102 山賊退治の依頼
「★ランク!?」
村長の驚きは常軌を逸していた。
肩を震わせ、杖を取り落としそうになりながら、信じられないという表情を浮かべていた。
でも、それも無理はない。
辺境の村にとって、★ランクの冒険者は雲の上の存在なのだから。
★ランクの冒険者は、王都や戦場で名を馳せる存在。
こんな田舎に、しかも旅の途中で現れるなど、村長には想像もできなかったのだろう。
「……スゥ……これは……どうかお力をお貸しくださいませぬか?」
村長は深々と頭を下げ、声を震わせながら懇願した。
「あの……」
私は口を開いたが、村長の勢いに圧されて言葉が遮られた。
「本来ならギルドに正式な依頼を出すべきなのですが……我々には、依頼金を用意する余裕すらないのですじゃ……」
村長は悔しそうに拳を握りしめた。
「いや……」
「山賊のアジトには、奴らが我々から奪った金貨がまだ残っているはずなんですじゃ! それで何とか……」
「ちょっと……」
この村長、まったく人の話を聞かないじゃん。
「そこをなんとかお願いしますじゃ。宿も用意しますので」
「いや……、あの……、何があったかまず聞かない事には……」
「何があったか? ……ああ……何があったかと申しますと……えっと、この村から半日ほど山道を進んだ先に、山賊どもの集落があるのですじゃ」
「半日……遠いな……」
神斗が眉をひそめ、少しだけ疲れたように呟いた。
「奴らは、そこから一週間に一度、決まったように村へ強奪に来るのですじゃ」
「儂の子供も……昨日、奴らに連れていかれてしまったのですじゃ……」
村長は目を伏せ、言葉を絞り出すように語った。
「女の子ですか?」
私は思わず聞き返した。
こういう話では、女性が攫われることが多い印象があったから。
「男ですじゃ……42歳ですじゃ……儂の倅ですじゃ……
「そ、そうなんですね」
あ、男性ね……、こういうのは女性がセオリーだから……別に差別したわけじゃないんだからね
「よろしければ倅の嫁にでもいかがですかな?」
「遠慮させてもらいます」
神斗が答える。
「あまり、緊急ではなさそうですね」
ウィルは呆れたようにため息をつき、視線をそらした。
「そんなことはないのですじゃ!」
その必死さが、逆に事態の深刻さを物語っているようだった。
「そうですじゃ! 山賊のアジトは険しい山の中腹にあって……なので、ヴィヴィオラさんだったかの? 女性は宿で休んでもらって、他の方々に退治をお願いしたいのですじゃ」
「まだ、受けるとは言っていないん――」
神斗が口を挟んだ瞬間、言葉の続きを言う暇もなく、村長の声がかぶさってきた。
「宿代タダにしますじゃ!」
「別に、お金には困ってないので……大丈夫です」
「今、宿もおもてなしのできる状況ではないのですじゃ……本当に、申し訳ないのですじゃ」
「宿も山賊が?」
「あ、ええ、そうなのですじゃ……宿屋の家族が、山賊に攫われてしまったのですじゃ」
宿の厨房には、食料も調味料も、食べられそうなものは何一つ残っていなかった。
棚の中は空っぽで、山賊が根こそぎ持ち去ったかのようだった。
床に転がっていた鍋や食器を簡単に片づけした。
食料庫も、各部屋のドアも、すべてが無造作に開け放たれていた。
鍵穴にはこじ開けられたような傷が残り、荒らされた痕跡が生々しく残っていた。
おそらく、山賊が宿屋の家族を攫ったときに、ついでに物色していったのだろう。
「なんかさ、山賊退治してほしいのは分かるけど、押しが強すぎるよな」
神斗は椅子に座ったまま、アストラのお腹を指先で軽くつついていた。
アストラは小さく鳴いて、バンバンと尻尾を机に打ち付けている。
「仕方がないよ。村からすれば天が遣わした救世主って感じなんじゃない?」
「ギャウ! ギャウ!」
アストラが、多分、神斗をあまがみしている、多分……。
「【浄化】!」
宿泊部屋はこぢんまりしていて、ベッドと小さな机があるだけのシンプルなシングルルームだった。
部屋割りは、廊下の端にウィル、その隣が私の部屋、そして一番奥が神斗とアストラの部屋。
自然とこの部屋割に落ち着いた。
久しぶりの一人部屋だぁ!
誰にも気を使わずに過ごせる空間って、こんなに気楽だったっけ?
「うん、これでベッドも綺麗になったと思う」
がすっと消えて、まるで新品みたいに整った。
枕もふかふかで、顔をうずめたくなるほど心地よさそう。
魔法って、やっぱり便利。
全ての部屋を【浄化】できたので自分の部屋に戻る。
「そうですね……村には、もう戦える人が残っていないということなんでしょう」
「山賊退治かぁ……ヴィヴィオラは、ここで待ってた方がいいかもね」
「そのほうがよいでしょう」
気づけば、みんなが当然のように私の部屋に集まっていた。
シングルルームに3人と1匹が集まると、さすがにぎゅうぎゅう。
「じゃあ、アストラと宿にいようかな。……今からすぐに行くの?」
「山賊は、1週間に一度現れるって言ってましたよね。昨日がその日だった」
「そうでしたね。じゃあ今日は、ゆっくり寝ような、アストラ」
神斗はアストラに向かって優しく言い、毛並みを整えるように撫でた。
「ギャウウ」
「私は久しぶり配信しよっかな」
「1時間ですよ」
ウィルが念を押すように言う。
「はーい」
私は軽く手を挙げて返事をした。
ちゃんと守るかどうかは、さておき。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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