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002 星の管理者の虎さま

※□※※□※※□※1行×32文字で執筆中※□※※□※※□※

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「うわぁ! 眩しぃぃぃ! あつぅぅぅ……、……?、…………??」


 目を閉じていても瞼の裏からもわかる強烈な光が和らいできた。

 恐る恐る、そっと目を開けた。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………えっと、白いな……。

 私は何度もぱちぱちと瞬きをした。

 さっきまで確かにコンビニエンスストアにいたはずなんだけどな。

 目の前には、まるで絵本の中から抜け出してきたような、幻想的な庭園が広がっていた。

 けれど、その庭園にある花も生垣も噴水も芝生も東屋も――すべてが真珠のような光沢を帯びた、温かみのある白で統一されていて、不思議と怖さはなく、ただただ美しかった。

 それにしても……とにかく、すべてがデカい。

 一つ一つが異様に大きくて、圧倒される。

 目の前の椅子なんて、座るどころか、よじ登ることもできなさそうな大きさだ。


「誰の椅子だ!」


 だが、返事はない。

 ツッコミは空に吸い込まれ、むなしく響くだけだった。


「それにしても、ここって……どこ? 少なくとも、私の体は……ある、っぽいな」


 両手でペタペタと頭、顔から上半身まで一通りさわって確認をした。

 ちょっと頬もつねってみて感覚があることにホッとし、目線を下に向けて足があることも視認した。


「生きてる……よね? んん? いや、でもこれって死んでる?」


 白い、私の肌が。

 ここにある白い世界のものと同じ色をしている。

 それにしても、あの瞬間に走った光――あれはいったい何だったのだろう?

 閃光といえばいいのか、視界を焼き尽くすような強烈な光だった。

 目の前にいたあの女子高校生や冷蔵ケース、雑誌ラックなどの物すべてが、一瞬にして見えなくなるほどの強烈な光。

 それに続いて、爆風なのか熱風なのか、何か得体の知れない力が空間を引き裂くように吹き荒れた……ような。

 初めての経験でわからない、これが正しい感想。


「じゃあ、なんかわからないけど死んでしまって天国なのかな? うわぁ、死んでしまったかぁ。う~ん……」


 少なくとも、身体に痛みはなかった。

 それだけでも、少しだけ救われた気がした。

 ただ、一瞬だけ肌を焼く熱を感じたけど。

 やっぱり死んだと考えてしまう要因はこの白い世界。

 どう見ても、現実的な場所じゃないんだもの。

 

 うん。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………もうそろそろ、声がかかるんじゃない?

 

 ……………………神様の前へ天使が連れて行ってくれるとか?

 

 …………………………もしかして私、忘れられてるんじゃないよね?

 ずっとこの場所で一人なんておかしくなりそうと思うと同時に声を張り上げた。


「あ、あのー! だ、誰かぁー! いませんかー!! すいませーん!!!」



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 目の前の噴水から流れ落ちる滝のような水も白い。


「はぁ……何もかも、まっしろ」


 どれだけの時間が経ったんだろう。

 しばらく、助けを求めながらこの庭園を歩いていたけど、動いているものは噴水の音のしない水だけ。

 人もいない、動物もいない、風もない、気配すらない。ない、ない、ない!


「どうしよう……」


 白く柔らかな芝生の上に腰を下ろし、手のひらで葉の先をクルクルと撫でていた。

 その時、スッと光が遮られ、周囲が一瞬だけ暗くなった。

 影が差したことに驚いて顔を上げると、そこには――黄金の毛並みを持つ、堂々たる虎が静かに立っていた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「お待たせして――」

「トラっ! 虎! えっ虎? とらぁ……? ……人? いや虎だわ! でっかっ……」


 目の前のそれは、普通の動物園でみるような虎ではなかった。

 その虎は、堂々とした姿勢で人間のように二本足で立っている。


「もふもふだぁ~」

「モフモフですか?」


 虎の毛皮は黄金よりも淡い金色で、柔らかく輝いていた。

 だがその瞳は鋭く、キロッとこちらを射抜くように見つめてきた。

 おっと……心の声が漏れてた。

 危うく「クンカクンカしたい」なんて言うところだった。

 私の身長が157センチ。

 だけど目の前の虎は、ざっと20メートルほどの身長はありそう。

 この虎は、きっと待ちに待った神様か天使様に違いない。

 服装もそれっぽい!

 片肩から足首まで流れるように垂れた白い布――まるで神官のローブのようなドレープを、腰のベルトひとつでゆるく留めていた。


「ようやく目覚めましたね。……あなたで最後ですね」


 響く声が頭上から降り注いでくる。

 さっきまで鋭く見つめていたはずの瞳が、今はどこかオロオロと揺れているように見える。

 ふと気づくと、視界がにじんでいた。


「あぁ、申し訳ない。泣かないでください」


 あぁ……私、泣いていたんだ。

 理解すると「う……ぅっ……」と嗚咽もでてくる。


「なん、か……ホッと、したみたいでぇ……うぅ……最、後って……どういうことですか……?」


 震える視線で周囲を見回してみるけれど、そこにいるのは私と、この巨大な虎だけだった。

 渡されたバカでかいハンカチと思われる布で涙拭き、思いっきり鼻をズビィィっとかむ。

 

「それにしても……あなたはあまり驚かないのですね、この姿に」

「えぇ? 姿ですか? まぁ、でも、少しは驚きました……よ。だって、だって、現実にはいませんから!」


 20メートル上に顔に向かって、震える声でも頑張って大声を張る。

 私は、バーチャルな猫耳女性・猫獣人の動くイラスト、アバターで配信していた。

 獣の顔をした人間、完全に動物な姿、エルフやヴァンパイア、エイリアンまで――配信業界では、なりたい姿になれるのが当たり前だった。

 だから、こういう非現実的な容姿には、ある程度慣れてるからかも。

 今はVR(バーチャルリアリティ)とか没入型だとなおさら。

 虎は「フム」と小さく唸りながら、目を細めた。

 笑ってる……のかな? 大きな猫みたい……。


「あ、あの……あなたは、神さまですか?」

「いいえ、違いますよ。私は〖星の管理者〗です」

「星の……管理者?」


 虎は、私の声がちゃんと届いているから、大声で話さなくてもいいと優しく教えてくれた。

 大声過ぎたのかな? ごめんなさい。

 彼の声は低く、落ち着いていて、どこか包み込むような響きがある。

 たぶん、男性……だと思う。

 いや、虎だけど。


「私は〖ケルンジリア〗という星を管理しています」

「ケルン……ですか?」

「ケルンジリアです……」


 虎は、ほんの少しだけ悲しそうに言った。


「すいません。聞きなれない名前で……」

「いえ、大丈夫ですよ」


 虎さまは、外見は虎なので威圧的な感じもするけど、話し方はどこまでも丁寧で紳士だ。

 虎さまは、ケルンジリアという星の管理者らしい。

 なんとなく心の中では「虎さま」と様付けで呼ぶことにした。

 神という存在は別にいて、どうやら星を生み出しては壊す――創造と破壊だけを繰り返す存在らしい。

 私の思っている神さまとは違うな!


「今回、私の星ケルンジリアで、人族が召喚の儀式を行いまして……」


 涙を拭き終えた大きなハンカチを虎さまに返す。

 虎さまは丁寧に受け取って、静かに頷いた。


「ここは、その召喚によって呼ばれてしまった方に、まあ……お詫びをするための空間なのです」

「召喚? お詫び……ですか? え、え、え? 何?」


 突然、目の前の空間が揺らぎ、そこにふわりと浮かぶ光の玉が現れた。

 淡く脈打つような輝きを放ちながら、ゆっくりと形を変え、つややかな光沢を帯びた羊皮紙へと変化していく。

 驚きつつも反射神経でしっかりと手で受け取った。

 羊皮紙の表面には、まるで呪文のようにびっしりと文字が刻まれていた。

 その文字は見たこともない異国の文字なのに、なぜか意味がすっと頭に入ってくる。

 地球の文字で例えるなら、ルーン文字に近い。

 直線的で無駄のない、質実剛健な印象の文字が整然と並んでいる。

 よく見ると、書かれている文字の中には、かすかに光を放つものと、影のように沈んだものが混在していた。


 

「こちらから、なりたいジョブを選んでください」

「なりたいジョブ? ああ、つまり職業ってことですか?」


 虎さまは静かに頷く。


「ケルンジリアでは、能力を持たずに生きるには辛い環境なのです。ですので、召喚された方へのお詫びとして、特別に能力を付与させていただこうと」

「辛い環境……そうなんですね。勇者、聖者、聖女、拳聖、賢者、剣聖。光っているところは魔剣士、狂戦士、神官、商人、学者……って、凄い種類!」


 RPGロールプレイングゲームでおなじみの強ジョブ――勇者や賢者など――の文字は、ほとんどが光を失って暗く沈んでいた。

 一方で、光を放っているジョブは数十種類もある。

 この中から選ぶってことか……。


「申し訳ありませんが……暗く表示されているジョブは選択できません。影響力の強いジョブは、この世界では一人しか存在できない決まりなのです」


 そういえば[勇者100人いる世界]という小説があった気もする。

 勇者100人で魔王を瞬殺して、最後は世界のバランスが崩れて滅びていく――そんな皮肉な結末だった。

 船頭がたくさんいるのは良くない。


「なるほど~、確かに勇者が100人いたら困りますもんね、多分?」


 つまり、ここでジョブを選んで、そのままケルンジリアという星に召喚されるってことかぁ……まるでゲームのキャラメイク画面みたい。

 ゲームの中でよく見るジョブから察した。

 ケルンジリアという星は、どうやらゲームや小説に出てくるようなファンタジー世界らしい。

 星の進化は、管理者によってある程度方向性が決められるらしく、科学がここまで発展した地球みたいな星は、宇宙の中でもかなりレアケースなんだって。

 地球は他星のお手本になるほど完成度が高く素晴らしい星みたいで、今回は地球への恩返しの為の召喚らしい。

 地球って、そんなに優秀だったんだ……!

 でも、ケルンジリアが地球に恩返しをするっていう話、なぜそれが召喚に繋がるかわからない。


「ケルンジリアは、剣と魔法、それに魔物がうろつく、まあまあ普通の世界です。最近、アース……つまり地球でよくある召喚ですから――」


 やっぱり、魔物がいるっ!

 それに!


「いやいやいやいや、『よくある召喚』って何ですか!? あれは物語の中だけでしょう? 確かに最近は、転生とか異世界とか小説多いですけど。ちょっと現実逃避の為の娯楽ですよ」


 虎さまは首をかしげる。

 大きな虎が「う~ん、おかしいな?」と考えているようで可愛い。

 ……いやいや、可愛いとか言ってる場合じゃない。

 確かに、虎が首をかしげている姿は可愛い。

 猫だったら最高なのに!

 ……違う違う、今考えるべきなのはそこじゃない。

 平和な日常にどっぷり浸かってる日本人の私が、剣と魔法と魔物がうろつく世界で本当に生きていけるの?

 しかも、やりたいことをできている今の状況を捨てて。

 

「えっと……ちょっと考えたのですが、私、その星に行きたくないです」


 だって、最近ようやく配信者として配信が楽しくなってきたし、収益化したのをリスナーが喜んでくれた。

 もっともっと、配信活動を続けたい!

 あの空間が、私にとっての居場所なんだから。

 それに、召喚ってことは……まだ死んでないってことだよね?

 だったら、元の世界に帰れるはず!


「よくよく考えたら、それが普通の感覚ですよね……」

「他の人は……どうだったのですか?」

「私の星に行く他の4人は嬉々としてジョブを選んで召喚されていきました」


 他の人たち、チャレンジャーだな……。

 なんか私だけが往生際が悪いみたい……。


「配信ができないなら……私は行きません」


 せっかく毎日配信を楽しみにしてくれてるリスナーとのつながりを消したくない。


「『配信』ですか?」

「はい。私、配信者だったので」


 虎さまは腕を組んで目を閉じ、すごく悩んでいる様子だった。


「困りましたね……」

「元の場所に戻すだけですよね?」

「それが……地球のあなたの身体は、木端微塵になってしまったので……」

「こっぱみじん……えっ!?」


 この場所に来る直前、確かに目を焼くような強烈な光と、肌を裂くような熱風を感じた。

 こっぱみじん……。

 木っ端みじん……。

 木端微塵って何!? 私の身体に何が起こってたの?

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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