107 Cランク聖封の剣(レプリカ)の限界
《テーミガン公国6日目ーケルンジリア54日目ー》
「ありがとうございます」
「クルクルゥ。クルクルゥ」
アストラが喉を鳴らしている。
村長宅の居間は、前回と違って静かだった。
窓の外からは子供たちの笑い声が風に乗って聞こえてくる。
宿代がタダになった。
しばらく誰も泊める予定もない(できない)し、村人の食事(主に肉)を提供しているからと。
今は、またまた村長宅にいる。
前にお呼ばれした時は、山賊が扮していた村長だったけど。
「あのお礼なんじゃが……」
「別にいらないですよ。村も荒れちゃってますし、立て直しが必要ですよね?」
ルド村が山賊に襲われてから、2週間が経ってたらしい。
一見すると荒されていなかったように見えていたが、どの家も金目のもの(斧とか鍬とか金属類)、そして食料を奪われ、内部は荒されていたらしい。
「じ、実はじゃ……山賊を警備隊士に引き渡すのに、ザッと見積もって1週間はかかりそうなのじゃ。その間、何かあったらと心配で、護衛を引き受けていただきたいのじゃ」
「なるほど? でも、山賊はあれで全員らしいけど?」
「神斗さん。多分ですが、山賊が何らかの手段でロープを切って逃げた場合、また村が襲われると考えているのではないでしょうか」
「戦える人がいないってことね」
心配はもっともだ。
1山賊 対 5村人程度なら、村人でも応戦できるかもしれないが、現実には子供や女性が多く、戦えないどころか人質になりそうな人が多い。
それに、今度は山賊も容赦はしないだろう。
前回のように、ただ村を追い出すだけではすまないはずだ。
「山賊の報奨金も貰えるはずじゃから、そこからと少しお渡しでいたらと思っておりますじゃ」
村長は帽子を握りしめながら、恐縮したように言った。
「引き受けましょうか、ヴィヴィ、良いですか?」
「うん。いいよ。仕方がないもんね」
「それに急ぐ旅じゃないしな」
ということで、私たちは一週間ルド村に滞在することになった。
村長宅に来る前、村の広場では、壊れた柵を直す大人たちの横で、子供たちが縄跳びをしていた。
私が「意外と元気そうだね」と呟くとウィルが「人は、案外すぐ立ち直るのですよ」と言っていた。
私たちがこの村を出発する頃には、元の村に戻っているだろう。
「そういえばさ、この剣、もう限界かもしれない」
神斗が腰の剣を抜きながら、ぽつりと呟いた。
「どうしたの?」
「ヒビが入った。見て、ここ」
神斗が指先で刃の中央をなぞる。
このCランクの聖封の剣レプリカ、刀身の中央に、髪の毛ほどの細いヒビが走っていた。
目を凝らさないと見えないほどだが、光にかざすと、そこだけ鈍く反射している。
「次の打ち合いで、確実に折れますね」
「斧の一撃が重かった……たぶん、それだと思う」
「ありゃりゃ……領都にいったら探さないといけないね。ってここ、何領なんだっけ?」
神斗は「避ければよかったのかな?」と、それに対してウィルは剣を見ながら「もっとよい材質でしたら、斧の方が砕けます」と。
「ラトバーン辺境伯領ですじゃ。村に鍛冶がおりますので……生活用品が主ですが、仮修理ぐらいはできるはずですじゃ」
村長が申し訳なさそうに言った。
完璧ではないが、応急処置なら可能かもしれない。
「鍛冶屋さんって、どこにいるんですか?」
「村の北側じゃ。川沿いに小さな工房がある。煙突から煙が出ておるからすぐにわかるはずじゃ」
「よし、行ってみよう。新しい剣が見つかるまで保てばいい」
「神斗、剣に名前つけてたっけ?」
「いや、特には……でも、ここに来てからずっと使ったからかな。ちょっと愛着ある」
「じゃあ、仮修理の前にお別れの儀式でもする?」
「しない、しない! そこまでの愛着はない!」
「クルクルゥ」
アストラが笑っているように喉を鳴らした。
私たちは、あのあと鍛冶屋に行き剣の修理はした。
でも、意外と早く、神斗はその聖封の剣レプリカを手放すことになったのだ。
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