるで何事もなかったかのように日常を過ごしている。
「買い物だぁ、っていうか。私昨日あんな事があったのに……メンタルが鋼なの? ウ、ウィル、どうしよう人間の心がなくなってきてるのかな?」
信じられないことだが、王様が殺されたのは昨日の出来事だった。
事件が起きた当初の衝撃は少し和らいだものの、思い出すと胸が痛んでいたのに……、買い物にワクワクしている自分に戸惑いを感じた。
「……ヴィヴィ、大丈夫ですよ。この世界になじんできたと言うことです」
そうなんだ……、良いことなのか。
周囲では子供たちが元気に駆け回り、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「この世界で生きるしかないもんね」
ウィルを見上げた。
その表情には安心感があり、その大きな背中が頼もしい。
「ねぇ、私思うんだけどウィルの方が目立たない?」
「私なんて、どこにでもいる魔人族ですよ」
「いや、身長高いし、マントで隠しきれないじゃない。イケメンはフードで隠れてるけど」
私はマントのフードをかぶると人族にみえるけど、ウィルは無理なんじゃないかコレ。
ウィルの高い身長と堂々とした姿は、一目見ただけで強い印象を与えてしまう。
その上、フードから見える金色の瞳がまるで心を見透かすように鋭く突き刺す。
「私の顔はヴィヴィの好みに当てはまりますか?」
「ま、まぁ? その顔が嫌いな女性はいないんじゃない? ねぇ?」
誰に向けて『ねぇ?』といったの私。
健康的な褐色の肌に魅惑的な金色な瞳を持ち、私に優しくしてくれる。
好みといえば好みだよね。
そんな人にグイグイこられるとね? 勘違いが捗っちゃう。
でもさ、この世界だと、魔人族だと普通なのかな……。
ランドルーさんが魔人族は執着が凄いとか言っていたし。
「め、目立つと言ったのは、主に身長かなぁ? ウィルの身長はどれくらいなの?」
「216センチですね。ヴィヴィを隠すには丁度よい身長ですね」
ウィルはマントを広げる。
その動作はまるで大きな翼を広げるようで、ますます存在感を強調していた。
「そ、そうだね……」
あれかな、親が子を守るみたいなのかも知れない。
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