第33話 気絶していたみたい
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曇り空が広がり、重たい雲が空を覆いつくす。
鉄さびのような匂いが微かに鼻孔を刺激し、胸の奥から込み上げるような気持ち悪さが広がった。
民衆が広場最奥部の処刑場に集まり、次の処刑者が現れるのを今か今かと待ちわびている。
目には悲哀と期待と興奮が入り混じり、ざわめきが広場全体に広がっている。
「魔人族ヴィヴィオラ、お前は国王陛下を暗殺した反逆者の共犯者と認定される。よって、法の裁きにより、ギロチンによる斬首刑および晒し刑に処すことをここに宣告する」
宰相が新しい国王ジルベルトと共に民衆の前に立ち、厳粛な表情で沙汰を述べた。
ヒートアップした民衆からの怒号が地響きのように響き渡り、広場全体が揺れる。
「魔人族なんかを保護するから、心優しい王様が命を落としたんだ!」
「何よ、あの不吉な色の髪は。見ただけで呪われそうだわ」
「前のやつと一緒にこの国を陥れようとしたんだ!」
怒りに満ちた声が群衆の中から上がった。
投げられた石が次々と私の身体を襲い、痛みと屈辱が押し寄せる。
「痛い! 痛い! いたい! やめて! やめて! いやーー!」
両脇を固める兵士に無理やり引きずられるようにして階段を上らされ、ギロチン台に前に押し立てられた。
涙が止めどなく流れ、頬を伝って落ちる。
声が枯れてしまい、喉が痛むほど叫び続け、その痛みが体全体に響く。
「私じゃない! その人! その王様が!」
群衆の罵声で私の声は完全にかき消される。
叫んだところで誰にも伝わらないという絶望感が胸を締め付ける。
赤い血を纏った鈍い刃がジリジリと定位置に収まろうとする中、私は強引に首を溝に押し付けられ、上から重い拘束板がはめられる。
目の前には、先に処刑された勇者神斗君の首の無い身体が無惨にも転がっていた。
神斗君の頭部は鉄の晒し台の上に置かれている。
手には手錠をかけられ身動きができない。
「どうして……。なんで!!!!!? こんな事になるために! この世界に!!!! 虎さま!! 助けて!! ラッキー全振りって!?」
執行人である宰相が冷酷な表情で手を振り上げた。
「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
突き刺すような「いやぁぁぁぁぁぁあ」と叫び声を上げてガバッと跳ね起きる。
ゲホ、ゲホ、ゲホッと咳き込み、胸の奥から絞り出すような咳が止まらない。
「大丈夫ですか?」
心配そうな声が耳に届くと同時に、強い力でしっかりと抱き留められた。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返し、胸が苦しく、息を整えるのが難しい。
震えが止まらない……。
全身が小刻みに震え、冷や汗が滲む。
震える手で自分の首に触れると、冷たい指先が現実感を取り戻させる。
「い、生きてる……」
「えぇ。生きてます。大丈夫ですよ。少し気を失っていただけです」
「気を失っていただけ……、あのギロチンは夢……」
自分の声が震え、かすれて聞こえる。
私、人が殺されたところを初めてみたんだ。
目の前で繰り広げられた惨劇が脳裏に焼き付いて離れない。
日常的に剣とか武器を持つということは、人を殺める事も日常的に行われる可能性があるんだと思い知った。
もちろん、現実に剣で刺されたり、誰かを殺したりすることがどれほど恐ろしいことかは理解している。
でも、心のどこかでは小説やRPGのような非現実的な感覚が残っていて、現実の重みを軽く考えていたんだ。
「ロング副団長……」
「ここは城じゃないです。大丈夫ですよ」
声が震え、涙がこぼれ落ちる。
抱き留めてくれていたのはロング副団長だった。
温かい手が背中を優しく支え、その温もりが安心感を広げていく。
あれ、声? 誰の声? 混乱する頭の中で声の主を探し、この口から声が発せられたのかとロング副団長の顔を見上げる。
「ロング副団長、声が……」
ロング副団長は静かに頷く。
私の目を見つめながら、安心させるような表情を浮かべ「少し待って」と立ち上がり、ベッドわきに置いてある水差しから水を注ぎ、優しく渡してくれた。
ほんのり甘い水……のような気がした。
喉を潤すと、少しだけ気持ちが落ち着き、心のざわめきが和らいだ。
ボ――っと、コップの中の水面を眺める。
あれは夢だったのか
王都に出かけたときにギロチン台の話を聞いたから……。
だから、神斗君も無事ーー。
「か、神斗君! 神斗君はどこに!?」
ランプの明かりでも十分に部屋の隅まで照らせるぐらいの狭い部屋。
必死に部屋を見回しても、どこにも神斗君の姿は見当たらなかった。
ランプの揺らめきが焦りと不安を助長し、胸を締め付ける。
いない!
どこにもいない!
小さな板窓から微かに見える外が暗さがわかった。
夜?
いつの夜!?
「一緒に逃げようって言ってたのに!! 私、そんなに気を失ってたの!?」
ロング副団長は少し驚いた表情を浮かべて、私を見つめている。
「そんな事を決めていたのですね」
ロング副団長は静かに言い、少し眉をひそめ、その目には切なさそうな感情が宿っていた。
あっ! 逃走の事は二人だけの秘密だった……。
でも、そんな事はもうどうでもいい。
今は神斗君の安否が何よりも気がかりだった。
あの第1王子が剣を渡すふりして剣を振り、神斗君が剣を避けたところまではしっかり覚えている。
その瞬間がまるでスローモーションのように脳裏に焼き付いている。
そして、王様の頭部が転がってきた。
あのあとどうなったのかーー、その記憶が途切れているのが怖い。
コップを持つ手がカタカタと震えだした。
「今日はひとまず、眠りましょう」
「でも!!」
「明日、色々答えてあげます。今は寝ましょう。いいですね」
再び優しい声が耳に届く。
額におやすみのキスをされ、優しさが心の傷を少しだけ癒してくれる。
怖いから眠りたくないって言いたかったけど、なぜか瞼が重くなり、目が自然と閉じていった。
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