表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/113

第29話 勇者認定式と出立式

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

改行などで見辛くなる時はビューワー設定の調節してください

 大勢の貴族と思われる人々が集まる中、豪華な衣装に身を包んだ宰相が声を張り上げた。


「これより、レンギア王国悲願の国家統一の為に異世界から呼びし勇者殿の認定式および出立式を行う」


 先ほどまでおしゃべりしていた貴族の口が閉じた。

 一瞬で緊張感が広がり、皆の視線が一点に集まる。

 華やかな装飾が施された大広間は、まるで時間が止まったかのように静まり返った。

 出立式だと?

 いやぁ、そうかもなと思っていたけど、でも流石にね、こんな大事な式典を主役が何にも知らないなんてあり得ないとも思っていた。

 

「ヴィヴィオラさん、これってマジかな? このまま城出る感じだと思う?」

「まさか! でも一応地図は持ってきたよ。ノートも。あっ、インクとペン忘れた……」

「準備がいいね。バッグがパンパンだ」

「これが小さいだけだよ。一応ね、先ほどの残りのHP回復ポーションも入れてある。これは、神斗君が持っていて。流石に終わったら部屋に戻れるよね?」

「このまま城を追い出されたら笑えるよ。そうだ、王都を出たら冒険者が集まる場所があるんだ。何かあったらそこで集まろう」

「やだぁ~、バラバラになることなんてある?」


 式典だけだって信じてる。

 でも、本当に何が起きるかなんて分からない。

 そんなわけないよねと互いにうなずき合う。


「宰相の言っている勇者殿の認定式って神斗君の事だけだったら、私、裾にはけていい?」

「えぇ? 置いてかないでくださいよ」


 宰相が小難しい事をまだ言い続けているが耳に入らない。


「これで国がうまく回るのが不思議で仕方がないよね……」

「自分たちのことしか考えていないからじゃないですかね。あと聞きました? もう、大っぴらに国家統一とか大陸統一とか言ってますよ」


 そうだ、魔王討伐の一言もないじゃない!

 国家統一とか大陸統一となると大規模な軍事遠征になるんじゃない?

 途中で逃げれるのだろうかと心配になってきた。

 目を前に向けると、王様の斜め後ろに立膝で顔を床に向けているロング副団長がいる。

 私は居てもいなくてもって感じなのかもしれないけど、ロング副団長は酷い扱いを受けている、いや、どっちもどっちか。

 騎士団長や、他の副団長は立っているのに酷いよ。


「魔人族は自分達より下だという見せしめなのかな」

「やだーー。そんな国の為に頑張りたくない……頑張らないけど」


 今度は多くの神官を引き連れてツトムさんと神官長が、さきほど宰相が立っていた所に姿を現した。

 ツトムさんは、こちらに向けて親しげに手を振ってくる。

 私かな? と思って手を振り返そうとすると、神斗君がすかさず「ダメだよ」と優しく制止してきた。

 まるで背中に目があるようだね。


「断りの手紙は?」

「あ? え? 書きました!」


 そんなやり取りしていたら神官からツトムさんが黄金の水差しを受け取ると神官長に渡す。


「このリレーになんの意味があるんだ」

「多分、箔を付けだよ。ほらツトムさんってジョブ聖者でしょ。多分、そんな感じだよ。多分ね。多分だよ?」

「ヴィヴィオラさん、多分付きすぎだよ」


 両指10本にゴテゴテと宝石がついた指輪をはめた高齢の神官長が黄金の水差しを高く掲げ、なにやら祈祷を捧げ始めた。

 祈祷文が長々と続く。

 神官長の腕が次第にプルプルと震え始め、水差しから水がこぼれだす。

 

「くぅぅーー」


 真剣な場面であるにも関わらず、床がビシャビシャに濡れているのを見て、流石に笑いを堪えられない。

 そんな私の様子に気付いた神斗君が、小声で囁いてくる。

 

「ヴィヴィオラさん、しっかりしてください。声が漏れてますよ。ンフッフッ、クッ」


 そういう神斗君も笑ってるじゃない。

 また、ビシャと床に水が零れる。

 あぁ、駄目だ、もうほぼ、水がないんじゃないの?

 ちなみにお貴族さまも笑いを堪えられていなかったのでセーフ。

 ようやく祈祷が終わると黄金と宝石でデコレーションされた盃に水を注ぎ入れた。

 いや、注ぎ入れるほどの量はなくてね、フフフ。

 彼ら曰く、聖水らしい。

 欲にまみれた聖水…すぎない?

 聖職者であんなに宝石つけているなんて、なかなかの宗教搾取があるに違いないよ。

 その聖水を勇者に飲めと目の前に持ってきた。

 神斗君はこちらをチラッと助けてほしそうな目を向けてきた。

 

「飲みたくない……」

「覚悟を決めるんだ……フフ……」

「あぁぁ……」

「スッっと飲み干してよ……フフ」


 いや、この雰囲気どうにもできないよ、ごめん……。

 神斗君は無言で聖水? をちょびっと飲んだみたい。

 神官長は聖水に口をつけたのを確認してすぐに宣言した。

 

「聖なる祝福を授かりし者なり。これより、女神の加護と共に戦う」


 場は一瞬で華やかさと熱気に包まれた。

 貴族たちがこぞって拍手を送り、その熱狂が広間に広がっていく。


「すごい……本当に力がみなぎってくる感じがする」

「ほんとに!?」

「嘘です」


 神斗君はからかうような冗談を言って、お茶目に笑った。

 その姿に、思わず笑ってしまった。


 そして、王様がゆっくりと椅子から立ち上がり、威厳たっぷりに上段から降りてきた

 その横には、仰々しくビロードの生地に包まれた剣を持つ侍従が控えている。

 王様は、その剣を雑につかむと仰々しく頭上にかかげた。


「この剣は、わが王国に伝わる勇者にたくす聖剣、聖封の剣。ま、つまりは、これを持つ勇者殿には頑張っていただきたい、ということじゃな!」


 宰相に比べて、軽い軽い宣言を行う王様。

 あれが聖剣みたいなものか……。

 なんか普通に見えるけど、実際すごいのかな

 勇者である神斗君の少し斜め後ろ隣にいるけれど、私は今のところいるだけの蚊帳の外感がすごい。

 まるで勇者の従者に見られているみたい。

 この式典も、もはや他人事のように楽しんでいる自分がいる。


「神斗君、あの剣、本当にすごいのかな?」


 私は神斗君に小声で囁く。

 彼は一瞬だけ視線をこちらに向け、聖剣を凝視はじめた。

 何か思うことがあるのか、「……あの剣、まさか」と神斗君が言う。

 

「まさか? あの剣が何か知ってるの?」

「確信はもてないけど、後で話すよ」

 

 神斗君の表情はいつになく真剣で怒りさえも感じられた。

 そんな中、王様は聖剣を勇者神斗に渡そうと近づいてきた。


「少し、お待ちください、国王陛下!」

「なんじゃ、ジルベルト……」

「彼、勇者は我が第1騎士団の者。わたくしが聖剣を授けたく思います」

「あぁ、そうじゃな。まぁ、この剣、誰が渡してもよかろうて」


 王様は、第一王子に聖剣を渡した。

 そして、よぼよぼとした足取りで、ゆっくりと王座へ階段を上り始める。


「ええぇ? そんなものなの? 勇者の聖剣だよ?」

「そんな程度の剣なのかもしれませんね」


 確かに、いつも神斗君が持っている剣と遜色ないけど。

 剣の良し悪しはわからないや。

 まぁ、王様より第一王子と勇者の方が絵になるからこれでよかったんじゃない。

 その聖剣を先ほどから食い入るようにと見た神斗君は舌打ちした。


「……チッ!」


 んんん? どうしたの神斗君!

 舌打ちするようなことあった?

 今まで一回もこんなに感情を現わして怒ったことがなかったのに「本当にどうしようもない国だな」と。

 

 第一王子が堂々とした立ち姿で神斗君の前に立ち、重々しい雰囲気を漂わせながら聖剣を授けようとした。

 神斗君は、怒りを封印して冷静に対応してるようだった。

 周囲の者たちが息を飲んで見守る中、その聖剣を神斗君が受け取ろうと両手を伸ばす。

 神斗君の手のひらに置かれる瞬間、第一王子がニヤリと笑い、薄らと邪気が感じられる表情を見せる。


「すまぬな」


 第一王子の感情のこもっていない冷たい声が響いた。

 その声には一片の同情もなく、まるで人形に話しかけるかのような無機質さがあった。

 その刹那、剣の刃がキラッときらめき、鋭い音を立てて風を切った。

 

「ーークッ!」


 間一髪の所で仰け反って刃を避ける神斗君。


「神斗クンーーッ!!」


 神斗君は即座に一歩後退し、剣から距離を取る。

 危なかったーー。

 その刃、その剣をもったままの第一王子が翻りながら、剣をそのままなぎった。

 ザシュッ!!

 鋭い音と共に、閃光のような鋭さで剣が振ったあとは、赤い血が宙に舞い上がった。

 階段を上り途中の首のない身体から、まるで呼吸をするように絶え間なく血が吹き出る。

 その瞬間、けたたましい悲鳴が室内に響き渡り、恐怖と混乱が一気に広がった。

 騎士団長や副団長はその光景に腰を抜かし、倒れてしまっている。

 第一王子の突然すぎる行動に、誰一人として止めることができず、ただ呆然と見守るしかなかった。

 

「何がーーーー」

 

 初めて目の前で人間が殺されたのを見た。

 何が起こったのかは確かに目の前で見たはずなのに、頭が混乱して働かない。

 目の前が赤く染まるような気がした。

 恐怖が全身を包み込み、息が詰まるような感覚に襲われ、体が硬直して動けなくなる。

 ゴロゴロゴロゴロ…トン。

 階段を下りてきた何かが、立膝をしていた私の足に触れて止まった。

 恐る恐る目線をゆっくりとそれに向ける。

 それは、今の今までこの王国のトップに君臨していた者の頭部だった。


「アッ……ア、ヒァッ……」

「「ヴィヴィオラ!」」


 焦燥の声が耳に入ったが、すぐに意識が遠のいた。

 その直前、誰かが強引に目を覆い、その瞬間、私は全ての記憶を手放し、無意識の世界へと沈んでいった。

【★大切なお願い★】

こんにちは、配信者のヴィオレッタです。

最後まで目を通していただきありがとうございます。


少しでも

「また読んでやるか」

と思っていただけましたら、


広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。


最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ