第34話 神斗君はどこへ!?
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《レンギア王国13日目ーケルンジリア13日目ー》
目が覚めた。
悪夢を見なかったことに、ほっとした気持ちが胸に広がった。
ベッドから立ち上がり、板窓から外を見やると、日の光が差し込んできた。
太陽が天高く昇っているのを見て、今は正午近くってところかな。
少し動くと「うぅ、ッーー」と無意識に声が漏れる。
さらにあの出来事を思い返すと、何かが胃の中から食道へとせり上がってくるような気持ち悪さが襲う。
王族のことなんてどうでもいいと思っていたけど、やはり人の死に直面するのは恐怖を感じずにはいられない。
それでも昨日と比べれば、少しは気持ちが楽になっている。
ガチャっと音を立てて、ドアが開いた。
「すいません、まだ寝てると思っていたので……」
フードを深く被ったロング副団長が、手に紙袋のようなものを抱えて部屋に入ってきた。
どうやら、何か食べるものを買いに行ってくれていたようだ。
まだ、水しか受け付けられそうにないけど、ロング副団長の気遣いが嬉しい。
「あ、あの、ありがとうございました。城から連れだしてくれたんですよね?」
「いずれはと思っていたので、お礼はいらないですよ」
「いずれ?」
ロング副団長は「えぇ、そうです」ときっぱり言いきった。
逃走させてくれようとしていたのかな?
ロング副団長が椅子を引き、座るように促してきたので、私は静かに座った。
改めて周りを見渡すと、見慣れない部屋の様子が目に入る。
この部屋は木造の建物みたいで、質素で素朴な雰囲気の狭い部屋だ。
部屋にはベッドが2台あり、端にはテーブルと2客の椅子が置かれているだけ。
テーブルの上には、あの監視魔法がかけられたピアスが置かれていて、その赤い石は粉々になっている。
「ピアス壊してくれたんだ……よかった」
少しホッとした。
これで私の居場所がわからないから城に連れ戻されることはないよね。
それにしても、この場所は城の部屋とはまるで違う、素朴で質素な空間だった。
「ここは……どこですか? あ、あれからどうなりました? か、神斗君は? 今日は、えと、いつですか? 私ーー」
疑問が次々と溢れ出し、口から止めどなく言葉が出てきた。
ロング副団長は向かいの椅子に腰を下ろし、静かに紙袋から紫色のフルーツを取り出した。
「ここは、王都外れの宿屋です」
落ち着いた声で答えてくれる。
ロング副団長はどこからともなくダガーを取り出し、器用な手つきでフルーツの皮を剥いていく。
そして、「リンゴは、胃に優しいので食べられると思います」と優しく微笑みながら差し出した。
「リンゴ?」
皮が紫色だった差し出されたリンゴと呼ばれるものを口に入れて、ゆっくりと噛んでみる。
シャク。
うん、これは間違いなくリンゴだ、フルーツだ。
心地よい音が口の中に響く。
王城で食べていたフルーツは日本と同じ見た目だったので、見たことのない色のリンゴがあるなんて考えたこともなかった。
やはりここは異世界なんだと、改めて実感する。
スーーッと控えめな甘さが体に染み渡る。
「あのあと、私は君を抱えて混乱に紛れて城を出ました」
「神斗君は!? 私は気を失ってしまったんだもん、神斗君もきっと!」
神斗君も、目の前で人が殺されるなんて初めての経験だったはず。
同じように気を失ってしまったり、恐怖で動けなくなってしまったりすることは十分にありうる。
「……神斗さん……彼には、私についてくるように言いましたが、途中ではぐれてしまったのか、彼の姿が見えませんでした」
「え……」
神斗君とはぐれてしまったーー。
その事実が胸に重くのしかかる。
この部屋に神斗君がいないのは、別の部屋で休んでいるのかもしれないと無理やり思い込んでいる自分がどこかにいた。
いや、ただそう思いたいだけだったのかもしれない。
それでも、神斗君は私と違ってしっかり動けているという事実は朗報だ。
彼は無事に逃げられたのだろうか?
昨日の悪夢が頭をよぎる。
ギロチン台の下に無惨に転がっていた神斗君の頭部が鮮明に浮かぶ。
どうしよう……。
絶望感が押し寄せる。
「もし、神斗君がなんかの罪を着せられたらーー」
「大丈夫ですよ。勇者の力は誰もが欲しいものですから、罪を着せることにはならないはずです。それに第1王子が反旗したと知れ渡っていますから」
ロング副団長は落ち着いた声で言い、安心させようとする。
その言葉を聞いて、悪夢のようなことはないと少し安心した。
「ヴィヴィオラ」
自分の名前を呼ばれると、まるで心臓が跳ねるような感覚が広がった。
低音ボイスが心の奥底まで響く。
なぜ?
なぜこんなにも心が揺さぶられるのだろう?
胸を抑え、心臓の鼓動を感じながら深呼吸をする。
「ヴィヴィオラ、大丈夫ですか?」
「は、はい」
「神斗さんが、城にいるという話は流れていないです」
ロング副団長から追加のリンゴを渡される。
意外にもリンゴを問題なく食べられている自分にビックリする。
「謁見の間には、騎士が私と騎士団長、そして他の副団長しかいませんでした。あの場にいた貴族たちが一斉に逃げまどい、一つしかない出入口に殺到したため、広間の外で待機していた騎士たちは謁見の間に辿り着くことができなかったはずです。その混乱により、何が起こったのかを把握するのにかなりの時間がかかったでしょう。そのため、彼は城から無事に逃げ切ることができたのではないでしょうか」
神斗君が無事に逃げられた確率が高いというのなら嬉しい。
「逃げられているなら嬉しい! 神斗君を探さないと!」
「本当に二人で逃げるつもりだったんですね」
「うん、まぁ……色々事情があって……。そうです」
私は少しばつが悪そうに答えた。
ロング副団長は、悲しげな瞳でじっと私を見つめてくる。
いや、だって、こんなことは言えないじゃない……。
この国の要職についている人に、そんなことを打ち明けるなんて!
「なんか、ごめんなさい……色々、良くしてもらったのに……」
「もう秘密はなしですよ」
「はーい……」
秘密って一体、どこまでのことなんだろう……。
話を戻すと、騎士団長と他の副団長は、腰を抜かし倒れていたので指示を出せる状況ではなかった。
その中でも、騎士団長は、名誉職として貴族が就いているだけで、実際には声を出すことすらままならなかったらしい。
私は「へっぽこ団長達に感謝だね」と皮肉混じりに笑いながら冗談を言った。
ロング副団長が「へ、っぽこ?」と驚いた顔で聞き返した。
ロング副団長は、くしゃっと笑顔を見せた。
「ンフフッ、お飾りにこんなに感謝したことはありませんよ。実際、私たちも貴族の方々に紛れて、あっさりと城の外に出ることができましたので」
ロング副団長は楽しげに笑った。
ごった返す馬車の列の中で、城門を警備する門番たちも混乱の中、どうすることもできず、次々と通過させていたらしい。
門番のロベルトさんが当番じゃなければいいけど、と心の中で祈る。
それなら、本当に神斗君は無事に逃げ切れたかもしれないと思い、少しホッとして胸を撫で下ろした。
そういえば、神斗君が「そうだ、王都を出たら冒険者が集まる場所があるんだ。何かあったらそこで集まろう」と言っていたことをふと思いだした。
「何か気になることありますか?」
「……認定式の最中に神斗君から何かあったら集まる場所を教えてもらったから、そこに行きたい。行きたいです」
「それはどこですか?」
「えぇとぉ……。『王都でたら冒険者が集まる所があるんだ』って。わかります? それだけなの、神斗君が言っていたのは」
ロング副団長はふむと考え、「多分ですが、神斗君さんの訓練事情から南の野営場でしょう」と答えた。
「南の野営場……。私はそこに行く。待っているかもしれないから。ロング副団長! 王都から出る方法教えてください」
「一人で行くつもりですか? 私も一緒に行きますよ」
「お城から連れてきてもらって、更に王都外までは流石に迷惑だし・・…」
ロング副団長は魔人族であっても、この国の騎士で副団長という地位にあるし……。
流石にこれ以上、巻き込むのは申し訳ない。
「私も元々この国を出て旅をするつもりですから。それに一人だと迷子になりますよ? この前もまったく違う方向へ歩いて行ったでしょう?」
グハッ!
スライム討伐の集合場所がわからなくて、クルクル同じ場所を無駄に歩き回っていたところを保護されたんだった。
ニヤニヤと笑いながら後ろをついてくるジェイクさんを思い出した。
「お言葉に甘えます……」
ロング副団長が静かに水の入ったコップを手渡してくれる。
今日は水が甘くない、水は普通の味がする……昨日の水は一体何だったのだろう。
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