101 ルド村
「おお……村だ!」
想像していたような開放的な田舎の風景ではなく、村はしっかりと木の塀で囲まれていて、まるで外敵から身を守るための要塞のようだった。
村の入口には大きな木の門があり、その上には見張り台のような櫓が組まれていた。
その木の門は今は開かれている。
これって……勝手に入ってもいいのかな?
「ヴィヴィ、どうしました?」
「えっと……あの青い珠とか村に入るためにお金払ったりしないのかなって」
「村にはないとか?」
神斗は、アストラを頭の上に乗せて歩いている。
その姿は、まるで子供を肩車しているようで、見ているこちらまでほっこりするような光景だった。
「そうか、古代の遺物だったよね、あの珠」
「そうです。ただ、ダンジョンから頻繁に出てくるので、実はそれほど貴重なものではないんです」
ウィルは少しだけ間をおいてから、続けた。
「おそらく、誰かが壊してしまったか、あるいは売ってしまったか、そんなところでしょう」
「じゃあ、つまり……入り放題ってことだよね!」
いい人も、悪い人も。
少しだけ胸がざわついたけれど、今は宿で寝たい!
ならば、遠慮なく村へ入ろう!
「そこの旅人! 止まれ!」
まだ、私たちは村の外、20メートルのところにいる。
木の塀の影から現れたのは、槍を構えた門番風の男。
彼は私たちを見つけるなり、怒鳴るような声で制止してきた。
「止められた……」
やっぱり、門番はちゃんといた。
門番の手に握られた槍の先端が、わずかにこちらを向いている。
「そこの空を飛んでいるのは……リザードか?」
門番が目を細めて、空を見上げながら問いかけてきた。
「ドラゴンです……」
「ヴィヴィオラ、ここはさ……フロストリザードってことにしとこう?」
門番からは距離があるのに、私たちは小さな声で会話する。
「そこの二人! コソコソ話をするな!」
門番の声がさらに鋭くなり、私たちの会話に割り込んできた。
「近づくな!」
門番が一歩前に出て、鋭く尖った槍の先端が私たちの胸元を狙うように向けられた。
警戒心がむき出しになっている。
ちなみに私たちは、一歩もその場を動いていないので20メートルほど距離はある。
「フロストリザードです!」
私は声を張って答えた。
「フロスト? 聞いたこともない……どこから来た!」
ちょっと!
そんな種類のリザードいないんじゃないのと神斗の方を向く。
「北の方です!」
神斗は自信満々に答える。
「そうなの?」
「ほら、城から南下してきたじゃん? ってことは、出発地点は北ってことで間違いないだろ?」
「そこの旅人! コソコソ話をするなと言っているだろ!」
門番の声が怒気を帯びて、空気がさらに張り詰める。
「どうしたんでしょう? 何かあったのでしょうか?」
「確かにここまで……でも田舎の村って閉鎖的ってよく聞くからこんなもん?」
「日本の田舎? そんなんなの?」
神斗は首をかしげる。
いや、私もそこは想像だけなんだけど……。
「……やっぱり、なんかおかしいだけなのか」
「あの~! 私たち、どうしたらいいですか? 迷惑なら帰ります!」
私は少し声を張って門番に問いかけた。
門番は、何やら少し慌てて。
「手を挙げてこっちこい!」
「そこまでして行く?」
「そうですね……でも、折角などで一応ギルド証を見せてみましょうか」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「すまなかった……。冒険者なんだな。荷物は軽装みたいだが……その……ええと、最近、山賊がでてな」
門番は「一人は★、あとはDとEとリザードか……」とギルド証、タグを読み上げながら返してくる。
「山賊と間違えられた……」
「あ、いや、誤解だ。見知らぬ顔は全員疑っているだけだ。ルド村へようこそ」
門番は慌てて言い直し、少しだけ表情を和らげた。
「……もしよければ、村長の話を聞いてもらえないだろうか?」
私たちは顔を見合わせた。
門番の態度が急に変わったことに、少し戸惑いながらも、何か事情があるのだろうと察した。
この流れなら、どうせ「助けてください」って話になるに決まってる。
ウィルの冒険者ランクは★ランク。
その実力なら、山賊なんて相手にならない。
まるで赤子の手をひねるようなものだ。
急ぐ旅でもないけど、山賊ってことは相手は人間だよね。
人と殺りあうのは――って、別に殺すことが前提でもないか……。
「一つ返事でOK出さないところが、勇者や聖女じゃないんだよね。私」
「俺、勇者ですけど、誰でも助けるなんて思いませんよ?」
そんなもんだよね……。
勇者だって人だもんね……。
「……村長は、今、広場の臨時詰所にいます。山賊の件で、村の警備を強化していて……」
「なるほど。だから、門番もピリピリしてたんですね」
ウィルが静かに言うと、門番は小さく頷いた。
「昨日も、村の外れで家畜が盗まれて……。村人たちも不安がっていて、誰かが来るたびに疑心暗鬼なんです」
「それは……仕方ないかも」
私も、少しだけ門番に同情した。
神斗はアストラを抱え直しながら、ぽつりと呟いた。
「でも、山賊って……人間だけなんですよね?」
「私と神斗さんで対処しましょうか」
ゴブリンに続き、私は蚊帳の外である。
いや、一人だけ蚊帳の内というべきかもしれない。
最後まで目を通していただきありがとうございます。
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