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108 剣をさがしてダンジョンへ

《テーミガン公国21日目ーケルンジリア69日目ー》


「ダンジョンって何? 洞窟や洞穴と何が違うの?」

「そうですね。誰が作ったかは不明ですが、ダンジョンは人工的に造られた構造物です。しかも、冒険者を惹きつけるように、あちこちに宝箱が配置されているんです」

「「宝箱!!」」

「ハハハ、ダンジョンは珍しいですか?」


 もちろん、珍しい。

 でも珍しくないとも言える。

 ゲームや小説では定番の舞台だから。

 赤い太めの首輪をつけたアストラが、堂々とした足取りでノッシノッシと前を歩いている。

 特に質の悪い冒険者が近寄ってこないのがありがたい。

 アストラの存在が、無言の警告になっているのだろう。


「宝は誰が入れるのか……謎だね」


 誰かが意図的に置いたのか、それともダンジョンそのものが生きていて供給しているのか。

 考えれば考えるほど、現実味が薄れていく。

 で、私たちがいるのはラトバーン辺境伯領のダンジョン前に建てられた、木造の建物。

 冒険者たちの出入りが絶えず、扉の軋む音がひっきりなしに響いている。


「発見されているダンジョンは、ギルドが管理しているわけだ」


 風でなびいている赤い垂れ幕を見上げながら神斗がいう。

 この素朴なギルドの中には、ギルドのカウンターに酒場、簡易宿泊施設と物販が併設している。


「ここのダンジョンは領都にも程よく近くて回りやすいのでしょう。ランクで言えばC。冒険者が多く集まるため、宝箱の争奪戦が起こる可能性があります」

「争奪戦になるのか……」

「最深部の宝箱が開けられてから十日でダンジョンが更新されるので、あと一日みたいですね」


 ボード板には[ダンジョンリセット期間につき、立ち入り禁止]と赤字で書かれていた。


「宝箱の前でジッとしとけば、宝箱開け放題じゃない?」

「ヴィヴィオラ、ズルはよくないよ」

「残念ながらその手は使えないです。最深部の宝箱が開かれ、その宝が外に持ち出しされるとダンジョン内にいた人は強制的に追い出されます」


 そんな簡単にはいかないんだね。

 オンラインゲームのアプデ(アップデート)みたいだ。


「ウィルヘルムさん、経験あるんですか?」

「ええ、一度」

「どんな感じなの?」

「まず、目の前の魔物が溶けてなくなります。それから強烈な眩暈が起こり、気づけばダンジョン入ってすぐの部屋にいます」


 魔物が溶けるって不思議だな。


「なるほど! じゃあ、途中でなんらかの探索ができなくなった冒険者は、影でジーッとしとけば戻れるんだ」

「そうですね。理論上は」

「理論上は?」

「見つからない場所にいるのが前提ですね。食料の残量や怪我の問題もあります。でも一番は人が怖いですね。人が魔物を弱っている人にけしかけるんですよ。そして、殺した後荷物を奪うのです」


 魔物も怖いが、より人の方がよほど恐ろしい。


「殺人し放題だ……」

「え……こわっ……」


 ダンジョンリセットまで、残り一日。

 ラトバーン辺境都で剣を購入しようとしたが、どれも値段の割に質がいまひとつだった。

 だから私たちは、運が良ければ宝箱から『当たりの剣』が出ると聞き、このダンジョンに足を運んだのだ。


「剣に出会う旅は長そうだね~」

「どこで妥協するか……そんな感じですね」


 ウィルもそんな感じで剣を探したのかな。

 ウィルは双剣を愛用している。


「でもさ、聖封の剣みたいな名がついている剣って多分いっぱいあると思うんだ」

「だねだね」

「そういう剣で紛失した剣とか探した方が早そう……」


 神斗は、早く新しい相棒に出会いたいらしい。


「でも、そういう剣って国宝みたいなのでしょ? 売っていても天文学的な値段になるんじゃない?」


 今、私たちの財布はホクホクだ。

 普通に依頼を受けただけでもドンドンお金が溜まるし、あのレンギア王国からは白金貨まで貰った。

 極めつけはゴブリンキングとクイーンの討伐報酬、買取額を聞いたときは思わず耳を疑ったほどだ。

 でも、そんな国宝級の剣を買うとなると破産しちゃう。


「そっか」

「作るという手もありますよ? 良い鍛冶職人に出会えば、2年後には出来上がるかもしれません」

「二年? 短いような長いような。代理の車ならぬ代剣がいるよ」


 でも、その剣もCランク程度はいるんだよね。


「……ヴィヴィオラって車乗ってたの?」

「……車の免許は持ってたよ」

「いいな。俺、車運転したかった……」

「車って何ですか?」

「こっちでいうとっても早い馬車かな?」


 ギルドが運営しているダンジョン行きの馬車に二日間揺られ続け、腰も背中も悲鳴を上げていた私たちは、今日は簡易宿泊施設で一息つくことにした。

 宿泊施設では、大部屋で知らない冒険者たちと雑魚寝するか、個室で仲間だけと雑魚寝するか選べる。

 もちろん、個室は大部屋の倍の値段。

 私たちはほぼ即決で個室を選んだ。

 他人の目を気にせず眠れるだけで、心の緊張がすっとほどける。


「やっぱ、個室は楽だよな~」

「そうですね」


 ウィルはダミーのバッグを壁際に寄せながら相槌を打つ。

 その通りなんだけど……

 五人パーティで使用可能と書かれていたが、実際に入ってみると、思わず「狭っ!」と声が漏れるほどの空間だった。

 雑魚寝用とはいえ、荷物を持っている五人だとかなりの密着でねるんじゃない?


「酒場があったので、夕食は早めに行きましょうか」

「遅いと酔っぱらいが増えるからね」


 絡まれた記憶が蘇って、思わず苦笑いが漏れる。

 酔っぱらいに腕を掴まれて、意味不明な歌を聞かされたのは忘れたくても忘れられない。

 食事を注文した隣で、アストラは、テーブルで角切りの生肉を無言で噛みしめていた。

 赤い首輪が揺れるたび、周囲の視線が一瞬だけ集まる。


「甘かった……」

「キャウウン!」

「確かにダンジョンリセット中はやることないもんな」


 探索も戦闘もできない今、冒険者たちは簡易で出来たこの街で時間を潰すしかない。

 昼間から飲み続けているパーティが数組、すでに顔を赤くして騒いでいた。

 もう、席も満席に近い。

 空いているのは、酔っぱらいの隣しかない。

 ウィルはアストラの皿に角切り肉を追加しながら、ちらりと周囲を見渡して口をひらいた。


「あのパーティは、厄介かもしれませんね」


 ウィルが目線を向けた先には、ひときわ騒がしい集団。

 笑いながらテーブルを叩き、椅子に立って騒いでいる。


「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10人!」

「キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ!」


 アストラも人数に合わせて短く鳴く。

 凄い人数でダンジョンを攻略するんだ。

 私は、毛並みを整えるようにアストラの身体をなでる。

 明日、ダンジョンに入れるというのに、前日から酒場で騒いでいるとは……。


「前回、最深部の宝箱――ダンジョンボスを倒したのは彼ららしいです。それでも1週間かかったそうですから」

「その言い方だと、俺たちは?」

「二日ぐらいでボスを倒せるでしょう」

「それは流石に早くない!?」

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